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マイクロノベルちょいす 075「きつい仕事」

No.1362
寒いと無意識に歯を食いしばってしまう。この無駄なエネルギーを有効活用できないだろうか。「その力、我々に貸してくれ」僕の口内で発生したエネルギーは変換され、地球環境改善の会議で使用される書類を束ねる。ぼくは緊張で声を発する余裕もない。


No.1365
「じゃあ、大切に運んでね」ぼくとお母さんで箱に詰めたお父さんがトラックに積まれる。お隣のミキちゃんの箱はお母さんが入ってるんだって。「新しい職場は通勤に二時間かかるんだよね」箱の中でぼやくお父さん。夜に帰ってきたら肩を揉んであげるね。


No.1373
目覚めると、呼吸をするだけでお金がかかる世界にいた。マジかよ。俺は無一文なんだけど。「異世界の勇者よ。支配者の言葉を聞け」声がする方へ進めば、海の中からプクプクと泡を出す苔が。「異世界から漂着する不気味な筒を処分してくれ」がんばりまーっす。


No.1378
靴底が滑る。ずるっ、ぷぎゅん。滑るたびに空気が漏れるような音が鳴る。穴でも開いたか? 「騙されたな。靴底に張り付いた葉が滑るたび、変身が解けたタヌキが声にならない悲鳴を上げているのだ」そうか。家まであと少しだからがんばれ。「ご勘弁を~」


No.1382
AIに向かない職業第一位は探偵なんだって。僕らはコツコツ働くのになあ。気を取り直して新しい依頼だ。ふむふむ。これなら防犯カメラとスマホのGPSの記録を照合すれば一発でアリバイを崩せるね。「探偵って地味な仕事なんですね」それ、よく言われます。



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