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ファッションアルコール。


大人になりたかった。
大人のいい女になりたかった。


ビールは喉越しだ、なんていわれてぎゅうぎゅうと飲んだ。勢いをつけて飲むものだから、あっという間に酔いがまわった。
あのとき吐いたビールと浅漬けの色は、きれいな黄色であった。(衛生的にはもちろん汚いのだが。)


いい女になりたかった。
お酒も嗜むいい女に。


スーパーで安物の赤ワインを一本買ってみたものの、当然飲み切れる訳もなく。仕方なくカレーを作った。隠し味なんてレベルじゃない量の赤ワインを入れて。
もともと料理は得意ではないのだが、それを考えてもまずいカレーができた。酸っぱいというか、奥歯がぎゅうとなる感じ。料理苦手のあるあるで大量にできてしまったそれを、ひとりきりで過ごす年末年始中にどうにか片付けた。



かっこよくなりたかった。
男とか女とかじゃなくてかっこいい人間に。
(どちらかと言えば男性的なかっこいいに憧れていたのも事実だけれど。)


日本酒のみます。米どころの生まれなので。
甘いも辛いもわからない、高い安いもわからない。ただわたしの好き嫌いだけがそこにある。
そういうもんでしょ?無知を開き直る。


いつもわたし以外の誰かに憧れて。

カクテルばかり飲んでいたギャル(になりたかった)期、甘いの飲んでるのかわいいと思っていた。ファジーネーブルは名前がかわいいと思っていた。

同期の女の子が焼酎お湯割梅干し入りを頼んだのに驚いて、後日ひそかに飲んでみた。飲み方がわからん。

黒霧島とカルーアミルクのボトルを並べて飾っていた。(!?)

名前だけは覚えて帰ってください!
後にも先にも飲んだのはそのいっかいきりだけど、名前はちゃんと覚えている。鍛高譚ね。しそのね、焼酎でしょう。

ストロング缶をはじめて飲んだとき、すぐさま寝落ちた。
本当は「仕事で疲れて帰ってきてお酒とお惣菜きめる独身女(かっこいい)」をやりたかった。

数々のCMに触発されてハイボールも飲んでみた。
かわいくハイテンションにもなれなかったし、カウンター越しの艶っぽいお姉さんにもなれなかった。


フェスで飲むジャックダニエルはもはやエナジードリンク。

ウーロンハイ、緑茶ハイ、しぶくていかすと思っていた。
「甘いのあんまり飲まないんだよね。」
ファジーネーブルがぶ飲みしていた癖に。

クリアアサヒのんだことないけど、ストレス発散かよってぐらいの勢いで歌ってる。
クリアアサヒが!今日も冷えてる!心ウキウキわくわく〜〜〜!!!!!!

冷蔵庫に入ってるのは金麦。
「冷えてるよー!」とか髪の毛抑えながら恋人に呼びかけたりしたい。(色んなCMがごっちゃになっていてこんなシーンがあったのか、わたしの妄想なのかわからなくなっている。)
現実は「清太さーん、カルピス冷えてるよー」ぐらいの、なんかそんな感じ。


そうしてどうにも駄目な人間のまま歳だけ大人になって、いつからか缶ビールは缶のまま飲まずにグラスに注ぐようになっていた。

仕事終わりのビールが美味しく感じるようになっていた。


駄目な人間なのに真面目だったものだから、お酒の過ちなんてのもほとんどない。それを少し後悔しているわたしは、ただハメを外したかったのかもしれない。

「駄目」ではなく「馬鹿」になりたかったのかもしれない。


わたし以外の誰にもなることはできなかったが、いまそれなりに楽しい。



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