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小説-戯鳥

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カクヨムに小説を置いておいたが、あまりにも人気作品の傾向が自分の作品とは違っていたため、こちらに撤退してきたものと、新たに書いたもの。
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記事一覧

掌編小説|上澄み

掌編小説|上澄み

 私立小学校に通っているらしい。制服を着た、小さな女の子が二人並んで立っていた。東横線の車内。
 およそ低学年としか思えない背丈だった。帽子の紐を首にかけた頭のつむじさえ、はっきりと見おろせるような小人だった。

 ある日、小さな仕事をひとつ終えての帰路。
 吊り革に掴まって、片手に本を抱えてみた。中吊り広告が頭頂部を擦って不快なのは常日頃から同じだった。
 電車内で不意に聞こえてくる他人どうしの

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掌編小説│別離

掌編小説│別離

一 改札前で子供が泣いていた。未就学児程度の身長に見える男児だ。
 マ゛マ゛ァ……マ゛マ゛ァァァああうううああうあおえんうぅぅ……、のような、擬声語化するとともすれば滑稽に見えてしまう、悲痛な叫びだった。
 この目で見た光景は全く笑えるものでもなかった。私が券売機の操作に四苦八苦している十分弱の間、彼は現れることの無い「母親」をずっと喚び続けていたのだ。勿論彼は独りではない。父親らしき人物が彼の肩

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小説│いど

小説│いど

 この話をきみに捧ぐ。未完だけどね。

 妹が死んだのは、四年前だ。冬だった。母親が病死してから、十四年ほど経つ。三年間父は独身でいたが、後妻をとった。
 妹は義母の子だった。父が再婚してからすぐに生まれたので、いわゆるデキ婚だったのだろう。
 妹が死んだのは、我が家に恒例だった、宴会の日だった。大酒飲みの祖父と、その血を受け継ぐ父親と、それから町内の男連中と望めばその嫁とを集めた大宴会を、それを

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小説│天志那罔象 アマノシナミヅハ

小説│天志那罔象 アマノシナミヅハ

 だいぶ昔に書いた作品で詳細はよく覚えてませんが載せておきます。実際の台風はレコードやCDのような縦横比らしいです。

001
 台風。
 熱帯低気圧。
 北西太平洋――東経一〇〇度線から一八〇度経線までの北半球に中心が存在する。
 最大風速秒速一七メートル以上。
 東アジア、東南アジア、ミクロネシアに上陸。
 激しい風雨をもたらし、気象災害を引き起こす。
 例えば、落雷。損壊。洪水。浸水。流出。

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小説?|ブルーハワイ・フロート

小説?|ブルーハワイ・フロート

前置き
 文学的な問題は一切孕んでいません。

本編
 午後一時半の中心業務地区は酷暑と言っても差支えがないほどに大気が煮えていて、アスファルトの照り返しが私の脚をストッキング越しに刺す。何故こうも高層ビルばかり空を埋め尽くすように建っているのか――それは地価が高い以上そうせざるを得ないのだ、そんなことわかってるのに――ただ、これではまるでコンクリートの雑木林と形容せざるを得ない。植林地でもいい。

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掌編小説│愛猫

掌編小説│愛猫

 大学が夏季長期休暇に入る頃、まともにサークルなぞに入っていない俺は、これから訪れるバイトと課題以外虚無しか待ち受けていない夏休みに絶望的な思いを馳せていた。休みを与えられて狂喜乱舞するのは大量消費する財力と社会性とセックスをする相手を持つ「陽キャ」だけで、俺みたいな日陰者は如何に自分の生産性のなさと向き合う時間を減らすかを考えるといったような酷く惨めな裏路地に追い込まれてしまうか、あるいはそのた

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