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矢寺圭太 『ぽんこつポン子』 第7巻 : 誰かのために生きるという〈自由と自立〉

書評:矢寺圭太『ぽんこつポン子』第7巻(ビッグコミックス・小学館サービス)

私は、前第6巻のレビューで、特に印象に残るエピソードとして「第40話」を取り上げて、そこで描かれているものが「拒絶と自立」であると評した。ポン子の「ロボット工学三原則からの自立」、そして、ゆうなの「親からの自立」である。
この「自立」というテーマは、本作「ぽんこつポン子」に一貫して流れるテーマだと言っても、決して過言ではないだろう。

そして、本巻でこのテーマを直接的に扱ったのが、前後編で描かれる「第50話と第51話」である。
亡き主人の残した夢を代わって叶えるべく一人旅を続けるポン子(姉)が、その旅先で出逢った、一人の白人男性型ロボットとのエピソードである。

亡き主人が、生涯のうちで叶えたいと願ったことを記したノートを手に、代わって自分がその夢を叶えようと、全国をバイクで一人旅をしている、ポン子(姉)。これまでのエピソードで描かれたとおり、ポン子(姉)の右目は、なぜか色が違っていて薄い。
「第50、51話」では、ポン子(姉)が、色の違った右目を得るにいたった、その想い出を語った回となっている。

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オートバイで旅するポン子(姉)にとって、目は壊れたままには出来ない重要なパーツなのだが、すでに人型ロボットは旧式であり廃版となっているため、容易に部品は手に入らない。旅先の北海道の地で、右目を故障のために失ったポン子(姉)は、しかたなく、無口な大男の白人男性タローが一人で営む農場に、パーツが見つかるまで世話になることにする。

ポン子(姉)は、タローとの生活の中で、タローもまたロボットであることを知り、タローの生き方に対して、一種の憧れとも尊敬とも畏怖とも言えるような感情を持つようになる。
と言うのも、ポン子(姉)は、亡き主人の夢を叶えるためだけに生きてきたが、タローは、彼を川で拾って助けてくれた、今は亡きおじいさんとおばあさんのためだけに生きているのではなく、一人となった今は、自分がそうしたいから、それが「楽しい」から、一人で農場を続けているのだ、と語ったからである。タローは「自分のために」、自分で自分の生き方を決めて生きている、完全に「自立」したロボットだったのである。

しかし、そんな「自由」に生きるタローに憧れて、生活を共にしながらも、ポン子(姉)は、やがて自分の「幸せ」は、亡き主人の夢を叶えることであり、それは、彼女が「自由意志」で選んだ、彼女自身の「楽しみ」だったことに気づき、結局は、パーツが見つかるのを待たず、彼女は徒歩で旅を続けることを決意する。

ポン子(姉)との別れにあたって、タローは自分の右目を、彼女に与える。彼が好きな農作業を続けるためには、それは必ずしも必要なものではなかったからだが、もちろん、そこにはポン子(姉)への不器用な愛のあったことは言うまでもないだろう。

そして、タローは、自分がもともとは「戦闘用ロボット」であったことを明かすが、ポン子(姉)もそれには薄々気づいていた。彼の左腕に搭載された火炎放射器や、川で救われたという出自から、彼が戦闘行為の中での「はぐれロボット」ではないかと推測していたからだ(過去のエピソードでは、ポン子の住む日坂町の海辺にも戦闘機が沈んでいるという描写があり、戦争は決して外国での遠い話ではないことを示唆している)。

タローが、元は「戦闘用ロボット」であったという事実は、今の彼が「(元の)主人」からは完全に「自立」したロボットであることを意味している。
その自立が、どのようにして、どの段階で起こったことなのかは、描かれていないので、わからない。しかし、「戦場」から離れ、おじいさんとおばあさんに救われてからは、彼は「本来の主人のために」生きるロボットでなくなったことだけは、確かな事実である。彼は、まさに自分の「意志」で、「人間に命じられた道」とは違った道を生き続けたのであるし、ポン子(姉)もそこに憧れたのだ。

しかし、「自由」と言い「自立」と言っても、それは、それぞれに「自立」した「自由」における「選択」に任されたものであって、「こうでなければならない」という「義務」ではありえない。
つまり、ある「他人のため」に生きるのも、「自分個人のため」に生きるのも、それは個人の「自由意志」による「選択」の結果であって、他人のために生きることが「非自由」を意味するわけではないのである。

だから、ポン子(姉)は「残された、今は亡き主人の夢」を叶えるために、再び旅立った。それは、タローの生き方と同様、完全に「自立」した「自由な生き方」であったからだ。

初出:2020年11月6日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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