watatsumi

自己紹介がにがて。劣等感のかたまり。いつでも夢のなか。

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自己紹介がにがて。劣等感のかたまり。いつでも夢のなか。

記事一覧

四捨五入して四十になる前に軟骨ピアスをあけたはなし。

今年で35になる。 ついにここまできてしまった、とただ思う。 悪あがきという訳ではないけれど、何かやり残したことはないかと考えてみた。 多分たくさんあるのだろうが、…

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1年前
4

算数がうまくできないわたしは多分、生きるのがへた。

わたしは勉強ができない。 特に算数は絶望的である。未だに頭の中で九九の歌をうたっている。 両親に褒められた記憶ってほとんどないのだけど、ひとつだけ覚えていること…

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1年前
2

ファッションアルコール。

大人になりたかった。 大人のいい女になりたかった。 ビールは喉越しだ、なんていわれてぎゅうぎゅうと飲んだ。勢いをつけて飲むものだから、あっという間に酔いがまわっ…

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1年前
7

弾指のまにまに。

この時、わたしも同じ現場にいた。 目の前で踊り狂う塔山忠臣(敬称略)を覚えている。 わたしは洋楽は通ってこなかったので、JOY DIVISIONは知らなかった。前座のバンド…

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2年前
5

わたしと映画館のはなし。

映画を観るときは一番後ろの真ん中に座る。 金城一紀の映画篇を読んでから、ずっとそうしている。 わたしの生まれた町に映画館はない。 電車で40分の市内へ出るか、夏休み…

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2年前
3

除霊のやり方はネットで学んだ。

実家を出でからずっとアパート暮らしだったが、ついに一軒家に住むことになった。庭付き、ガレージ付き、海近く、そしてDIYが可能と、わたしの条件をほぼ満たしていた。た…

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2年前
1

コロッケの女。

『お久しぶりです。お元気ですか。』 ある日届いた迷惑メール。勿論返信などしない。URLもなにも付いていないそれは、少し、変だった。 『あなたはすぐ風邪をひくので…

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4年前
8

おなじファインダーをのぞく。

「写真とかあんまり興味なかった。」 そのときぼんやりと、むかし母から言われた言葉を思い出していた。 「カメラなんかやってなんになるの。」 仕事にするならカメラ…

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4年前
5

勇気をだして歯医者にいったはなし。

わたしは歯医者が苦手だ。それはたぶん、こどもの頃の記憶からなんだろうけれど、歯医者はいつだって恐怖の対象だった。 その昔、母に連れられて幼稚園の近くの歯医者に通…

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4年前
1

ライブハウスで世界が変わった瞬間。

初めてライブハウスに足を踏み入れたのは、中学三年生の時だった。 壁中に貼られたチラシ、タバコの匂い、薄暗い照明。「悪いこと」をしているような感覚が堪らなかった。 …

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5年前
4

進行方向、西。

子供の頃から地理はあまり得意ではなく、東西南北は地元の盆踊りの唄で覚えた。今自分がどちらの方角を見ているかなんてことは、コンパスのアプリか何かを使わなければわか…

watatsumi
5年前
2
四捨五入して四十になる前に軟骨ピアスをあけたはなし。

四捨五入して四十になる前に軟骨ピアスをあけたはなし。

今年で35になる。
ついにここまできてしまった、とただ思う。
悪あがきという訳ではないけれど、何かやり残したことはないかと考えてみた。

多分たくさんあるのだろうが、実現可能なやつ。
それで達成感というか納得したいというか、若いときの思い出を美化しようという浅はかな考えだった。

ふと思いついたのがピアス。
わたしには右耳は自分で、左耳は他人にあけてもらうという変な決まりがあった。誰に言われた訳で

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算数がうまくできないわたしは多分、生きるのがへた。

算数がうまくできないわたしは多分、生きるのがへた。

わたしは勉強ができない。
特に算数は絶望的である。未だに頭の中で九九の歌をうたっている。

両親に褒められた記憶ってほとんどないのだけど、ひとつだけ覚えていることがある。小学一年生だったと思う。

12-7=?

みたいな問題で。どうしてわかったの?と聞かれて、
「2+3は5でしょ?」と答えた。

「すごーい!天才だー!」
母は大げさに喜んで見せた。

おそらくこれが、わたしが褒められた唯一の記憶

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ファッションアルコール。

ファッションアルコール。

大人になりたかった。
大人のいい女になりたかった。

ビールは喉越しだ、なんていわれてぎゅうぎゅうと飲んだ。勢いをつけて飲むものだから、あっという間に酔いがまわった。
あのとき吐いたビールと浅漬けの色は、きれいな黄色であった。(衛生的にはもちろん汚いのだが。)

いい女になりたかった。
お酒も嗜むいい女に。

スーパーで安物の赤ワインを一本買ってみたものの、当然飲み切れる訳もなく。仕方なくカレーを

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弾指のまにまに。

弾指のまにまに。

この時、わたしも同じ現場にいた。
目の前で踊り狂う塔山忠臣(敬称略)を覚えている。

わたしは洋楽は通ってこなかったので、JOY DIVISIONは知らなかった。前座のバンドを観に行ったのである。

予定開始時刻より前倒しで始まった為、観たかったバンドの演奏は途中からだった。どのぐらい前倒しだったかは記憶にないが、「外タレすげ〜」と思ったのは覚えている。(外タレのワガママで早く始まったと思っていた

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わたしと映画館のはなし。

わたしと映画館のはなし。

映画を観るときは一番後ろの真ん中に座る。
金城一紀の映画篇を読んでから、ずっとそうしている。

わたしの生まれた町に映画館はない。
電車で40分の市内へ出るか、夏休み等の長期休暇の際に公民館での上映を観るかだ。(長期休暇の前に学校で映画の割引券のようなものが配られたのを覚えている。細長いつるつるの紙で、映画のタイトルが書いてあって。)

公民館はもちろん映画館ではないのでポップコーンなんてものはな

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除霊のやり方はネットで学んだ。

除霊のやり方はネットで学んだ。

実家を出でからずっとアパート暮らしだったが、ついに一軒家に住むことになった。庭付き、ガレージ付き、海近く、そしてDIYが可能と、わたしの条件をほぼ満たしていた。ただ予算は無計画にもほとんどなかったので、綺麗とはお世辞にも言えない物件だった。

物件の下見時にはハイになっていたテンションも、いざ引っ越してみれば本当に暮らしていけるのか不安になった。とても素足で歩ける状態ではなかったので、引っ越し業者

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コロッケの女。

コロッケの女。

『お久しぶりです。お元気ですか。』

ある日届いた迷惑メール。勿論返信などしない。URLもなにも付いていないそれは、少し、変だった。

『あなたはすぐ風邪をひくので心配です。ちゃんとあったかくして寝てくださいね。』

『好き嫌いはしていませんか。なんでも食べないとだめですよ。』

そのおかしな迷惑メールは、一日一通、必ず送られて来た。やはり返信はしないけれど、なんとなくそれを見るのが日

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おなじファインダーをのぞく。

おなじファインダーをのぞく。

「写真とかあんまり興味なかった。」

そのときぼんやりと、むかし母から言われた言葉を思い出していた。

「カメラなんかやってなんになるの。」

仕事にするならカメラを持っていいの?
わたしがこどもだからだめなの?
勉強ができないからだめなの?
ただ好きだからじゃ、だめなの?

結局、母にそれを追求することはなかった。わかって欲しいなんて気持ちはこれっぽっちもなかったし、母が納得するようなうまい

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勇気をだして歯医者にいったはなし。

勇気をだして歯医者にいったはなし。

わたしは歯医者が苦手だ。それはたぶん、こどもの頃の記憶からなんだろうけれど、歯医者はいつだって恐怖の対象だった。

その昔、母に連れられて幼稚園の近くの歯医者に通っていた。なにをされるかわかっていないわたしはただ怖くて、泣き叫んだ。大人数人で押さえ付けられ、無理矢理に口をこじ開けられた。

それが歯医者のはじまりの記憶で。こどもだったわたしが歯医者を嫌いになってしまうのも仕方がないと、大人のわたし

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ライブハウスで世界が変わった瞬間。

ライブハウスで世界が変わった瞬間。

初めてライブハウスに足を踏み入れたのは、中学三年生の時だった。
壁中に貼られたチラシ、タバコの匂い、薄暗い照明。「悪いこと」をしているような感覚が堪らなかった。

どうしても行きたいと、誕生日プレゼントにライブチケットを強請った。当時は電話でチケットを取った記憶がある。わたしは田舎町に住んでいたし、ライブなんて考えたこともなかった。けれど、わたしの大好きなバンドが、わたしの誕生日近くに、わたしが住

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進行方向、西。

進行方向、西。

子供の頃から地理はあまり得意ではなく、東西南北は地元の盆踊りの唄で覚えた。今自分がどちらの方角を見ているかなんてことは、コンパスのアプリか何かを使わなければわからない。もちろん地図もうまく使えない。ナビも自分の向きが矢印で表示されないと全く役に立たない。

左右すら怪しいレベルの方向音痴である。(流石に左右は認識しているけれど、咄嗟に言葉が出てこないことがよくある。老化の可能性もなくはないが子供の

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