西崎久慈

今は会社で働き、月給をもらって生活しています。適度に不便な田舎に住んでいて、趣味は日曜…

西崎久慈

今は会社で働き、月給をもらって生活しています。適度に不便な田舎に住んでいて、趣味は日曜大工とパン作りですが、五十肩発症と小麦アレルギー発覚により、今は無趣味です。

マガジン

  • 羊と豚

  • わたしのSDGs

    四十二歳、厄年、男性。伊豆半島の付け根で、森を開墾し、そこに木の小屋を立てて住んでいる。夏は小屋の横にテントを張って住んでいる。2019年、特にすることもないので、SDGsに向けて行動することにした。2020年、コロナ禍でこの小さな町にも影響が。

  • 2026年の詩

    2026年を想定したSFの詩、未来の現代詩

記事一覧

セルフたいやき

 近所にあったタピオカ屋が潰れた。案の定と言うべきだろう、日本中で流行ったのちにオープンした店で、粒々していただけである。その跡が改装をはじめた。ジャングルを模…

西崎久慈
2年前
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黒いエネルギー

 私は五十肩を患っている。上がらない肩にももう慣れたものである。日本国の困惑に比べれば、大したことではない。テレビ電波経由で政治家が道化のふりをして話しているの…

西崎久慈
2年前
2

2021年6月 雨に濡れながらあるく

 最後の晩餐、その言葉からは日影の湿った臭いと乾燥した砂埃の臭いがした。横並びの食卓、喜怒哀楽のどれでもない宴、テーブルの上にあるのが最後の晩餐的な物である。と…

西崎久慈
2年前
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2021年5月 最後の晩餐的ランチをたべる

   病院の待合室には風に吹かれた日傘の淑女の油絵が掛かっている。絵の具と煙草の臭いがする。病院からの帰り道、和菓子屋に入る。柏餅を選ぶ。柏の葉っぱの臭い。美…

西崎久慈
3年前
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2021年4月 臭いをかぐ

 海岸に石を拾いに行ったものの、成果なし。石を拾わなかった理由は二つ。自分には似てもいない艶のある磨かれた石ばかりだったのと、そもそも海から石を拾う行為が禁止…

西崎久慈
3年前
2

2021年3月 自分に似た石をひろう

 羊と豚を飼った話をし、1月はスープをつくった。そして2月である。  地方都市の裏路地に活気はないが、クレープに似た甘ったるい臭いが夜の街の営業中を伝えていた。…

西崎久慈
3年前
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2021年2月 青にまつわる嘘をつく

 羊と豚を飼った話をすると、彼女は「スープをつくる」と送ってきた。命令でも懇願でも啓示でも義務でもない。人生にそっと現れた偶然の出会い。私はスープをつくることに…

西崎久慈
3年前
2

羊と豚

 私の故郷には変わった風習がある。子供が生まれると、村から小羊と小豚が贈られるのである。家畜は人間の子供の成長を引っ張るように、一足二足早く成長していく。そして…

西崎久慈
3年前
2

17 パートナーシップで目標を達成しよう

 暑い。木陰に涼がない。夏の暑さはこんな感じだっただろうか。地区の放送が外出を控えるようにと言う。気づくと口が開いている。汗が背中を垂れる。それでも無職の私には…

西崎久慈
3年前
1

12 つくる責任つかう責任

 梅雨入りした。公に宣言されずとも、連日の雨でみんながそう思っていた。梅雨らしいじんわりと長く広い雨ではなく、マンゴー的な短く騒がしい雨だった。私の安物の古いテ…

西崎久慈
3年前
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9 産業と技術革新の基盤をつくろう

 日本の産業、世界の産業はズタズタらしい。実感なし。この町には変わらない風景が広がっている。元々産業がないから、産業の停滞は関係ない。外貨は稼げないが、稼ぎがな…

西崎久慈
3年前

5 ジェンダー平等を実現しよう

 春が来た。空気がざわついている。世界はざわついている。新型コロナウイルスで大騒ぎだ。妻は駅前の電波を利用し、テレワークで復職していた。私は相変わらず、ただ生き…

西崎久慈
3年前

3 すべての人に健康と福祉を

 今年の私のテーマは健康である。年齢的に体のボロが出はじめていた。今年の心の書き初めでは大きく”健康第一”と書いた。それで3番の”すべての人に健康と福祉を”の活…

西崎久慈
3年前

1 貧困をなくそう

 歩くと少し汗ばんで、すぐに涼風で乾く。しかし今年の春の心地良さは表面的だった。私は体の芯で苦しんでいた。軽い動悸と鼻水、目は痒くてしょぼしょぼ。散歩中に見かけ…

西崎久慈
4年前
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4 質の高い教育をみんなに

 目が覚めたら腹筋に力を入れて即座に布団を押しのけ、体を起こす。微睡みも二度寝もない。歯磨きと柔軟体操をする。厄年を過ぎたら体の健康は成行では保てない。薪割りを…

西崎久慈
4年前

8 働きがいも経済成長も

 SDGsの8番、”働きがいも経済成長も”に取り組むことにした。私はつい先日まで、コンビニエンスストアで働いていた。働きがいを感じる仕事だった。日用品を売り、近…

西崎久慈
4年前
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セルフたいやき

セルフたいやき

 近所にあったタピオカ屋が潰れた。案の定と言うべきだろう、日本中で流行ったのちにオープンした店で、粒々していただけである。その跡が改装をはじめた。ジャングルを模した緑色の壁紙が貼られ、外国のファーストフード店のようだった。次の流行りのスイーツは何だろうか。ジャングルな店構えからは、アフリカ系だろうか。タピオカの素であるキャッサバ芋もアフリカの名産だった。アフリカのスイーツが想像できなかった。私のア

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黒いエネルギー

黒いエネルギー

 私は五十肩を患っている。上がらない肩にももう慣れたものである。日本国の困惑に比べれば、大したことではない。テレビ電波経由で政治家が道化のふりをして話しているのを見ていると、この無用な存在はAIに置き換えられないから生き残っていくんだろうなと、皮肉を思う。インターネット回線経由で見るネットでの炎上にはもっと呆れ、論題も文章も結果もすべてが低俗と、自分は教養人であると言い聞かせる。ふと、このネットで

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2021年6月 雨に濡れながらあるく

2021年6月 雨に濡れながらあるく

 最後の晩餐、その言葉からは日影の湿った臭いと乾燥した砂埃の臭いがした。横並びの食卓、喜怒哀楽のどれでもない宴、テーブルの上にあるのが最後の晩餐的な物である。ところがその机上物が思い出せない。山盛りの葡萄な気もするが、木の器に入ったスープかもしれない。五十肩以降、老眼も進み、階段昇降で息切れし、記憶の不確実にも慣れた。特に短期記憶の消失だが、過去の記憶も信じがたい。十年以上前に薄暗い中で見た淡い色

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2021年5月 最後の晩餐的ランチをたべる

2021年5月 最後の晩餐的ランチをたべる



 

 病院の待合室には風に吹かれた日傘の淑女の油絵が掛かっている。絵の具と煙草の臭いがする。病院からの帰り道、和菓子屋に入る。柏餅を選ぶ。柏の葉っぱの臭い。美容室を通りすぎるとき、ブリーチの刺激臭が。肉屋の前では先週のジンギスカンのラム肉のミルク臭。家に戻ると珈琲を入れる。豆をひく音の向こうに香る。珈琲を飲みながら読もうと開いた茶けた本から、冷蔵庫の奥に見つけたクサヤから、遠くのマンションに

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2021年4月 臭いをかぐ

2021年4月 臭いをかぐ



 海岸に石を拾いに行ったものの、成果なし。石を拾わなかった理由は二つ。自分には似てもいない艶のある磨かれた石ばかりだったのと、そもそも海から石を拾う行為が禁止されていたのと。もう一つ理由を挙げるなら、石すら拾えないのかと罵声を浴びせて欲しかった。私は治りの悪い五十肩に苛立っていた。

「石を拾えなかったぐらいで、落ち込むことはありません。所詮、石ですから」
 私を慰めるように、4月には「臭いを

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2021年3月 自分に似た石をひろう

2021年3月 自分に似た石をひろう

 羊と豚を飼った話をし、1月はスープをつくった。そして2月である。

 地方都市の裏路地に活気はないが、クレープに似た甘ったるい臭いが夜の街の営業中を伝えていた。強い西風から遅れて、歌声が聞こえてきた。若い女が外れた音程で歌っている。拙い発音の日本語が理想や理屈や皮肉を叫んでいる。日本語ネイティブではない声にも見事に調和していた。題名は知らないが、この曲はブルーハーツだ。若かりしころの私は、あまり

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2021年2月 青にまつわる嘘をつく

2021年2月 青にまつわる嘘をつく

 羊と豚を飼った話をすると、彼女は「スープをつくる」と送ってきた。命令でも懇願でも啓示でも義務でもない。人生にそっと現れた偶然の出会い。私はスープをつくることにした。

 2021年の1月、私はスープをつくった。スープと言われ、頭に浮かんだのがセロリのスープだった。迷うことはなかったのだが、元旦は雑煮をつくった。日本の自然の流れである。二日も雑煮をつくった。三日も雑煮をつくった。そして四日、満を持

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羊と豚

羊と豚

 私の故郷には変わった風習がある。子供が生まれると、村から小羊と小豚が贈られるのである。家畜は人間の子供の成長を引っ張るように、一足二足早く成長していく。そして家畜は成長の節目で祝祭で神に供えられる。初めて言葉を話したときに羊を、初めて村の大人仕事をしたときに豚を。どんなに貧しい家でも子供の成長を盛大に祝うことができる。血は空気に散らせて神に捧げ、肉は丸焼きにして村中に振舞うことで村人の内側から神

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17 パートナーシップで目標を達成しよう

 暑い。木陰に涼がない。夏の暑さはこんな感じだっただろうか。地区の放送が外出を控えるようにと言う。気づくと口が開いている。汗が背中を垂れる。それでも無職の私には散歩しかないのである。影から影へと歩く。熱射を避けて山の中を歩く。足休めにアスファルト道路を歩く。脳みそが空気や風景を受け入れることができない。足を前に進め、暑い、暑いと口に出す。

 私のSDGsも最後の一つである。別に目標を達成したわけ

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12 つくる責任つかう責任

 梅雨入りした。公に宣言されずとも、連日の雨でみんながそう思っていた。梅雨らしいじんわりと長く広い雨ではなく、マンゴー的な短く騒がしい雨だった。私の安物の古いテントでは雨を防ぎきれなかった。扉を二度叩き、お邪魔しますと小屋に入った。
 妻がハンモックで横になっていた。東京から持ってきたであろうサイドテーブル、東京から持ってきたであろうバカラのグラスに入った赤ワイン、豪華な別荘のような優雅さがあった

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9 産業と技術革新の基盤をつくろう

 日本の産業、世界の産業はズタズタらしい。実感なし。この町には変わらない風景が広がっている。元々産業がないから、産業の停滞は関係ない。外貨は稼げないが、稼ぎがなくても困らない。無職は無職のままである。

 夜明け直後、私は備えてレモングラスを採集にいった。山や畑にではなく、別荘街に。別荘街は山の上にある碁盤の目状に整備された区画である。区間に入ってすぐの管理事務所の前で赤い蛇口を捻る。温泉の熱さを

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5 ジェンダー平等を実現しよう

 春が来た。空気がざわついている。世界はざわついている。新型コロナウイルスで大騒ぎだ。妻は駅前の電波を利用し、テレワークで復職していた。私は相変わらず、ただ生きている。生きていることを誇示するかのように、今日も歩く。道路の選択肢が少ないから、仕方なしに駅前を通る。妻を囲みスイーツ女子たちが座っていた。彼女たちは仕事が休みになっていた。素通りするつもりが近寄ってしまった。 スイーツ女子たちは自作と思

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3 すべての人に健康と福祉を

 今年の私のテーマは健康である。年齢的に体のボロが出はじめていた。今年の心の書き初めでは大きく”健康第一”と書いた。それで3番の”すべての人に健康と福祉を”の活動終了、とはいかない。敵はもう一人いる。今日現在、健康を脅かすのは肉体的な衰えだけではない。”感染症の蔓延”が迫っていた。新型コロナウイルスである。

 この町にはまだ罹患者はいません、駅員がそう言っていた。駅員はアルコール消毒と手洗いばか

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1 貧困をなくそう

 歩くと少し汗ばんで、すぐに涼風で乾く。しかし今年の春の心地良さは表面的だった。私は体の芯で苦しんでいた。軽い動悸と鼻水、目は痒くてしょぼしょぼ。散歩中に見かけた電車の乗客にマスクの人が多かったことで、ひょっとしてこれが花粉症かと自覚した。昨年までは何事もなかった。散歩しながらこれが花粉症だと確信を持った。四十二歳にして、花粉症が顕在化した。元々、アレルギー検査では、海老と花粉とハウスダストは反応

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4 質の高い教育をみんなに

 目が覚めたら腹筋に力を入れて即座に布団を押しのけ、体を起こす。微睡みも二度寝もない。歯磨きと柔軟体操をする。厄年を過ぎたら体の健康は成行では保てない。薪割りをする。汗ばむようになったのは春の証だ。割ったばかりの薪で湯を沸かす。珈琲を飲む。冷えた汗が寒さの緊張感を生むが、3月の日差しに珈琲の香り、優雅な朝である。一息つくと外に出て、そして煙草を吸う。
 誰かに田舎に暮らす理由を尋ねられた際には、煙

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8 働きがいも経済成長も

 SDGsの8番、”働きがいも経済成長も”に取り組むことにした。私はつい先日まで、コンビニエンスストアで働いていた。働きがいを感じる仕事だった。日用品を売り、近所の人と挨拶を交わし、礼を言い合う。立ち仕事に搬入搬出陳列、適度な疲労感もあった。低賃金は否めないが、煙草が買えないほどではなかった。
 今の日本にこれ以上の経済成長が必要だとは思えなかった。経済成長が絶対善の東京在住の妻と山小屋生活の私、

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