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ふくわらい 西加奈子

始まりでは、暗闇や紺色の世界を纏っていたストーリーと主人公が、徐々に明るい世界を見始めて、強烈に生きていることを実感していく様子にグッとくる。終わりの世界は例えるならば、赤や橙の燃えている色であった。

主人公の鳴木戸 定は25歳の編集者として働く女性であり、過去の強烈なエピソードや生い立ちから、今も独特の空気感を持つ女性であり、感情が読めず、周囲がドン引きすることも平気でしてしまう所がある。そんな彼女の唯一の趣味は暗闇でふくわらいをすることであり、幼少期から猛烈にふくわらいが好きであった定は、日常生活においても出会う人々の顔を様々に変えて楽しんでしまう癖がある。

編集者なので、数名の担当作家とのやりとりがあるのだが、プロレスラーの守口廃尊や偏屈で定に脱げとまでいう高齢作家の水森康人など、定を取り巻く人々はなかなか個性的である。
そして、読んでいくうちに守口廃尊は廃尊でしかなく、強烈に実在するかのようにこの作品の中で生きているし、ひょんなことから出会い定を愛す盲目のイタリア人とのハーフである武智次郎など、この作品の登場人物は猛烈に自我を発散し、表現している。

ふくわらいしか趣味がなく、過去の強烈な父と旅したエピソードが定の人生の深い所まで浸透していて、今や心を許す相手はお手伝いであったテーのみなのだが、それでも定はひたむきに生きてゆき、やがて周囲に感化されながら、自分の人生が愛しいことに気づく。

西加奈子の作品の個性的なシチュエーションはどれも好きだけれど、今回もやっぱり独特で強烈な世界観がそこにはあって、実在するかのようにリアルに思える凄さがあって、今回もちゃんと引き込まれた。

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