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高井宏章 雑文帳

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徒然なるままに。案外、ええ事書いてます
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#本

好きな人と、歩けばいい。 『会って、話すこと。』を読んで

好きな人と、歩けばいい。 『会って、話すこと。』を読んで

田中泰延さんの『会って、話すこと。』を読んだ。
面白かった。

前著『読みたいことを、書けばいい。』の読後、私は長い文章を書いた。

長くなったのは、面白かったから、なのだが、世評と自分の受け止め方にズレがあったから、でもあった。
『会って、話すこと。』については、書評やネット上の感想に違和感はない。「元電通マンが金欲しさで書いた本」と正当に受け止められている。

どこかの本に「誰かがもう書いてい

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古くてあたらしい、資本主義と出版 「ひろのぶと」株主ミーティングに寄せて

古くてあたらしい、資本主義と出版 「ひろのぶと」株主ミーティングに寄せて

去る8月6日、田中泰延さんの経営する出版社「ひろのぶと」の株主ミーティングが開催された。

登壇予定だったが、諸般の事情で出席がかなわなかった。私自身、とても楽しみにしていたので、とても残念だった。
未練がましくプレゼンまがいの祝辞を送った。
田中さん、代読ありがとうございました。
短時間で書いたので少々粗いが、少しだけ手を入れて残しておく。
では、ごゆるりと。

おカネの教室 in ひろのぶと皆

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地球儀から考える新冷戦 『13歳からの地政学』

地球儀から考える新冷戦 『13歳からの地政学』

最後に地球儀をじっくり見たのがいつだったか、覚えているだろうか。

私はといえば、リビングに転がる「ほぼ日のアースボール」のビーチボール版で遊ぶことはあっても、「じっくり見る」ということあまりなかった。

先日、少し空気が抜け気味だった地球儀に息を吹き込み、久しぶりに時間をかけて眺めまわした。
きっかけはロシアによるウクライナ侵攻と、田中孝幸さんのデビュー作『13歳からの地政学』を読んだことだった

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「神様」が描き切った受難と救済 手塚治虫『きりひと讃歌』

「神様」が描き切った受難と救済 手塚治虫『きりひと讃歌』

「一番のお気に入りの手塚作品はどれか」

マンガ好きならこんな話題で盛り上がったことがあるだろう。

『ブラック・ジャック』『火の鳥』『ブッダ』『どろろ』『奇子』『三つ目がとおる』『シュマリ』『ばるぼら』『アドルフに告ぐ』――。

今、本棚に並んでいる作品をざっと挙げただけでも、どれを選ぶか迷う。短編集や『人間ども集まれ!』といった異色作も捨てがたい。少し上の世代なら、『鉄腕アトム』や『ジャングル

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戦友と「神様」と2つの青春 藤子不二雄Ⓐ『まんが道』

戦友と「神様」と2つの青春 藤子不二雄Ⓐ『まんが道』

2018年夏に当コラムを始めたとき、「いつか必ず書こう」と決めた作品がいくつかあった。

その筆頭格が、藤子不二雄Ⓐの『まんが道』だ。

漫画家のバイブル私の手元にあるのは2012~13年にかけて刊行された全10巻の「決定版」だ。

小畑健、ハロルド作石、江口寿史、あらゐけいいち、島本和彦、秋本治、荒木飛呂彦……。
帯や文末の寄稿文に並ぶ漫画家の名前を見るだけで、この作品の偉大さが分かる。どの言葉

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ナメクジに考えさせられる 『考えるナメクジ』

ナメクジに考えさせられる 『考えるナメクジ』

ナメクジほど、「考える」という動詞と縁遠いイメージの生物はなかなかいないだろう。
これしかない、というタイトルで、しかも看板に偽りなしの好著だ。

『考えるナメクジ』さくら舎 松尾亮太/著

苦い薬品とセットで与えると美味しいジュースを避けるようになる。
同じように薬品で条件付けすると、大好きな暗い隠れ家も「苦い思い出の場所」と記憶して、隠れるのを逡巡する。

そんな意外な学習能力・論理的思考力に

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これで書けなきゃ、お手上げ 『書くのがしんどい』

これで書けなきゃ、お手上げ 『書くのがしんどい』

書名だけみると、ベストセラー『読みたいことを、書けばいい。』の著者、田中泰延さんがこぼす愚痴のようだ。田中さんはあちこちで「書くのは苦しい」と発言している。

本書はそうした泣き言ではなく、「そんなあなたが書けちゃうんです!」という帯の文句を含めてメッセージが完結する、「これから書く人」に向けたガイドブックだ。

『書くのがしんどい』PHP研究所 竹村俊助/著

文章術を説く本は何冊か目を通してい

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「勉強のやり方」を知らない子どもたちに 『東大式節約勉強法』

「勉強のやり方」を知らない子どもたちに 『東大式節約勉強法』

私事で恐縮だが、著者の布施川天馬さんと私は、年は二回り以上離れているものの、境遇が少し似ている。

家庭が貧しく、塾や予備校に通うお金もなく、かといって自宅で学習する習慣もなく、働きながら大学受験に臨み、地理的・金銭的な制約で「地元の国立大学」に入った。

私は現役で名古屋大学、布施川さんは一浪で東大と「着地」は違っているが、似たようなコースだ。

『東大式節約勉強法』扶桑社 布施川天馬/著

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タペストリーのような大風呂敷 『三体2 黒暗森林』

タペストリーのような大風呂敷 『三体2 黒暗森林』

翻訳モノには、独特のマゾヒズム的な楽しみ方がある。

もう「新刊」は出ている。
でも、読めない。
ギリギリ行ける英語でも大作は躊躇する。
原書を読んだ人たちから「傑作」といった評が耳に入ってくる。
ジリジリしながら、訳を待つ生殺しに耐える日々。

『三体』3部作にそんな思いを抱く方は多かろう。

『三体II 黒暗森林』早川書房
劉慈欣/著 大森望、立原透耶、上原かおり、泊功/翻訳

私もこれほど「

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メンタルトレーニング 初心者から実践すべき「ゾーン」に入るための5つの鉄則

メンタルトレーニング 初心者から実践すべき「ゾーン」に入るための5つの鉄則

スポーツに限らず、何かを始めたばかりの人は、「技術も身についていないのにメンタルトレーニングなんて」と考えがちだ。

大間違いである。

アマチュアほど、それも初心者ほど、早くメンタルトレーニングを導入すべきなのだ。

早ければ早いほど良いあるゴルフのメンタルトレーニング本にこんな趣旨の文章があった。

「たくさん叩くアマチュアの方がメントレの成果を生かすチャンスは多い」

これは半分ジョークで半

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教育の「悪平等」への偏見をほぐす 『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?』

教育の「悪平等」への偏見をほぐす 『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?』

PISAをご存知だろうか。
OECD(経済協力開発機構)が3年ごとに行う国際的な学力調査で、Programme for International Student Assessmentの頭文字をつないだものだ。
「日本の子ども、学力順位が後退」といった形でニュースになるので、名前は聞いたことがなくても、結果だけご覧になったことはあるかもしれない。

本書は英国人教師が、PISAの成績上位から5つの

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鳥肌モノのエピソードの宝庫 『エリザベス女王』

鳥肌モノのエピソードの宝庫 『エリザベス女王』

秀作ぞろいの中公新書の歴史シリーズのなかでも、指折りの傑作だ。

今年で94歳、在位68年を迎えた「史上最長・最強のイギリス君主」の世界史的な位置づけ、そして何よりエリザベス女王自身と英王室メンバーの伝記として、きわめて秀逸な読み物になっている。

『エリザベス女王』中央公論新社 君塚直隆/著

あらかじめお断りしておくと、ロンドンに駐在した影響もあって、私はエリザベス女王のファンだ。ご長命をお祈

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研ぎすました短刀のような12編 『刑罰』

研ぎすました短刀のような12編 『刑罰』

各国で絶賛され、日本でも2012年の本屋大賞・翻訳小説部門トップに輝いた『犯罪』の筆者の最新作は、期待を裏切らない珠玉の短編集だ。
『犯罪』と『罪悪』の2作を何度も再読してきたシーラッハファンの私にとっては、文字通り、待望の1冊。6月に入手して以来、お気に入りの収録作はすでに3~4回読み返している。

『刑罰』東京創元社
フェルディナント・フォン・シーラッハ

ドイツで刑事事件専門の弁護士として活

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アトピっ子だった自分に、タイムマシンで届けたい 『最新医学で一番正しいアトピーの治し方』

アトピっ子だった自分に、タイムマシンで届けたい 『最新医学で一番正しいアトピーの治し方』

2月14日に光文社のサイト「本がすき。」にこの本のレビューを書いた。

『最新医学で一番正しいアトピーの治し方』
ダイヤモンド社 大塚篤司/著

このレビューの前に、以下の連続ツイートも割と広く拡散された。

記録のためにも書き残しておきたいテーマなので、以下、レビューとツイートを再構成してまとめておく。

母が巻いてくれたサランラップ私は子どものころ、「アトピっ子」だった。
症状が酷かったのは小

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