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命売ります 三島由紀夫

昔の小説の言葉遣い、文体が好きだ。
特に今回読んだ作品は、不思議とスッと文章が頭の中に入ってきて、初めて触れた三島由紀夫の作品であったが、恐らく文体と気が合うのだと思う。




この小説は、自殺未遂に失敗した二十七歳の男が、新聞の広告欄に「命売ります」と掲載したばかりに、様々な危険な目に遭いながらも生きながらえてゆく物語である。

羽仁男が死のうと思った所以には、ゴキブリが這いずり廻り、新聞に紛れ込んだのを見てから、新聞の文字がゴキブリに見えてしまうようになったからという不思議な理由であり、中盤までは死を恐れず、自分の命など惜しくも痒くもない心持ちからくる肝の据わった態度で、思わぬ大金を手にして悠々自適に生き延びる。登場する女たちは皆、魅力的で欲望を持て余していて脆い。

次第に死について考えることが面倒になった羽仁男は、今までの新聞広告によって得た商売から面倒な出来事に巻き込まれていくのだが、生きようとあるだけのお金を持って逃亡生活に追い込まれる。今までの繋がりと伏線回収が見事で、なんとも羽仁男は頭がよく冴えた男で関心してしまう。

今も昔も、ひょっとしたら若者の心持ちは似ているのかもしれないと羽仁男の行動を見ていると思わせる。些細なことで自分の命さえ粗末にしてしまったり、かと思えば軽快に贅沢をしてみたり、欲望を満たす。そうしているうちに、やっぱり生きるのも悪くないなと、本能的に生きようとしてもがいてみたり。

ただ、羽仁男が殺されかけて、今までの出来事をまくしたてるように警察に話しても取り合ってもらえないところを見ると、はたまた夢物語だったパターンもあり得るのか?と読者を躍らせる三島由紀夫のお洒落な仕掛けにも考えを巡らせてみる。


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