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綿毛に包まれた種たちは
土のぬくもりを知っているから、
風のなかへ飛び込むのだろう。
*
だれに受けとられなくてもいい、
わたしは差しだす。
どこに届かなくてもいい、
わたしは差しだす。
踏みつけられてもかまわない、
わたしは差しだす。
痛みを差しだすことが唯一
伝える手段なのだから。
声もなく 足音もたてずに
わたしは差しだす。
光に守られた綿毛はひとつの星雲。
日々の重さを綿毛にのせて
ティンカーベル、勇気を抱いて。
*
これを何と名づけようか。
ぬぐっても ぬぐっても
ぬぐいきれない熱が頬の上にあって
わたしから降りてくれないのだ、
妖精のつま先が乗っているみたいに。
ティンカーベル、勇気を抱いて。
かしこいあなたは
かしこいままで生きていてよい。
きょうの肌を溶かして素肌のわたしになる。
つい先ほど肌だったものが、今やとろけて
指先を金色にあたためる。
この熱は、わた
自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。
わたしは
わたしに恵まれて
生きている。
*
ただいま、と部屋へ呟いたら
耳をほどいていく儀式。
白いイヤホンを抜き取ります。
マスクの紐もそっと外します。
メガネも外してあげると尚よい。
冷えきった耳は先の方から赤らんで
聴くことを少し休みたがっているよう。
自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。
冬の樹は枝々に氷を咲かせて
YouTubeチャンネル 詩の朗読の再生リストを更新しました。【12/31追記】
映像系のお仕事のご相談が増えてきたこともあり、YouTube「文月悠光の朗読」の再生リストを更新しました📚🌠
現在noteにも詩の朗読音声はアップしていますが、スマホでの日常的な録音はnote、スタジオ録音・パフォーマンス系のお仕事はYouTube、と一応は差別化しています◎
▶︎YouTube「文月悠光の朗読」
YouTubeチャンネル、朗読動画以外のアップは未定ですが、企画があれば何
だからこんなにも あなたはきれいなのだと🌃
*
左腕のあちこちに散ったほくろを
からだへ教えるように指で数えた。
ひとたび宇宙に飲まれたら
このほくろだけが光りはじめて
わたしは暗闇に溶けて流れていくのか。
その川は遠い街を彩るだろうか。
わたしがここにいることを
だれも知らない。
幼いわたしは、体育館の隅の
ネットにくるまり、息を潜めて
だれにも見つからない時間を惜しんだ。
いまは歩道
夕陽に照らされた綿毛は、
宙(そら)かなたの星雲が降りてきたよう。
*
幼いころ連れていた、犬のぬいぐるみ。
今見れば、こんなにも柔くちいさい。
ふわふわの毛を潰さないように
腕にひしと抱え込んで眠る。
わたしもこのように柔らかかった頃、
おおきな存在に守られていたのか。
だれにも見つからない夢のなかに
ひっそり かくれていたのか。
(もういいかい?)
こころの奥地へ 分け入っていこう。