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エッセイ

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#エッセイ

海をみにいく

海をみにいく

海に行かなくては、と思っていた。
ドラマの「海のはじまり」の第一話冒頭で海ちゃんが水季と浜辺で遊ぶシーンを見て、子供の頃の記憶がフラッシュバックした。
覚えていることが苦手で、思い出はすぐに事実に変わってしまう。この時期にこんなことがあったというのは覚えていても、その時の気持ちとか風景をすぐに忘れてしまう。そんな私が鮮やかに覚えている数少ない記憶のうちの一つが海の思い出。

確か14歳くらいの秋だ

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家族と祭り

家族と祭り

最後にお祭りに行ったのはいつだろう。思い出せないくらい昔のことで、自信を持って行ったことはあると言えるけれど、エピソードが一つも出てこなくて自分を疑ってしまう。
私の両親とパートナーとの4人で向かったのだけれど、こんな形で150kmも離れたお祭りに行くなんて10年前の自分は全く想像していないイベントで、車酔いなんかしていないのにふわふわした気分で居心地が悪かった。

我が家は家族仲が良い方では決し

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団地は曲がり角が多い

団地は曲がり角が多い

不妊治療のために通い始めてそろそろ一年が経つというのに、駅から病院での道がいまだに覚えられない。
二月に一回という少ないペースで通っているのもあるけれど流石にひどい。方向音痴の自覚はあるけれど、通院のたびにちょっとへこんでしまう。
駅から歩いて15分とそこそこ距離があるのに加えて、駅と病院の間にある団地が私のコンパスを狂わせる。病院へ向かうには必ずその団地を通らなくてはいけないのだけれど、一つの町

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毎朝の参拝

毎朝の参拝

神社を訪れた人の感想で「空気が違う」というのを聞いたことがあるけれど、確かにそんな気がする。
一歩足を踏み入れると、肌にまとわりついていた夏のじめっとした空気がサッと消えていくような感覚。
道路と敷地の間を境にして、外側から内側に入るということ。
他とはくっきりと違う空間というのを実感して、「境内」とは良くできた言葉だなと毎朝感心してしまう。

腹筋を割りたい。
去年掲げた目標だが道のりは険しい。

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寄付と曖昧な信頼

寄付と曖昧な信頼

愛犬との思い出に影が落ちたような気がした。

サウナいらずの蒸し暑さの中、図書館に本を返しに行った。図書館の冷たい空気に触れた瞬間、気になっていた本が頭の引き出しから見つかった。運良く借りることができて、自分で自分を褒めてあげた。
ホクホクとした気持ちで図書館を後にし、駅前の広場を通った時、少年たちが募金箱を持ちながら大声で叫んでいる姿が目に入った。途端に今日はいい日と思った気持ちは消え、カロリー

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不妊治療/不良品のわたしから

不妊治療/不良品のわたしから

カレンダーを見返すと、その日は去年の10月1日だった。ビルの合間から灰色の空が覗き、ビル風が強かったのをはっきりと覚えている。この日の記憶には色が無く味気のない白黒で再生されるのだけれど、それはこの記憶が楽観的なわたしの数少ない後悔の一つだからかもしれない。

この日はパートナーとともにオフィス街にある不妊治療専門の病院を訪れた。1年ほど前からタイミングを見ながら妊活を行なってきたが、なかなか結果

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明るい夜にむかついた

明るい夜にむかついた

夜10時。
前の人の踵を眺めながら地下鉄から地上へと階段を上る。左の踵には「なんで」、右の踵には「どうして」と書いてあるのが見えた。左右の踵がリズムよく上っていくのと同時に、私の心に言葉が積もっていく。

右足。
「どうしてうまくいかないんだ。」
左足。
「なんでダメなんだろう。」
右足。
「どうしてできないんだろう。」

言葉がどんどん積もっていって重くなる。
マイナスなイメージがどんどん積み重

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betterとbestの間に

betterとbestの間に

「皆、betterとbestどっちがいいかな?」
「先生、bestです」
「私もbest」
「bestっててっぺんですから」
「でもてっぺんって成長しないよね」
「いえ、また次のベスト目指しますから」
「それって言ってみればベターじゃないかな?」
「うわ、論破されている」

私の生活の傍にはいつもラジオがいて、家事や作業をする時もラジオを聴いていることが多い。その時はオードリーのオールナイトニッポ

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保護犬をお迎えした話

保護犬をお迎えした話

「うちに犬がいる……。」

家に帰って玄関のドアを開けると必ず、タタタッと音がする。
元保護犬のヨークシャテリア、女の子で名前はパル。
家に帰るといつも出迎えてくれる。
初めて会った人と目が合った時のような恥ずかしさというか、少しのくすぐったさ。
パルと暮らし始めてから3年が過ぎても、この瞬間だけは不思議な気持ちになる。

「あんなに犬嫌いだったあんたが、まさか自分ちで飼い始めるなんて。」

保護

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音楽ライブで心が軽くなった話(礼賛「PEAKTIME」)

音楽ライブで心が軽くなった話(礼賛「PEAKTIME」)

3人の巨人

私にとっての人生のイメージは、3人の巨人が天を支える姿。
「アトラス」で検索して、天を支える巨人の画像を見てみてほしい。
神話に出てくるアトラスという巨人は天を支える役目を与えられたが、辛くなってしまいなんとかしようとする話。
子供の頃アトラスの話を聞いて、教訓はなんだったのかよくわからなかったけど、1人じゃなくみんなでやればよかったのになと思っていた。
天が私にとっての人生で、3人

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サウナ/なにもしないをする

サウナ/なにもしないをする

最近の私はサウナ中心に回っていて、週に一度のペースで通っている。
書いていて気がついたけど、生活のリズムだけじゃなくて立地的にも中心かもしれない。というのも私がよく行くサウナは街の真ん中にあるのだ。A駅から歩いて15分、B駅からも歩いて15分、自宅からも歩いて15分。
この15分という距離感もめちゃくちゃ好き。軽い気持ちで行くには遠く、重い腰を上げてというには大袈裟すぎる。なんとなく以上、わざわざ

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