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緑馬

蛮族の長は、足腰丈夫で毛艶の良い世界一の馬を求めていた。ある日、長は条件に合う馬を探してくるように部下に命じた。
部下は金持ちの家に盗みに行ったり、街の市場で情報を集めたりして、長の元には立派な馬が沢山集まった。
しかし、長は満足しなかった。もっと見たことのないような馬が欲しいという。
部下の中にいた若い男が、その話を聞いて山岳地帯と小さな村に向かう。そこには緑に輝く馬の伝説があった。
村の裏手の山に行ったり湖に行ったり、男はその村で緑の馬を探し回った。
色々あって、若い男はその伝説の緑の馬を見つける。しかしまだ仔馬だった。仔馬のままではきっと、長にひどく扱われてこの馬は死んでしまうだろう。そう考えた男は、村の家族に匿ってもらいながら、緑の仔馬を育てようと決意する。
しかし仲間のうちの一人が、若い男が馬を探してしばらく帰ってこないのに気づき、男を追ってその村まで辿り着いていた。
話を盗み聞きした仲間は、男が緑の馬を自分のものにしようと企てているのではないか、と勘ぐる。長にこの話を一刻も早く知らせなければ、と仲間は長の元へひっそりと帰っていく。
何も知らない若い男は、その村で緑の仔馬を可愛がり続けた。日に日に大きく、毛艶が良くなっていく馬が愛しかった。村の家族とも仲良くなった。村は、村の宝である緑の馬を熱心に世話する男に好意的だった。
村での生活が数ヶ月を迎えたある日、長が仲間の男に連れられてその村にやってくる。
長が「緑の馬がいると聞いたので譲って欲しい」と話すと、村の人達は「村の宝なので譲りたくはないが、どうしてもと言うなら仕方がない。とある若者が熱心に育てているので、その若者に聞いてくれ」といい、長を若い男と緑の馬のところへ案内する。
仲間の男は長に「あの男は緑の馬が長にバレるのを恐れてこの村に身を潜めている。馬も自分のものにしようとしているに違いない」と喚き立てるが、長はそれには何も答えずズンズンと歩いていく。
家に着くと、馬屋で緑の馬を可愛がっている若い男を見つける。長は初めて見る緑の馬に目を奪われるが、すぐにこの毛艶の良さと立派な体格は世話をする者の愛情によるものだと気づく。長は、男はよほど献身的に馬の世話をしているのだ、と感心して、男に声をかける。
声をかけられた若い男は、久々に会う長に跪く。馬を見つけるまでのこと、仔馬から大人になるまで育てていることを全て話したのち、馬が大きくなり、走る練習等もすべて終わってから長に譲りたいという。今はまだ仔馬だから連れていくのは待って欲しいと。
仲間の男が、それは嘘で自分のものにしたいだけだと騒ぎ立てる。その声で家の者達も出てくる。家の者達は蛮族が若い男から馬を奪おうとしていると思い、間に入り馬と男を守ろうとする。
長はその様子を見て、馬の献身的に育て、村の家族達にも愛されている若い男から馬を取るわけにも、男を連れて帰るわけにもいかないと思った。家族の中には、若い男に惚れている年頃の娘の様子もあった。
長は、若い男と家族に言う。「この馬は確かに美しく見たことのない宝のような馬だが、まだ子供で到底自分が乗れるような大きさではない。それに、一頭では可哀想だ。しっかり育て、美しい子を作ってもらい、それらが育ったらそのうちの一頭を引き取りにこよう。それまで大切に育てるのだ」と。
若い男は元よりあと一年したら長に渡しに行こうと思っていた。しかし、長は馬を次の世代まで繋げろという。長い間、長の元を離れてこの村で過ごしていい、という長の心遣いだった。
これほど自分と馬のことを考えてくれる人などいない。こういった、細かなことに気づき視野を広くもって物事を考えられる人が、本当の上に立つ人なのだ。
若い男は感心して、一生この長についていくと決めたのだった。


ー 緑馬 ー


※注意
ちなみにこのお話は私の夢が作り出した嘘の話で、こんな故事はない。
あまりにもリアルな夢だったので、ノートに投稿してみることにした。

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