紫綺ハム

エッセイの溜まり場。 昔に書き留めたものを掘り起こしてみたり、その場で思ったことを書き…

紫綺ハム

エッセイの溜まり場。 昔に書き留めたものを掘り起こしてみたり、その場で思ったことを書き連ねてみたりしています。時系列はバラバラ。 写真も自分で撮っています。

記事一覧

緑馬

蛮族の長は、足腰丈夫で毛艶の良い世界一の馬を求めていた。ある日、長は条件に合う馬を探してくるように部下に命じた。 部下は金持ちの家に盗みに行ったり、街の市場で情…

紫綺ハム
3日前

付きもの

君がついてくる。ずっとついてくる。 ある日別れの手紙が来た。 もう随分と会っていない彼からの。 当然のように受け入れた。 手紙には、彼自身の言い訳と、私への心配。 …

紫綺ハム
2週間前
1

都都逸
ぼける人影 合わないピント 霞んでいるのは 君のせい

紫綺ハム
4か月前

相模川

十一月の川は様々な鳥がいる。 河原に群がるカラス。水面を泳ぐ鴨。 オナガが川の中央へ飛んできては河原の木へ戻ってゆく。 三角州の縁をゆっくり歩く小鷺、中鷺。 小鷺の…

紫綺ハム
7か月前

川で寝る

日曜日の朝、八時三十分。 目が覚めてカーテンを開けると、綺麗な秋空が広がっていた。 キッチンに行って一杯の水を飲む。目の前には四つ切りの食パンがあった。 私は手早…

紫綺ハム
8か月前
2

中秋の名月

※9/29執筆 河川沿いにある公園まで散歩をした。 公園は、傾いた日の光に照らされオレンジ色に輝いており、涼しい風に誘われてランニングをしにきた人や遊び疲れた子供を保…

紫綺ハム
9か月前
3

代々木上原の喫茶店にて

隣の席の男二人が雑談をしている。 年齢はどうやら七〇を超えているようだ。まさに旧友との雑談といった様子で、ゴルフのこと、最近やっている再生医療のこと、昔の女の話…

紫綺ハム
10か月前
3

河原

秋茜が着地しようとしたところで強い風が吹いた。風に流されて秋茜は五メートルも後ろへと流されていき、バランスをとりながらふらふらと宙を舞ったのち、踵を返して何処か…

紫綺ハム
10か月前
1

綾瀬と三瀬川

子供の頃、小田急線本厚木駅に住んでいた私は「綾瀬行き」というのはどこか遠くの誰も知らない街まで行く長い長い電車で、乗り間違えては行けない路線だと思っていた。その…

紫綺ハム
11か月前
1

真夏の夕暮れ

大きくて、もこもことした真っ白な雲に夕陽が当たっていた。その前を若いツバメが3羽通り過ぎた。 住宅街の道路で子供が父親と大きなシャボン玉を作っている。 遠くから、…

紫綺ハム
11か月前
1

都都逸
黒というより 灰色の彼 その中の白 見出したい

紫綺ハム
1年前

白には全てがあるのか、全てがないのか。
黒には全てがあるのか、全てがないのか。

紫綺ハム
1年前

都都逸
傘をさしても 足早の帰路 濡れる手紙が 憂わしい

紫綺ハム
1年前
1

失恋した次の日

初めて、仮病を使って会社を休んだ。 お年寄りのおじいちゃん上司が、やけに体調を気遣って心配してくれた。 私の行っている仕事は個々に責任を負うもので、所属する部署は…

紫綺ハム
1年前
10

独り言

もしこの世界に強烈な引力が存在するのだとしたら、それは地球でも大惑星でもなく生物の本能的な執着心だろう。
たとえ自分自身の気の持ちようだとしても、理性では抗うことのできない程強い執着は存在する。それが無自覚であろうとも。

紫綺ハム
1年前
4

俳句1

秋空に 揺れる葛の葉 芒の穂 小川に隠る 鷺の足音

紫綺ハム
1年前
緑馬

緑馬

蛮族の長は、足腰丈夫で毛艶の良い世界一の馬を求めていた。ある日、長は条件に合う馬を探してくるように部下に命じた。
部下は金持ちの家に盗みに行ったり、街の市場で情報を集めたりして、長の元には立派な馬が沢山集まった。
しかし、長は満足しなかった。もっと見たことのないような馬が欲しいという。
部下の中にいた若い男が、その話を聞いて山岳地帯と小さな村に向かう。そこには緑に輝く馬の伝説があった。
村の裏手の

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付きもの

付きもの

君がついてくる。ずっとついてくる。

ある日別れの手紙が来た。
もう随分と会っていない彼からの。
当然のように受け入れた。
手紙には、彼自身の言い訳と、私への心配。
数ヶ月も音沙汰なしだったのに、急に連絡をよこしてきたと思ったらこれ。しかも手紙だし。
でも彼の気難しいところを知っている。一人で答えが出せずずっと悩み続け、悩むのに疲れて考えないようにして逃げて、酒を飲み、夜中までそうやってひとしきり

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都都逸
ぼける人影 合わないピント 霞んでいるのは 君のせい

相模川

相模川

十一月の川は様々な鳥がいる。
河原に群がるカラス。水面を泳ぐ鴨。
オナガが川の中央へ飛んできては河原の木へ戻ってゆく。
三角州の縁をゆっくり歩く小鷺、中鷺。
小鷺の子供がどこからも分からず飛んできて、親の足元に降り立つ。
空中を悠々と飛び回る鳶に、その上を遊ぶように飛び回る雀。
その更に遠くの空を、雁が二羽と一羽。
不意に横からぱしゃりと音が鳴る。
鮎か鱒が跳ねたようだった。
いつの間にか中州に集

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川で寝る

川で寝る

日曜日の朝、八時三十分。
目が覚めてカーテンを開けると、綺麗な秋空が広がっていた。
キッチンに行って一杯の水を飲む。目の前には四つ切りの食パンがあった。
私は手早くサンドイッチを作り、川へ出かけることにする。簡単なピクニック気分だ。
河原を散歩する。
足場が悪く、ところどころ砂が敷かれた坂で足を滑らせた。でもそれもまた川の魅力だと思う。
適度に座ることのできそうな石を探してしばらく歩いていると、カ

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中秋の名月

中秋の名月

※9/29執筆
河川沿いにある公園まで散歩をした。
公園は、傾いた日の光に照らされオレンジ色に輝いており、涼しい風に誘われてランニングをしにきた人や遊び疲れた子供を保育園に迎えにきた母親等で賑わっていた。
私も日暮れの風につられて外に出てきたうちの一人で、あてもなく動かしていた足を休めつつ、川沿いの歩行者専用道路でぼんやりと夕焼けを眺めていた。
すると、奥から散歩をしているらしき奥様が歩いてくる。

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代々木上原の喫茶店にて

代々木上原の喫茶店にて

隣の席の男二人が雑談をしている。
年齢はどうやら七〇を超えているようだ。まさに旧友との雑談といった様子で、ゴルフのこと、最近やっている再生医療のこと、昔の女の話、今のセックス事情などについて、大まかに、そして下世話に自分達の話をしていた。

彼らの話の中で特に耳を傾けてしまったのは、昔の女の話だ。
当時彼らが十七歳で社会に出た頃、年上の女性と付き合うのはどうやら男のステータスの一つだったらしい。片

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河原

河原

秋茜が着地しようとしたところで強い風が吹いた。風に流されて秋茜は五メートルも後ろへと流されていき、バランスをとりながらふらふらと宙を舞ったのち、踵を返して何処かへと飛んで行った。
風に流されるままでもよいのだと、ただ落ちさえしなければよいのだと、その蜻蛉が言っていた。

綾瀬と三瀬川

綾瀬と三瀬川

子供の頃、小田急線本厚木駅に住んでいた私は「綾瀬行き」というのはどこか遠くの誰も知らない街まで行く長い長い電車で、乗り間違えては行けない路線だと思っていた。その頃の自分の活動範囲が本厚木駅から町田駅までという、なんともミニマムで可愛らしい世界に住んでいたせいもある。
当時の私には、「綾瀬」は新宿でもないどこか違う世界の駅で、「北千住」はその手前の関所で、そこを越えたらもう帰れないところまで行ってし

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真夏の夕暮れ

真夏の夕暮れ

大きくて、もこもことした真っ白な雲に夕陽が当たっていた。その前を若いツバメが3羽通り過ぎた。
住宅街の道路で子供が父親と大きなシャボン玉を作っている。
遠くから、蝉の鳴き声と、たまに雷の音。
ふと目の前を歩いていた女性に気がつく。60〜70代の、買い物帰りのお婆さん。背負っているリュックのファスナーが全開で、財布やその他中身が丸見えだった。声をかけて伝えると、「あらまあ!」と言って笑い、お礼を言っ

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都都逸
黒というより 灰色の彼 その中の白 見出したい

白には全てがあるのか、全てがないのか。
黒には全てがあるのか、全てがないのか。

都都逸
傘をさしても 足早の帰路 濡れる手紙が 憂わしい

失恋した次の日

失恋した次の日

初めて、仮病を使って会社を休んだ。
お年寄りのおじいちゃん上司が、やけに体調を気遣って心配してくれた。
私の行っている仕事は個々に責任を負うもので、所属する部署は基本個人プレイだ。そのため、仕事を振る相手は特にいない。だからこの唐突な休みは、終えてみてから気づいたことだけれども、あまり休みとして意味を為さなかった。
朝からずっと客先や下請、社内営業等から電話がくる。社用携帯のコール音がするたびに、

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独り言

もしこの世界に強烈な引力が存在するのだとしたら、それは地球でも大惑星でもなく生物の本能的な執着心だろう。
たとえ自分自身の気の持ちようだとしても、理性では抗うことのできない程強い執着は存在する。それが無自覚であろうとも。

俳句1

秋空に 揺れる葛の葉 芒の穂 小川に隠る 鷺の足音