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キャベツ炒めに捧ぐ 井上荒野

50代、60代の人生の先輩女性たちの酸いも甘いも知り尽くしながらも、まだまだこれからも楽しく自由に生きていくという表れと、美味しさが所狭しと散りばめられた物語に、背伸びして読み進めた作品。

なんとも目を惹く表紙で、11の料理と食材と共に3人の人生を垣間見ていくのだけれど、一筋縄でいかないのが人生。
青葉家の食卓やパンとスープとネコ日和のようなドラマ化をしてほしい物語。

舞台は東京の私鉄沿線の、各駅停車しか停まらない小さな町の商店街の惣菜屋。しかしながら、渋谷まで10分足らずという立地もあり、「ここ屋」はそこそこ繁盛している。
従業員は3人で、明るいオーナーの江子、毒舌な麻津子、従業員募集の貼り紙を見て最近やってきた郁子。3人の手がける四季折々の総菜の数々の風味は文章から伝わってくる。そして、三者三様に大人の事情を抱えており、お互いに詮索しないまでも、微妙な空気感や顔色から思いやったり、支え合いながら、ここ家の歯車はせわしなく廻る。

江子は底抜けに明るい性格だが、共に開店準備をした女性と元旦那が再婚しており、まだ旦那に好意を寄せながらも、時に2人の自宅を訪ねながらも、自分の人生に折り合いをつけようと葛藤する場面が多い。
麻津子は若い頃の思い人と急接近しており、健気に重箱をこしらえたり、デートの約束ができただけでも舞い上がってしまうくらいに恋をしている可愛らしい一面を持つが素直じゃない性格が邪魔をする。
郁子は旦那に先立たれ、息子を幼い頃に亡くした過去を持ち、夜な夜な写真立てを見つめながらビールを飲む。子を失くした夫婦の関係や、幼くして亡くなった息子へ思いを馳せては、思いを流し込んでいる。

大人の事情が3つも紛れている物語だが、美味しそうな惣菜の描写や、配達に来る米屋の進(イケメンである)との交流と混ざって進んでいくので、暗くなり過ぎずに美味しさと調和されている。
エンディングも急展開にハッピーなので、微笑ましくページを閉じることができた。

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