マガジンのカバー画像

読み返したい記事

166
読み返す記事
運営しているクリエイター

2024年7月の記事一覧

Bills族とN.O.T.E族

Bills族とN.O.T.E族

2階のカフェに向かうエレベーターの扉がほとんど閉まりかけたタイミングで、人影が見えたから、僕は慌ててエレベーターの右側にある丸い開ボタンを押したのだった。

そしたら、Tシャツ姿で髪を短く刈り込んだ色黒で割と体格のいい男性が乗り込んできた。

入ってきたとき、彼は「ありがとう」の一言、いや、会釈すらせずに、エレベーターが開いたときも、何も言わずにいちばん最初に出て行った。

正直、「何やねん、こい

もっとみる

詩 / 安寧

経験から私が学んだのだとすると
私は私に経験が混ざり込んだ生き物になったとも言える

アップデートされた私には
鎖がついていて
以前にした失敗の近くには
近寄れないようになっている

同じ失敗を繰り返すのは
愚かだ

しかしそこに二度と近寄らない人生は
幸せなのだろうか

可能性はゼロですかと質問されれば
言い切るのが苦手な私は
ゼロではないと思う と応える

未来のことは
そこに行くまでわからな

もっとみる
l'obscurité et les mots

l'obscurité et les mots

中途半端だ
わたしは
何もかも

病めない心が恨めしい
痛まない胸がもどかしい

いっそ硝子で出来ていたなら
今よりわたしは
楽で居られたのに

少しだけ抱えている闇を
あたかも
特別なことかのように綴り
言葉に込めることは
得手

半端なんだ
なまじ強いばかりに

幾ばくかの言葉を操れるからこそ
誇張して
すかすかの闇が
膨らんだように見えるんだ

雨が降ると責めたくなる
自分を

狡いわたし

もっとみる
Une belle émotion

Une belle émotion

走って
走って

息が続かないまま

我武者羅に
求めてばかりの
わたしだから

偶には歩いてみようと思う

ゆっくり
幸せを捜してみる

歪んで捻れた
わたしの頭も
少し 冷静に成れるときがある 

あのひと

お陰

だろう

でも
この気分は長く続かないだろう

だからこそ
大事にするんだ

喪くしてしまわない様に

抱きしめるみたいに
護る

自分の中の
昏いもの

たぶん
もうすぐ

もっとみる
坂の上の家

坂の上の家

私の家の前には坂がある

夏の盛りに歩けと言われたら
苦行でしかないだろう

嫁いだあの日
私は運転免許を持ってなかったから
歩いて上るしかなかった

色々都合が悪かったからか
結婚した後、ほどなくして
私は、運転免許の教習場に通った

免許を取るまでは
この坂の下の県道にあるバス停から
街の中心街まで向かわなければならない

幾度となく不便だと思ってはいたが
愚痴にすることはしなかった

口にす

もっとみる
神も仏もあるものかと思ってからが信仰の始まり/仏教、写真

神も仏もあるものかと思ってからが信仰の始まり/仏教、写真

苦しい事があると神も仏もあるものかと

思う事があると思いますが

そこからが信仰の始まりだと

作家の遠藤周作さんは仰ったと言います。

御本人の真意はわかりかねますが

苦しいことがあると 何でこんな事が起きたのか

どうしていけばよいのか、

深く考えざるを得ないと思います。

そうして内省していくことによって

大切なものが見えてきたりするのでは

ないでしょうか。

お釈迦様は湯が沸騰し

もっとみる
たったひとり、いや、たった一言だけでよいのかもしれない

たったひとり、いや、たった一言だけでよいのかもしれない

いい人

が出てくる映画が苦手だ。

その理由は単純明快で、要するに

僕自身がちっともいい人ではないからだ。

だから、あの国民的アニメが映画化されて、

「◯◯を燃やせ!」

というあの有名なセリフが出てきたときも、劇場にいるほとんどの人は感動して泣いていたけれど、僕はまったく泣けなかった。

むしろ突然、自分の周りに現れたたくさんのいい人たちの姿に怖気付いてしまっていたかもしれない。

でも

もっとみる
déception

déception

わたしは
わたしの淋しさを紛らわす為に

ぽっかりと抜けるように空いた穴

紛い物で埋める

何でもいい訳じゃないけど
何でもいいときもある

その刹那は
忘れていられる

だけど
又独りになった時
ふと
我に返った時

叫びたくなる位
辛くなる

繰り返すことが
愚かだとは思う
わかってるのに

そうやって
わたしは

自分に失望してしまうのだ

【1分小説】死神さんとワルツを

【1分小説】死神さんとワルツを

真夜中、静まり返った病院の廊下を僕は歩いていた。

暗がりの中で、誰かが踊っていた。

窓から射し込む月明かりに照らされて顔が見える。

やつれきって肉がほとんどなく肌も真っ白、生きていないかと思えるような女性だった。

それでも踊っている姿がとても美しくて僕は見惚れてしまった。

「あら?こんな時間に可愛い坊や。
あなたも眠れないの?」

「うん…。

少しお姉さんの躍りを見ててもいい?」

もっとみる
数年前、毎日怒鳴りあっていたころの私達について

数年前、毎日怒鳴りあっていたころの私達について

 数年前、私と夫は喧嘩が絶えず毎日のように怒鳴りあっていた時期があった。

 私のすべてを夫に理解してほしい。
 夫のすべてを理解したい。
 ずっとずっとそう思い続けていた。

 自分のすべてを与えながら、奪われ、夫のすべてを与えられながら、奪う、そんな生活をしていた。
 たくさん泣かせて、たくさん泣いた。
 加害者であり、被害者であった。

 夫は、私が今まで出会った人間のなかで、一番優しい人間

もっとみる