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出戻り小学生

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根っからの学校嫌いが大人になって、まさかの学校で働くことに…。 現場における謎と不思議、笑いと感動に溢れた日々の記録。 今でも、戻れるのなら戻りたい…。
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#司書

学校図書館司書という仕事

 初めて赴任した時、何に何処から手を付けて良いのかわからなかった。何せ初めての職業。一人職なので指南してくれる人がいない。勤務開始前に引継ぎと称して二度呼び出しを受け、一校では校長から数時間に渡って図書に関する要望を延々と聞かされ、もう一校では授業の流れと機械の基本操作について実地演習を受けた。図書に関する熱意の凄まじい校長に脅威を覚え、始まる前から不安になった一方、授業に参加した2年生のクラスは

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褒め上手な小学生

 大人になるまで、人に褒められる…ということが殆ど無かった。
 親には勿論、先生など目上の人、友達などを含め…。
 子どもの頃に褒められた記憶がまるでないわけではないが、僅かなそれさえ、子どもの私にはピンとくるものでは無かった。そもそも褒められているのか貶されているのか、冗談で言われているのか、よくわからないものばかり。
「癖毛が可愛いね」(ぼさぼさなだけやん、どこがやねん)
「歌うまいね」(音楽

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読書ノートに…

 読書ノートが面白い。
 個々の国語力が大きく表れるだけでなく、記録の付け方で性格まで丸わかり。感受性が浮き彫りになり、その人となりを知ることが、レファレンスだけでなく、日常のコミュニケーションにも役立つ。
【図書】とは国語科に属する一単元ではあるが、授業を受け持つのは教師ではなく、司書。児童に教育を施す時点で、教師でなくても教員ではあるらしいのだが、私自身、「先生」という呼び方をされる職業に就い

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学童を辞めた理由 ②

 書庫の片付けは蓄積されたゴミと埃との戦いでもあった。イベントで使ったのであろう製作物が、修理もされないままぼろぼろの状態であちこちに積み重なっている。いつか何かに使えるかも…と、捨てずにとっておいて行方さえ分からなくなったのであろう数々の空き箱や本の帯、装備本に挟まれてあったのであろうブックカバーの切れ端や広告類。見失えば何の意味もないのに、片付かない部屋がこういった物の積み重ねから生まれること

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学童を辞めた理由 ①

 就業時間を削られ、給料も減らされて、仕事は山のようにあるのに残業してもジレンマで気が狂いそうになるだけなので、努力して定時に帰ろうとしている。しかし大体は難しい。気付けば30分以上過ぎていた…なんてことは日常茶飯事で、自分に腹が立ってイライラ。それでも仕事が終わらずイライラ。結局何に苛立っているのかさえわからなくなってくる。
 嘗て世を騒がせたある事件をきっかけに、放課後、学校の運動場が遊び場と

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会議に出る ②

 事前にうるさく言ったせいか、今回の議長は議題をまとめた資料と会議の段取りを示したレジュメを、何度も改訂を重ねては、データとして送って寄越した。しかし最近の常で、直前になって問題がいくつも勃発。議題が膨らみ、到底時間内には終わらないであろう予測がつくことになる。
 会議は大体、ゲスト案件から処理されていくため、先ず市教委の担当主事との意見交換から始まるのだが、今回はしょっぱなから冷めてしまった。

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それぞれの春 ➃

 気付いたことがあったからといって、全ての状況を一夜のうちに変えてしまえることは少ない。辞め時を測り損ねて、取り敢えず出勤しなければいけない日々を、ある日を境に百八十度変換させるのは現実的に容易ではないとわかっている。行動力の問題なのかも知れないが、時期尚早で〝後悔先に立たず〟となっては、元も子もないからだ。
 ある程度わかっているのに先に進めないでいると、一通のメールが届いた。学校図書館の広報活

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それぞれの春 ③

 Kさんが市立図書館で勤務していることを知っている司書が他にもいたかも知れなかったが、誰も何も言わなかった。知らないと考えるほうが妥当だとも思った。新年度は始まったばかりで、相互貸出を要する機会はまだ先であるようにも思える。また、勤務時間が削減されたことで、司書自ら赴いて資料を選定する時間が、どの学校でも確保出来ないのが普通になっていた。私が気軽に来られたのは、市立図書館から一番近い場所に学校があ

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それぞれの春 ②

 相互貸出業務の一貫で、市立図書館を訪れた午後、カウンターで思いがけない人の姿を目にした。前年度、一年間だけ同市他校の学校司書として勤務し、契約満了を告げられて退職したその人だ。五年満期の契約終了を待たずに二年で退職者が出たため、代わりに採用されたのが彼女だったのだが、代わりなので契約は三年あるのだと誰もが思っていた。
 その年は異動の可能性が示唆されていたため、どの司書も落ち着きがなかった。
 

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卒業し損ね小学生 ③

 新年度初日の打ち合わせだけでなく、ありとあらゆる校内行事を放棄している。そもそも、参加したところで場違い感が半端ではないので苦にはならない。
 新学期に間に合わせるために、削減された勤務時間分の業務を穴埋めせねばならない。始業式や終業式は、司書一人が図書室に籠っていたところで、殆ど誰も気付かないような学校の規模。黙ってボイコットしたことは何度もあった。しかし入学式や卒業式は、雑務の振り分けがある

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卒業し損ね小学生 ①

 新年度が始まっている。
 例を見ない人事大異動で、職員室はおろか、学校全体が見知らぬ異世界のようだ。今年度は二十人近くが去った。私の知る限り、前代未聞の多さ。その分入ってきているのだが、出て行った人に対し、入って来た、若しくは戻って来た(復帰した)人の女性率が高い。また、個性豊かな去り人達に対し、来たり人達は何だか皆似ている。人が苦手なくせに人に興味がある質なのか、顔と名前を一致させるのは割と得

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ありとあらゆる境目に

 新年度が始まって、毎年何人かがやって来る。100%女の子で、100%高学年だ。
「友達が出来ない。」
「誰と仲良くしたら良いのかわからない。」
 今年やって来た子たちは、ストレートだった。
 学校の規模が大きいと、毎年クラス替えが行われる。クラス数が多ければ多いほど、小学校6年間で、一度も話したことがないとか、同じクラスにさえなったことがない…などという話もよく聞く。
 自身が小規模校の出身で、

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任期満了まであと一年 ③

 次年度の任用について意向調査があったのは秋も盛りのことだった。
【任用を希望しても、同じ勤務形態で雇用されるとは限りません】というような一文が添えられていた気がして、ずっと違和感があった。【希望する】に〇をして提出したが、記入するとき、心の中では『同じ勤務形態でなければ希望しません』と思っていた。○を付ける場所が二択だけで、他に意見を記入する欄などは設けられていなかったため、氏名と○以外には何も

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献血問題①

 三時間目から五時間目までのフリー参観日は、来校した保護者向けに献血を募るのが例年の倣いとなっているらしい。これまで知らなかったのは、私が週二日と三日の二校兼任で、各校の行事を確実に把握するには忙し過ぎたせいでもあるのだが、そのフリー参観日に、該当校へ出勤しているとは限らなかったからである。また、出勤していたとしても、授業時間の一日六限は基本的に埋まっており、昼休みや長休みのみならず、授業合間の十

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