見出し画像

中秋の名月

※9/29執筆
河川沿いにある公園まで散歩をした。
公園は、傾いた日の光に照らされオレンジ色に輝いており、涼しい風に誘われてランニングをしにきた人や遊び疲れた子供を保育園に迎えにきた母親等で賑わっていた。
私も日暮れの風につられて外に出てきたうちの一人で、あてもなく動かしていた足を休めつつ、川沿いの歩行者専用道路でぼんやりと夕焼けを眺めていた。
すると、奥から散歩をしているらしき奥様が歩いてくる。手にはたくさんの芒(ススキ)。
そういえば、明日は中秋の名月だ。
私も真似をしたくなって、芒の葉を手折る。しかし芒の葉は、今年の猛暑日が続く夏を耐えてきただけあり、茎は太く繊維は強く、なかなか切ることができない。
苦戦していると後ろから声が。
「これ、使う?」
後ろにいたのは先ほど見かけた奥様だった。手には鋏。
「い、いいんですか」
私はオドオドとしていると、奥様は
「もしかして(芒を取っているのかしら)と思って。小さいけれどどうぞ」
と笑いかけてくださったのだった。
恐縮しながら鋏をお借りして、私は3本の太くて立派な芒を手に入れた。
奥様は後ろで見守りながら、私が手にかけた芒に対して「細い種類だから隣の太くて立派な方がいい」と勧めてくれたり、数本なんて遠慮をせずもっと取ったらいいなんて言ってくださったり、なんとも心広くお優しい方だった。
私は鋏を返しつつ、彼女にお礼を言うことしかできないもどかしさを感じた。
けれど、家に帰って部屋に飾ってからもそのことが忘れられずにいた私は、心が温まるのは彼女への小さな恩返しになるのではないかと思い、芒を見るたびに心の中でありがとうございますと呟くのだった。
またすれ違うことがあれば、改めてお礼をしたいものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?