![マガジンのカバー画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/4342492/df6a931958e03231096918e473c5dfd8.jpg?width=800)
- 運営しているクリエイター
#詩人
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/50554655/square_large_ffa7648dab2a38cee6726f3abf90712a.jpg)
綿毛に包まれた種たちは
土のぬくもりを知っているから、
風のなかへ飛び込むのだろう。
*
だれに受けとられなくてもいい、
わたしは差しだす。
どこに届かなくてもいい、
わたしは差しだす。
踏みつけられてもかまわない、
わたしは差しだす。
痛みを差しだすことが唯一
伝える手段なのだから。
声もなく 足音もたてずに
わたしは差しだす。
光に守られた綿毛はひとつの星雲。
日々の重さを綿毛にのせて
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45414894/square_large_3b998b67e867b8aadd295d4cd2f8ba64.png)
ティンカーベル、勇気を抱いて。
*
これを何と名づけようか。
ぬぐっても ぬぐっても
ぬぐいきれない熱が頬の上にあって
わたしから降りてくれないのだ、
妖精のつま先が乗っているみたいに。
ティンカーベル、勇気を抱いて。
かしこいあなたは
かしこいままで生きていてよい。
きょうの肌を溶かして素肌のわたしになる。
つい先ほど肌だったものが、今やとろけて
指先を金色にあたためる。
この熱は、わた
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/42084758/square_large_6dfb1e9a7163c7b92e346e3ba104e63c.png)
自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。
わたしは
わたしに恵まれて
生きている。
*
ただいま、と部屋へ呟いたら
耳をほどいていく儀式。
白いイヤホンを抜き取ります。
マスクの紐もそっと外します。
メガネも外してあげると尚よい。
冷えきった耳は先の方から赤らんで
聴くことを少し休みたがっているよう。
自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。
冬の樹は枝々に氷を咲かせて
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37820426/square_large_b6b81d52708deaf294a662abeda66fa5.png)
夕陽に照らされた綿毛は、
宙(そら)かなたの星雲が降りてきたよう。
*
幼いころ連れていた、犬のぬいぐるみ。
今見れば、こんなにも柔くちいさい。
ふわふわの毛を潰さないように
腕にひしと抱え込んで眠る。
わたしもこのように柔らかかった頃、
おおきな存在に守られていたのか。
だれにも見つからない夢のなかに
ひっそり かくれていたのか。
(もういいかい?)
こころの奥地へ 分け入っていこう。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32682953/square_large_f858aaa15ba2fdd88e04d684e0949cdd.png)
あの夏、わたしたちは何を燃やしていたのか🎆
*
八月の空はゆっくりと暮れていくから
からだの熱を持て余したまま歩き出す。
体温を薄く溶いたような夏の闇は
しっとりと首筋を取り巻いた。
一本のろうそくを囲めば、
ちいさな花火大会がはじまる。
それぞれの手が自在に描く光の曲線。
照らし出される横顔は、古いフィルム映画のよう。
懐かしい暗闇に あなたを見つけた鮮烈な一瞬。
あなたがわたしに燃え
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17890037/square_large_81bf41d06595ac9287b86fb084a19492.png)
新年明けましておめでとうございます🎍
皆さんへ祝福の風が吹きますように🌠
"風は陶芸家、世界のかたちを整えていく。
今はまだ、はかない重力に生かされて
きょうのうつわを 手から手へ運んでいく。"
💠詩「風のうつわ」文月悠光
*「婦人之友」2020年1月号ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍☪️
写真:岩倉しおりさん
▶︎詩のテキスト・朗読のバックナ
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/14545013/square_large_3e8a7dc1a770e86deb6fb49e82fc675f.png)
ひとはいつ教え込まれたのか🌇
(満たされてはいけない
立ち止まってはならない)
言い聞かせてひとり歩いた。
それでも空は告げにくる。
ひとは満ち足りてしまうことが
怖いだけではないかと。
詩「空をまとう」文月悠光
*「婦人之友」9月号ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍☪️
写真:岩倉しおりさん
▶︎過去の詩は、ミヨシ石鹸さんFacebookページでも公
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13586623/square_large_eba67f605706a8801b4fe63d2403fb2b.png)
きみと夏の終わりの舟になる🍹
〈きみとわたしは その近さゆえ
グラスの氷みたいに
カランとぶつかりあって、
ちいさな世界をひとめぐりする。
踊りましょう、もう少しだけ
どうか夏が終わるまで。
透明なふたつの舟はやがて
ひとつの海に溶け落ちて
水底でやすらかに息を絶やすのだ。〉
詩「ふたつの舟」文月悠光
*「婦人之友」8月号ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています