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フランス詩・文学

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ヴィーナスが19世紀に降臨すると・・・? マラルメの美姫『エロディアード』

ヴィーナスが19世紀に降臨すると・・・? マラルメの美姫『エロディアード』

先日の記事↓の続きです。

💎 マラルメの美姫『エロディアード』

 フランスの象徴派詩人、ステファヌ・マラルメ/Stéphane Mallarmé(1842-98)の劇詩『エロディアード──舞台』("Hérodiade──Scène")の冒頭を読んでいて、これは19世紀の詩人の脳裏に現れたアフロディーテ(ヴィーナス)の現し身ではあるまいか、と感銘を受けました。

 詩の冒頭──エロディアード姫

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ボードレール「アルセーヌ・ウーセイに寄す」(『パリの憂鬱』序文)訳してみました

ボードレール「アルセーヌ・ウーセイに寄す」(『パリの憂鬱』序文)訳してみました

「アルセーヌ・ウーセイに寄す」
 シャルル・ボードレール

 親愛なる友よ。あなたにささやかな作品を送ります。それには尻尾も頭もないなどと言えば不正にあたるでしょう。それどころか、反対に、すべてが同時に頭であり尻尾なのです。どこから読んでも、逆順でも。この細工が皆に、つまりあなたに、私に、そして読者に、どれほどの至便を差し出せるか、どうぞ考えて頂きたい。我々は、好きなところで切除できるのです。私は

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ボードレール『酔っていたまえ』訳してみました|詩集『パリの憂鬱』について

ボードレール『酔っていたまえ』訳してみました|詩集『パリの憂鬱』について

『酔っていたまえ』

絶え間なく酔っていなければならない。すべてはそこにかかっている。それだけが問題だ。ぞっとするような《時》の重荷を感じずに済むために。そいつはあなたの肩を打ち拉ぎ、身体を地面へと撓ませる。酔っていたまえ、間断なく。

だが、何にかって? 酒でも詩情でも美徳でもお望みのままに。だが、酔っていたまえ。

そして、もし、宮殿の階段や、壕の緑の草地、寝室での砂を噛む孤独のうちに目覚め、

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エディット・ピアフ「愛の讃歌」を訳してみました|セリーヌ・ディオン|パリオリンピック開会式によせて

エディット・ピアフ「愛の讃歌」を訳してみました|セリーヌ・ディオン|パリオリンピック開会式によせて

 パリ・オリンピック開会式のパフォーマンスがあまりにもすばらしかったので、急遽、歌詞を訳してみました。

 作詞者のエディット・ピアフ、2024年末まで著作権保護期間かと思っていたら、JASRACによると、日本ではすでにパブリックドメイン状態らしいのです。

 歌にあわせてご覧いただけるように、逐語訳寄りです。またそのうち、読んで味わうための訳を整えようかな?と思います。

 開会式の動画、フルバ

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オスカー・ワイルド『獄中記』をひらく

オスカー・ワイルド『獄中記』をひらく

 訳もすばらしいのですが、原文はさらに上を行くので、惚れ惚れしながらご紹介しておきます(^^)
 テキストは、Project Gutenberg(プロジェクト・グーテンベルク)から。アメリカ版"青空文庫"みたいなサイトです。

The Project Gutenberg eBook, De Profundis, by Oscar Wilde

 『獄中記』(De Profundis)  は、オスカ

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ボードレール『バルコニー』Le Balcon|訳してみました

ボードレール『バルコニー』Le Balcon|訳してみました

『バルコニー』

想い出の母なる泉、恋人のなかの恋人よ
君こそは歓びのすべて、我が忠誠のすべて
あの甘やかな抱擁を思い起こさないだろうか
暖炉辺の安らぎ、夕な夕なの魅惑を
想い出の母なる泉、恋人のなかの恋人よ!

石炭の熾火で彩られた黄昏
薔薇のヴェールにけむる バルコニーでの夕まぐれ
君の胸はなんと柔らかく、その心臓はなんと心地よかったことか!
我らは不滅のことどもについてよく語り合った
石炭の

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オマル・ハイヤーム『ルバーイヤート』に見る、詩の国ペルシャの無常観

オマル・ハイヤーム『ルバーイヤート』に見る、詩の国ペルシャの無常観

 オマル・ハイヤーム『ルバーイヤート』といえば、高校の世界史で名前を聞き知った程度でした。

 本屋さんでこちらを衝動買いしましたが、重訳だったため、初めて読むには不安を感じ、あらためて探してみることにしました。結果、思いがけない良書に巡り会いました。

 この記事では、その「良書」、下記の書籍に基づいてご紹介していきます。

 とはいえ、きっかけともなり、繊細で美しい世界観を届けてくれた詩集版も

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クールベ「画家のアトリエ」に描かれたボードレールとジャンヌ・デュヴァル

クールベ「画家のアトリエ」に描かれたボードレールとジャンヌ・デュヴァル

「画家のアトリエ」
L'Atelier du peintre
(1854-55)

🎨ギュスターヴ・クールベ
Gustave Courbet
(1819-1877)

🇫🇷フランス・写実主義

👶オルナン🇫🇷
⭐️ラ・トゥール=ド=ペ🇨🇭

🌎オルセー美術館

 ボードレールのミストレスでありミューズだった、ジャンヌ・デュヴァル。ボードレールを取り巻く女性たちの中で、最も縁の

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ボードレール「恋人たちの死」La Mort des Amants|男女で訳し分け

ボードレール「恋人たちの死」La Mort des Amants|男女で訳し分け



💎 男性編

ふたりの臥所を 軽やかな香りで満たそう
寝椅子を 墓のようにゆったりと深く
そして棚の上には さらに美しい天のもとで
我らのために咲いた 奇しき花を 

これを末期と我勝ちに情熱を使い果たす
ふたつの心臓は燃え盛る松明となり
二重の光明をなし 互いを映し合う
我らの魂、これら対なる鏡の間で

然る夕暮れに 神秘なる薔薇色と青が広がり
我らはただひとつの閃光を交わし合うだろう

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ボードレール『霧と雨』訳してみました|フランス詩🇫🇷

ボードレール『霧と雨』訳してみました|フランス詩🇫🇷

秋の終わりよ、冬よ、泥にぬかるむ春よ
悩みを鎮める季節たちよ! 私はおまえたちを愛し、讃えよう
我が心と脳とを このように
靄かすむ埋葬布と冥々たる陰気さとで くるみ込むが故に

冷たき南西風が揺れ、疾く駆け遊ぶこの平原の広がりに
風見鶏が長き夜をこめ 掠れた声を上げている
このような折、我が魂は、煮え切らぬ春の頃合いよりも巧みに
翼を黒々と広げゆく 大鴉のごとく

不吉なものどもで溢れかえったこ

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キスをするなら夢の中で|三島由紀夫『憂国』&原民喜『淡雪』読み比べ

キスをするなら夢の中で|三島由紀夫『憂国』&原民喜『淡雪』読み比べ

今回は、文学のお話。

🌸三島由紀夫『憂国』を読んでみた

 ふとしたきっかけから、三島由紀夫『憂国』を読んでみることに。
 二・二六事件の外伝的短編で、信二と麗子という新婚の美男美女が愛を結び死を遂げる、というお話です。

 繊細な方のために申し添えると、かなり凄絶な描写のため胸が悪くなること必定…の、生々しい割腹シーンでした・・・苦手な方はお気をつけくださいね。・・・あっ、この記事は、描写は

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ボードレール『月の悲しみ』訳してみました|フランス詩🇫🇷

ボードレール『月の悲しみ』訳してみました|フランス詩🇫🇷

今宵
月はひときわ けだるげに
夢を見ている
さながら
あまたのクッションを散らしたなか
美しい女が
眠りに誘われながら
うつけたようなたおやかな手で
胸のふくらみを
そっと確かめるように

ゆるやかになだれる繻子を背に
彼女はまさに息絶えんばかり
夢うつつたゆたいながら
視線をさまよわせる
ほの白い幻が
花開くように
蒼天へと上っていく
その先へ

時おり、虚しき憂いのあまり
ひそやかな涙をとど

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ボードレール『幽霊』|性格を変えて2通り訳しました|フランス詩🇫🇷

ボードレール『幽霊』|性格を変えて2通り訳しました|フランス詩🇫🇷

💎 Première variation ─ 第1変奏

しなやかな獣の眼をした
天使の群のように
君の臥所に帰ろう
そして夜の影とともに
音もなくすべり込む
君のそばに

君に捧げよう
栗色の髪のひとよ
月のように冷たいくちづけと
墓穴の回りを這う蛇の愛撫を

鈍色の朝が訪れたとき
見出すだろう
私の居た場が空っぽなことを
そこは夜まで
ひんやりとし続けるだろう

他のひとが為す
優しさなどで

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ボードレール『悪の華』より『通りすがりの女に』を訳してみました|フランス詩🇫🇷

ボードレール『悪の華』より『通りすがりの女に』を訳してみました|フランス詩🇫🇷

通りすがりの女に
──シャルル・ボードレール

街が響もし
僕の周りで吠え立てている
と、そこへ
ほっそりと背の高い女が通りかかった
喪の正装、辺りをはらう苦悩のうちに
贅を好む手で裳裾をつまみ
花綱と縁飾りを揺らめかせながら

彫像のような脚に連なる軽やかな気高さよ
僕はといえば、飲み干していたのだ
正気を失った人間のように身体を引きつらせて

彼女のまなざしのなか
鈍色の空は いま嵐を孕む

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