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また読み直したいものを勝手に放り込んでゆくところです。 勝手に入れますが、御容赦ください。
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#現代詩

眠れる椅子

眠れる椅子

もうこの脚では
人間たちの苦悩も
憂鬱も支えられないからと
粗大ゴミとして
収集場所で寝転んだ日
椅子は初めて
空の青さを知った

これで安らかに眠れる
本当に美しいものを
目の当たりにして
心に何の澱みもなく
終わりを迎えられる

椅子の脚が
ほんの少しだけ震えているのを
隣に立て掛けられた
ハンディ掃除機は見ていたが
そっとしておいてやる事にした
存分に働いたんだ
椅子にだって夢見る権利はある

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【詩】る、る、る

【詩】る、る、る

彼の唯一の関心は素数である。
る、る、る、と私が歌ったところで全く意味はない(それでも絞りだした悲鳴が歌なのだけれど)

私はあの日あの日あの日幕張付近で京成線の踏切を渋滞する車の後部座席から眺めており――遮断機がひどく疎ましかった――風景から色彩がどんどん失われていくのを、ただ茫然と見送っていた愚かなカモメであった。だから?

もう笑うべきなのだ。ろくに弾けなかったギターの、錆びた一弦だけを使え

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未来の詩人がお通りだ! 【詩】

未来の詩人がお通りだ! 【詩】

あいつら
いろんな格好してやって来る

エッサ ホイサ

鉢巻したり、軍服着たり、全身にLEDつけたり

エッサ ホイサ エッサ ホイサ

ピノキオの鼻つけ、白熊の毛皮着て、ユニコーンの角生やして

ユッサ ホイサ パンダ コッぺパンダ

全身タトゥーの龍さん寅さん
コワイお姉さん 頬っぺた蟲だらけ

びよーん

日が昇ってきたね
あああたたかい
小洒落たイングリッシュガーデンで
のびやかにお茶し

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詩 「note」

詩 「note」

今日もぼくは
noteの重い扉を開け
いつものように
ここに来た

noteというのは
この図書館の名前で
今きみがいるところ

さあ
ここへどうぞ
ぼくの隣の席でいいかな

ぼくの今日のノートは
noteについて書くつもり

「note」

noteには
何万 何百万もの
椅子とテーブルと本棚があり
人々は毎日ここにやって来ては
作業をしたりノートを読んだりする

ここにいる人たちの大半は
ノー

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男の子ってバカみたい

ちんちんが付いているのは
恥ずかしい事でもなんでもないのですよ、と
シスターはロッテに語ったが
彼女は納得しなかった

どうしてこうも
美しくデザインされた人体に
こんなにも不恰好な角が
取り付けられなければならなかったのか
神を模して作られたはずの形の
なんという欠陥

ロッテの不満が
神への不信の域にまで達しようとしていた頃
隣ではイサークが鼻水を垂らしていて
彼女はハンカチで丁寧にそれを拭い

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暗渠

暗渠

山の斜面の家と家の間の、曲がりくねった歩道の裏側を下りて来た暗渠は、海岸線の国道脇に立つゴミ収集ステーションの手前でコンクリートの蓋が無くなり、幅狭な水路に変わる。だがすぐにアスファルト道路の裏側を横切り、海辺の家と家の隙間に開口する。流れ落ちる水が引き潮の砂泥に浸み込み、庇の影がその上に落ちる。左右のコンクリートの縁はもう少し続き、庭先の海岸堤防の開口部で終わる。石積み造りの突堤が湾曲しながら海

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春雷

春雷

薄曇りの街を引き裂いて
季節はめくられていく
眠っていた赤ん坊が
火のついたように歌い出す

明日の雨さえ幸福へ繋がっているのだと
渡り鳥は語った 強い眼差しのまま

二つの塔

二つの塔

頑丈な鉄骨で構築された四角柱の塔が立っている。錆びた梁が上から下までを六つの立方格子に区切り、東側の面を太い配管が真っ直ぐに上行し、頂上で鋭角に折れ曲がって塔の中心を下行すると、やがて漏斗のような物体がそれを受け止める。海辺のセメント工場はとっくに稼働を止め、臓物めいた装置を内部に支え続けた塔も死んでしまった。夜になると、黒々とした塔のシルエットの天辺に紅い灯が二つ、中腹と下部に二つずつ、さながら

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リフレイン/フラッシュバック

時々、桜流しの「まだ何も伝えてない」
というフレーズが頭の中で延々とリピートされる

その人が死ぬことを想像した時
このフレーズが頭の中で流れる
終わりだなんて残酷だ
まだ入り口にも立ってやしないのに
まだ出会ってさえいないかも知れないのに

メメントモリ

私は小さい頃から思っていた
「今日私が死んだらこの人は今言ったことを
 今したことを後悔しないんだろうか」
そして人を軽蔑していた
「私が今

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バカ日記 『油面破裂してえのきだけ』

2022.11か10のどちらか 天気たぶん晴れ

『油面破裂してえのきだけ』

見てごらん
かつての銀幕のスタア
みんな顔が光っているよ
写真に油を塗ったの?(絵筆はポスターの
裏から
叩くように、写真みずからが油を浮かせた
ように
光っていた顔が
憧れだった、みんなの

光る顔が

東京都目黒区
とある交差点に
信号機のネームプレートに
   油面
  Aburamen
とある。
ひとつの教育の

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アナトミー

アナトミー

詩の
内臓に触れてみる
生暖かく
まだ脈打っている

こんなところでお前は
言葉を繋げていたんだね

蝿が
残躯に寄り添う
彼もまた
詩人だった

イグアナのご遺徳を偲ぶ

イグアナのご遺徳を偲ぶ

「え~~本日はぁ、天気日頃も良ろしゅう、氏神様のご祭礼により~、これより大節分豆まき大会を開催させていただきます。皆さま万障お繰り合わせのうえ、ご家族お揃いでご参加下さいませ。なお~、お子供衆には~、白玉ぜんざいと福豆菓子をご用意いたしておりますゆえ~、巫女Aのお姉さんとこでみんなでいい子して貰ってね。お父さんお母さん方におかれましてはぁ、巫女Bの売店にてぜんざい太巻きパックを販売いたしております

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谷郁雄の詩のノート19

谷郁雄の詩のノート19

遠い国で始まった戦争は、終わる見込みのないまま、まもなく1年目を迎えようとしています。始めるのは簡単でも終わらせるのは至難の業です。その間にも犠牲者は増え続けています。戦争を始める人間もいれば、平和を祈る人間もいます。そんなことを考えながらも、ぼくの暮らしは続いていきます。そして暮らしの中にも小さな危機は訪れます。病気だったり、ケガだったり、老いだったり。生きることは心細いことのくり返しですが、勇

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詩 「るん」

詩 「るん」

この本は退屈である
この音楽は退屈である
この映画は退屈である
この人の話は退屈である

退屈は
つまらない

しかし
つまらないと感じる
わたしの感性をわたしは
信じすぎてはいないか

わたしの感性は
わたしのなかで
いつもそんなに正しいか

わたしの直観は
わたしのなかで
いつもそんなに鋭いか

まずは
そこに立ち止まって
自分を疑う時間が必要なのだ

そして
つまらなくて
何がわるいのだ

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