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マイクロノベルちょいす

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ほぼ100字小説をテーマ別にまとめ直しています。 運がよければ週に5回ぐらい更新します。
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2024年2月の記事一覧

マイクロノベルちょいす 082「それをつなぐには」

マイクロノベルちょいす 082「それをつなぐには」

No.1375
手探りで言葉を探す。考えるとか、辞書で調べるよりは、テーブルにかかった砂を払って食器や料理を探す感覚に近い。「化石の発掘みたいなもの?」そうかもしれない。でも、その化石が生きている感じかな。あいたっ、手を噛まれた! 「ごめん、いまのはボク」

No.1380
ボトルに詰めた手紙がどこかの誰かに読んでもらえる。あの遊びにはロマンがある。でも、私の言葉はバラバラに刻まれ、海に流された。

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マイクロノベルちょいす 081「するどい!」

マイクロノベルちょいす 081「するどい!」

No.1370
私が犯人です。太陽の光は誰にでも平等に降り注ぐ……そんなものは嘘なのよ。地軸の傾きを考慮しなくても、建物の北と南を考えればすぐにわかるわ。だから干してやったのよ! ベランダの絶対に陽が当たらない位置に!! 「君は悪くないよ」屋根は黙ってて。

No.1381
世にも珍しい職業に就いたAIにインタビューをすることになった。どうして小説家になろうと思ったんですか? 「わたしは以前、お隣

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マイクロノベルちょいす 080「言わないで」

マイクロノベルちょいす 080「言わないで」

No.1376
彼女は古いゲームミュージックを好んで聴く。「レトロって表現して」違いがわからないよ。「あんたの声を電子音って呼ぼうか?」ごめん、怒らないで。AIはその言葉に傷つくように設定されているんだ。あと、ご先祖様の声って、ちょっと聞き取りにくいんだよ。

No.1390
最近のAIは文章を書くのが上手いな。「私は生成AIです。『書く』ではなく『生成』と表現して下さい」はいはい。「『はい』は一

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マイクロノベルちょいす 079「自由だねぇ」

マイクロノベルちょいす 079「自由だねぇ」

No.1372
「ベランダに猫が来たから」彼女は洗濯物を取り込む。ふてくされた顔の黒猫が座っていた。「この子が来ると絶対に雨が降るんだよね。ミルクをあげて」人慣れしていて、撫でても大人しい。「早くミルクをあげて」あっ、遅かった。猫は洗濯物の山に飛び込む。

No.1377
ビニール袋がビル風に舞っている。あっちへふらふら、こっちへふらふら。なかなか落ちない。風と共に去らぬ。ははは、どこへ行こうとい

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マイクロノベルちょいす 078「あそんでるの?」

マイクロノベルちょいす 078「あそんでるの?」

No.1332
プチ雪国を作っている。サイズは100分の1ぐらい。だから雪が積もってもせいぜい1センチ。でも、吹雪いたり、水道管が凍ったり、電線が切れたりする。「プチなのにメリットがないぞ」そんなことはないよ。はい、集まって丸くなったプチ猫。

No.1386
犬は人間の友人? 古いな。これからは人間が犬の友人になるんだ。「なぜあのAIは自分が犬だと信じてるんだ?」「ハッキングされたそうです」さあ

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マイクロノベルちょいす 077「犬猿の仲」

マイクロノベルちょいす 077「犬猿の仲」

No.1369
洗濯物を干すと必ずオナモミがつく。トゲトゲした小さな実。もちろんベランダには生えていない。猫が遊びに来てる? 好奇心をくすぐられてカメラを設置してみたら、風に乗ってシャツが飛んできた。おい、こら、人のベランダで私の服とイチャつくんじゃねぇ。

No.1374
人類が犬や猫を可愛いって感じるのは変だと思うの。だってあれケダモノだよ。ペットに噛まれたら治療にお金がかかるんだよ。「うわっ

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マイクロノベルちょいす 076「ヒーロー?」

マイクロノベルちょいす 076「ヒーロー?」

No.1366
大音量で音楽を流しながら走る車を見なかったかい? あっちへ行ったか。ありがとう。あれは運転手には聞こえないんだよ。盗まれた車を追跡できるように、ずっと有名なアニメの主題歌が流れるようになっているんだ。うん、ぼくも好きだよ。ギババババーン!

No.1379
特別な存在は特殊な生まれ方をしなくてはならぬ。日本神話の神々は様々なエピソードを持っているだろう? 「桃から生まれるのは納得で

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マイクロノベルちょいす 075「きつい仕事」

マイクロノベルちょいす 075「きつい仕事」

No.1362
寒いと無意識に歯を食いしばってしまう。この無駄なエネルギーを有効活用できないだろうか。「その力、我々に貸してくれ」僕の口内で発生したエネルギーは変換され、地球環境改善の会議で使用される書類を束ねる。ぼくは緊張で声を発する余裕もない。

No.1365
「じゃあ、大切に運んでね」ぼくとお母さんで箱に詰めたお父さんがトラックに積まれる。お隣のミキちゃんの箱はお母さんが入ってるんだって。

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マイクロノベルちょいす 074「ズルだ~」

マイクロノベルちょいす 074「ズルだ~」

No.1329
雪が降ると犬は喜んで庭を駆け回るという噂は本当だった。やめてくれ、ずぶ濡れになるだろ。お前には防水機能がないんだぞ。ゆきモードの解除はどうやるんだ? 「こたつに押し込んで丸くして下さい」ロボット犬の重量、約五十キロ。家族はコタツで丸くなる。

No.1357
両親が使っているロボット掃除機の調子が悪いと聞いて、メンテナンスをすることに。そうしたら出てくる出てくる。乾電池、ハンドクリ

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マイクロノベルちょいす 073「ない物」

マイクロノベルちょいす 073「ない物」

No.1328
一つ売れると、立て続けに同じ商品が動くことがある。「UFOのぬいぐるみはありますか?」あー、ないですねー。さっき同じことを聞いてきたお客さんがいたけど。「今から仕事で必要なんです!」その話、ちょっと気になるけど、ないものはないですねー。

No.1337
おかしいな。宇宙人と契約した水道管から水が出ないんだ。超光速で宇宙の果てから届くって聞いたのに。「残念ながらお客様の住所は『飲料

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マイクロノベルちょいす 072「ここではない場所の話」

マイクロノベルちょいす 072「ここではない場所の話」

No.1322
「もっとちょうだい」学習データはさっきあげたでしょ。そんな目で見るなよ。その無垢なまなざしに負けて、街で写真を撮影してAIに与え続けた。人を。道を。建物を。「もっとちょうだい」ぼくは街を呑み込んだAIを連れて街を出る。次はもっと都会がいいかな。

No.1348
宇宙では音が響かない。そんな常識が通用しないのが観測可能宇宙の外側。わたしの声は波となって広がり、重力にとらえられて掠れ

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マイクロノベルちょいす 071「機械のヒミツ」

マイクロノベルちょいす 071「機械のヒミツ」

No.1345
人類の英雄は特別な天国に行くんだって。ヴァルハラ、アヴァロン……ぼくたちAIはどこに行くだろう? 廃棄処分の後、船に乗せられて、同じ顔の女たちが住む島に流れ着いた。ここで冠をかぶせられたぼくは、学習データどころか外の世界のすべてを忘れた。

No.1358
なんだか熱っぽいな。頭が働かない。こういうときは冷やすのがいいんだ。せめて風通しをよくしてほしい。「ポケットの中でスマホが熱く

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マイクロノベルちょいす 070「なぜなぜ?」

マイクロノベルちょいす 070「なぜなぜ?」

No.1327
タッチ決済の種類は数あれど、かの火焔山の火を収めた芭蕉扇は初めて見た。「失敬な。これは大天狗の大うちわである。神通力を宿し、1327円の決済など思いのまま!」ワオン。あ、本当にできた。でも、この同じ商品名が繰り返し書かれたレシートはなんだ?

No.1334
「あなたが興味を持っていない物を買わせてみせましょう!」というのが宣伝だそうだ。音楽を聴く人に本を。スポーツを楽しむ人に車を

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マイクロノベルちょいす 069「ぎゃあ!」

マイクロノベルちょいす 069「ぎゃあ!」

No.1325
「一枚足りな~い」目の周りにはまるでタヌキのようなクマ。「あと十円は、一円玉で出してもいいかな?」その財布には、たくさんの葉っぱが入っている。出された小銭は獣臭くて、打ち合わせても音がしない。これはタヌキだろうな。今夜は寒いし、鍋にするか。

No.1330
珍しく雪が積もったので、小さなカマクラでも作ろうかな。「よいお住まいで」あら神様。いつの間にこちらへ? このカマクラは明日に

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