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文学的な何か

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読んだ本と観た映画のレビューです。
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Swallow

Swallow

※記録のためのネタバレです

スワロウの意味は飲み込む。

美人な新妻が、少しずつ狂い始めていく。

この物語の主人公ハンターは、良家で育ち仕事もできる旦那と豪邸に住んでいる。
距離の近い義父母や多忙な旦那のちょっとした彼女を蔑ろにする行動によって、彼女がいかに孤独で閉鎖的な世界にいるのかが前半に描かれている。

間もなくしてハンターは妊娠。
退屈で無機質な家の中で、何か新しいことをしたいと思い立

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ボヴァリー夫人

ボヴァリー夫人

⚠︎ネタバレ含みます。

Amazon primeで、ミア・ワシコウスカのボヴァリー夫人を観た。

最近あまりピンとくる映画を観れておらず、久しぶりに面白い映画を観たという感じがした。

時代背景は19世紀のフランス。
分かりやすく言えば身分の高い男女は着飾り、男はハットを被り、女は華やかで苦しそうなドレスに身を包んでいる。

主人公のエマは容姿端麗で、修道院の寄宿舎で少女となり、田舎の医師シャル

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ひとりでカラカサさしてゆく 江國香織

ひとりでカラカサさしてゆく 江國香織

都内のホテルで老人が三人、猟銃自殺をした。
これだけ聞くとショッキングな出来事だと決めつけてしまいがちだが、案外、当の本人たちは穏やかに心地よく命を終えた可能性があるのほうにも目を向けてみるのもいいかもしれないと、この作品は気づかせてくれる。

江國香織ワールドでは、このような死を決して事件やサスペンスとしては描かずに、遺された遺族たちの人生とも照らし合わせながら物語が進んでいく。そもそも人生に明

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キャベツ炒めに捧ぐ 井上荒野

キャベツ炒めに捧ぐ 井上荒野

50代、60代の人生の先輩女性たちの酸いも甘いも知り尽くしながらも、まだまだこれからも楽しく自由に生きていくという表れと、美味しさが所狭しと散りばめられた物語に、背伸びして読み進めた作品。

なんとも目を惹く表紙で、11の料理と食材と共に3人の人生を垣間見ていくのだけれど、一筋縄でいかないのが人生。
青葉家の食卓やパンとスープとネコ日和のようなドラマ化をしてほしい物語。

舞台は東京の私鉄沿線の、

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しずかな日々 椰月美智子

しずかな日々 椰月美智子

よい意味で国語の教科書を読むような、夏休みの特別な断片たちの煌めきを、記憶の隅に留めて置けるように書き綴られたような優しい小説だった。

10歳までの主人公のぼくは、学校では幽霊のように過ごし、母親と2人で暮らすアパートでは片親の子供と聞いて想像するような生活をしていた。
引っ込み思案で恥ずかしがり屋で、目立つことは大の苦手なぼくだけれど、5年生のクラス替えで席が前後になったお調子者の押野に巻き込

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からくりからくさ  梨木香歩

からくりからくさ 梨木香歩

亡くなった祖母の古民家で、手仕事が好きな若い娘4人が「りかさん」を取り囲むように微笑ましく、慎ましく過ごす日々が描かれた作品。

形式上は寮で、孫の蓉子と美大生の2人と、鍼灸の勉強で日本に来たアメリカ人のマーガレットがひとつ屋根の下で暮らしている。
中近東のキリムという織物に熱中しており、サバサバとした性格と物言いの与希子に、織物が名産の島で生まれ育ち、自らも機織りをする大人びていて物静かな紀久。

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ふくわらい 西加奈子

ふくわらい 西加奈子

始まりでは、暗闇や紺色の世界を纏っていたストーリーと主人公が、徐々に明るい世界を見始めて、強烈に生きていることを実感していく様子にグッとくる。終わりの世界は例えるならば、赤や橙の燃えている色であった。

主人公の鳴木戸 定は25歳の編集者として働く女性であり、過去の強烈なエピソードや生い立ちから、今も独特の空気感を持つ女性であり、感情が読めず、周囲がドン引きすることも平気でしてしまう所がある。そん

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流星ワゴン 重松清

流星ワゴン 重松清

私は小学生の頃、重松清の「カレーライス」が教科書に載っていた世代だ。
記憶は朧気ではあるが、主人公の男の子は父親に謝らないと意地を張っていて、それが何故だかをクラスメイトと議論する授業があったと思う。教科書の文字が大きかった気もするから低学年だったのだろうか?

それから時を経て、「ステップ」が映画化されたのを機に、小説が図書館にあったので読んだ。過去に「とんび」がドラマ化された時には、家族で食卓

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たゆたえども沈まず  原田マハ

たゆたえども沈まず 原田マハ

絵画に詳しくなくとも、大半の人が名前を知っている名画家ゴッホの生きた時代を、タイムスリップしたかのように思わせてくれる正確な描写と熱量が迫る。
私たちの生きる時代で、ゴッホは超が付く有名画家だけれど、彼は遂に生きている間に自分の絵の価値を確かめることができなかった人だと初めて知った。

舞台は1886年〜91年のフランスで、その頃のフランスは絵画ブームが起きており、その新しい波として日本の浮世絵が

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命売ります 三島由紀夫

命売ります 三島由紀夫

昔の小説の言葉遣い、文体が好きだ。
特に今回読んだ作品は、不思議とスッと文章が頭の中に入ってきて、初めて触れた三島由紀夫の作品であったが、恐らく文体と気が合うのだと思う。

この小説は、自殺未遂に失敗した二十七歳の男が、新聞の広告欄に「命売ります」と掲載したばかりに、様々な危険な目に遭いながらも生きながらえてゆく物語である。

羽仁男が死のうと思った所以には、ゴキブリが這いずり廻り、新聞に紛れ込ん

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アデル、ブルーは熱い色

アデル、ブルーは熱い色

フランス映画はティーンエイジャーの何気ない日常もお洒落に映し出す。エマの青い髪、劇中に登場するスパゲティ、アデルの飾らない髪の毛。

甘酸っぱくて苦くも爽やかで、10代で一生忘れられない恋をしたアデルがちょっぴり羨ましくもなる物語。

主人公のアデルは、いつだって髪は適当にまとめているし、周りの生徒のようにメイクもしないが、美人で不思議な魅力を持つ高校生。モテるけれど恋人を持つことには興味がないと

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間宮兄弟 江國香織

いい歳をした男の兄弟が二人暮らしをしていると、怪しいのだろうか?
なんだかちょっと怖いのだろうか?
この小説に登場する主人公たちが聴く音楽や映画に江國香織節を感じつつも、そんな問題提起もしていると感じた。

江國香織の作品の中では珍しく男性の主人公(それも兄弟で、決していい男ではないタイプの)である。
兄の明信は会社勤めで几帳面な性格であり、弟の徹信は学校職員で時としてお調子者といった風はあるが、

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夏物語 川上未映子

『夏物語』という題名と表紙の装飾から、ちょっぴり切ない少女の恋か、ひと夏の淡い恋とか人々の行方の物語かと推測していたけれど、この作品が取り扱っている内容はディープで、第二部に入ると一筋縄ではいかない生と誕生についての物語へと内容がシフトしていく。
この本を手に取るきっかけは、Me-timeという雑誌のなかで江國香織がおすすめしていたからで、もう秋になってしまったが読み進めることにした。

人が生ま

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