間宮兄弟 江國香織

いい歳をした男の兄弟が二人暮らしをしていると、怪しいのだろうか?
なんだかちょっと怖いのだろうか?
この小説に登場する主人公たちが聴く音楽や映画に江國香織節を感じつつも、そんな問題提起もしていると感じた。

江國香織の作品の中では珍しく男性の主人公(それも兄弟で、決していい男ではないタイプの)である。
兄の明信は会社勤めで几帳面な性格であり、弟の徹信は学校職員で時としてお調子者といった風はあるが、どちらも女性関係になると全くダメで、交際経験もなければ、いい思い出のひとつすらない。
そんな二人の代わり映えしない日々が、突如としてちょっぴり好奇心をそそる展開になり、やはり甘さは少なめの酸っぱく苦い淡い恋の情景を江國香織のノスタルジックな?文章で書かれている。

二人が足しげく通うビデオ屋でアルバイトをしている大学生の本間直美は、今の時代で言ったら怖いもの知らずで、人を疑うこともせず、兄弟の自宅に招かれるとあっさり承諾する小娘だ。徹信の勤める学校の教師で、職場不倫をする葛原依子もまた、ふいをつかれたような形で二人と交流を深めることとなる。
恋愛のれの字も経験したことのない兄弟は二人の中で盛り上がり、直美と依子を意中の人として見たり、一丁前に浴衣を着て出迎えたりする。

直美の妹の夕美や、明信の仕事仲間、大垣賢太の離婚危機にある嫁も登場人物として加わり、色濃く兄弟の日常を染めていく。

兄弟は恋愛を除いては、実によくできた息子たちであり、仕事熱心で未亡人の母親を大切にしている姿勢や、多趣味で生活を楽しむ術も熟知しているように思える。
恋愛は必ずしなければいけないなんてことはない。この不釣り合いにも思える友情関係が、この先も続けばいいと願いたくなる話だった。

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