ひとりでカラカサさしてゆく 江國香織
都内のホテルで老人が三人、猟銃自殺をした。
これだけ聞くとショッキングな出来事だと決めつけてしまいがちだが、案外、当の本人たちは穏やかに心地よく命を終えた可能性があるのほうにも目を向けてみるのもいいかもしれないと、この作品は気づかせてくれる。
江國香織ワールドでは、このような死を決して事件やサスペンスとしては描かずに、遺された遺族たちの人生とも照らし合わせながら物語が進んでいく。そもそも人生に明確な答えなどなく、この作品も後味はふわっとしている。
同じ時代を共に出版業界に携わりながら生き、その後の紆余曲折のあった数十年も、友情という言葉以上の関係を築いてきた三人の選んだ最期。
ホテルのバーラウンジの薄暗く洒落た店内での最後の晩餐のシーンは微笑ましく、ピアノの演奏がこちらにまで聞こえてきそうに優しい空気の漂うストーリーが、三人の死によって集まることになった親族と知人たちの交流と懐古が儚くも美しい作品だった。
《篠田 完爾》
痩せていて背が高く、肌は浅黒い。三人の中ではまとめ役。
一人暮らしで数年前に秋田へ移住しており、癌を患っていた。
《重森 勉》
小柄で禿頭。唯一の独身であり、派手な生き方を好んできた。お人好しな一面もあり、晩年は日本語教師をしていたこともあった。
《宮下 知佐子》
ショートボブの白髪に赤いセーターを着るなど目立つが品のある佇まいをしている。まだ女性が外でバリバリ働くことが珍しかった時代に、出版社で精を出していた。
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