見出し画像

流星ワゴン 重松清

私は小学生の頃、重松清の「カレーライス」が教科書に載っていた世代だ。
記憶は朧気ではあるが、主人公の男の子は父親に謝らないと意地を張っていて、それが何故だかをクラスメイトと議論する授業があったと思う。教科書の文字が大きかった気もするから低学年だったのだろうか?

それから時を経て、「ステップ」が映画化されたのを機に、小説が図書館にあったので読んだ。過去に「とんび」がドラマ化された時には、家族で食卓を囲みながら、あの切なく感動的な昭和感漂うストーリーを見ていた記憶も何となくある。

「流星ワゴン」も名前だけは知っていて、本屋でもよく見かけていたし、過去にドラマ化されていたのも知っている(テレビっ子だったのだと思う)。
ただ流星ワゴンという素敵な題名だけを知っていた私は、この作品を読む前にドラマのホームページと相関図を予習してから読むことにして、なので一雄は西島秀俊だし、忠さんは香川照之、美代子は井川遥をモデルにして読み進めた。ドラマは見ていないけれど、この配役がとてもしっくりときた。

浮気されても怒ることも、声を上げることもできなくて、ちょっぴり情けない主人公が西島さんで想像できてしまったし、夫を裏切る行動へと走る妻が井川さん程の美貌があるとなるとなぁとか(美人だからと許されることではないが)、この作品のキーマンである橋本親子のお父さんが吉岡秀隆さんなのも良い。忠さんも香川照之しかいないとさえ思う。俳優さんの持つイメージは凄い。




前置きが長くなったが、主人公の一雄は38歳で、妻と息子がいる普通のサラリーマンだったのだがリストラに遭い、「御車代」目当てに遠方に住む先の長くない父親の見舞いへ行く日々を送っている。妻は家を空けるようになり、中学受験に失敗した息子は家庭内暴力をするようになり、現実は悲惨なものだった。父親との仲も最悪で、一雄は死んでしまってもいいと思い途方に暮れる。
そんな一雄の前に現れたワゴン車には、5年前の交通事故で亡くなった親子が乗っていて、一雄をやり直しの旅へ誘う。

やり直しの世界で出会えたのが、自分と同い年の父親「忠さん」であり、自分たちは朋輩だと言い、38歳までの記憶しかない父親と共に、一雄のターニングポイントであったそれぞれの地点から、現実を変えようと奮闘していく。
不思議な力に導かれて、死の瀬戸際にいる同い年の父と向き合うことで、ずっと抱えていたわだかまりが少しずつ溶けていき、恐ろしくて悪名高いような父親も、対等に並んでみれば普通の38歳であったのかもしれないと思えたり、親子2世代の再生が描かれている。
25年生きていて初めて知った朋輩という言葉は、この小説の中で幾度となく出てくる言葉だ。同じくらいの身分、年齢の友のことを言う言葉らしい。

家族関係において、悩みを抱えていない人はいないと吉本ばななが何かで言っていたことを思い出した。そして、どん底にも思える主人公の人生に同情して、自分でも死んでもいいかと思ってしまうかもしれないシチュエーションかもと怯えたり、389ページの物語に静かに沈み込むように読み耽った。
死んでしまった人、死ぬ間際の人、死にたくなってしまった人。これらが交錯した時に起きる魔法を読む時間は儚くも温かであった。




この作品から学んだことは、人生のターニングポイントは、自分が気づかない所で迎えている場合も結構あるみたいだ。アンテナを張り巡らせて、ここぞって時にいいアクションを起こせたらいいけれど、なかなかそうは行かないのが人生らしい。振り返ってみれば、私の人生も何点かやり直しの旅に出たい気もするけれど、今が幸せなのでヨシとして、今後のターニングポイントを見逃さないように世渡り?人生の綱渡りをこなしていきたいと思った。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?