馬永

香川県生まれ。高校卒業後、西宮市、熊本市、大分市、板橋区、調布市、シカゴ、横浜市、旭川…

馬永

香川県生まれ。高校卒業後、西宮市、熊本市、大分市、板橋区、調布市、シカゴ、横浜市、旭川市、大阪市と点々としています。不定期に2000-4000字の短編の発表と、たまに長編の連載をする予定です。 読んでいただけるだけでも光栄です。

記事一覧

それでもあなたは自分が私の父親だと言う

序章  小春日和の午後、運動場の奥の2階建て校舎の背には雲一つない青空が広がっている。日はまだ高い。  校舎中央の生徒用の入口からは子どもたちがわらわらと出てきた…

馬永
1年前
20

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 最終章②-終章

4.2019年10月  10月最初の日曜日、ルカは駅前の真新しいビルのワンフロアを借り切った明るく清潔感の溢れるオフィスに来ていた。案内されたのは間仕切りだけのブースでは…

馬永
1年前
1

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 最終章①

第五章 1 2019年5月  5月、ルカは俊介の故郷、香川県を訪ねた。  「初デート記念日、旅行しない?」  「初デート記念?」  「上野だよ。もしかして覚えてない?ショッ…

馬永
1年前
1

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第四章②

3  民法877条第1項で定められている扶養義務者は、直系血族及び兄弟姉妹となる。直系血族とは本人の祖父母、父母、子ども、孫のことである。ここに結婚などによる戸籍の変…

馬永
1年前
1

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第四章①

第四章 1  都内の支局へ異動して半年あまり、リーダーとしての業務にも少しは慣れてきた頃のことだ。9月生まれのルカは31才になっていた。私用のスマートフォンに見知らぬ…

馬永
1年前
4

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第三章

第三章 1  雄二は1962年、福田家の次男として誕生した。姉1人、兄1人、この兄は雄二が生まれる前に死亡している。家は兼業農家を営んでおり、敷地内には畑もあった。普段…

馬永
1年前
5

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第二章

第二章 1  「いったいどんな食生活をしてきたん?」  俊介は相変わらずこう呟く。  俊介に言わせるとルカの、ちょっとぶつけたところが大きなあざになって何日も引かな…

馬永
1年前
2

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 序章~第一章

序章  小春日和の午後、運動場の奥の2階建て校舎の背には雲一つない青空が広がっている。日はまだ高い。  校舎中央の生徒用の入口からは子どもたちがわらわらと出てきた…

馬永
1年前
4

ぼくは0点? 最終章 高1②

◆2学期 ツッパリ・ハイスクール・ロックンロール  夏休み中さんざん悩んだ末に、2学期早々、秀雄は笠間先生に自分の気持ちと今後の計画を正直に話した。ぶん殴られるだ…

馬永
1年前
1

ぼくは0点? 第四章 高1①

第四章:高1 ◆1学期 現国問題  長い学ランを引きずるように着流し、額には剃り込みを入れ、髪はポマードで固めたリーゼントスタイル、当時の曲でいう「洋ラン背負って…

馬永
1年前
2

ぼくは0点? 第三章 中3②

◆3学期 入試  クリスマスも過ぎ、じきに大晦日という日の夜も更けたころ、受験生にクリスマスも大晦日も正月もあるかいって感じのピリピリした秀雄が、コーヒーを作りに…

馬永
1年前
1

ぼくは0点? 第三章 中3①

第三章:中3 ◆1学期 君がいない  3年生になった。担任ははたして大西先生だった。ゴロチも一緒、なんとヤマも一緒に3年8組になった。背が少し、髪の毛はだいぶ伸びた秀…

馬永
1年前

ぼくは0点? 第二章 中2②

 2年7組は春のクラスマッチも、秋の運動会、合唱コンクールでも圧倒的な強さを誇り、常に優勝、準優勝の好成績を収めていた。男子女子の仲も良好で、昼休みも皆が普通に輪…

馬永
1年前
1

ぼくは0点? 第二章 中2①

◆1学期 新田(しんでん)中学校  4月、生徒数が膨大に膨らみ過ぎていた内海中学は、新設された新田中学と内海中学の2校に正式に分かれた。新田中は内海中とほぼ同じ経度…

馬永
1年前
3

ぼくは0点? 第一章 中1②

◆坂本式学習法  次の土曜、早速に坂本式の教室を母親と一緒に訪ねた。母親の原付バイクを秀雄が自転車で追いかけるといういつものスタイルだ。  着いたのは内海中からそ…

馬永
1年前
3

ぼくは0点? 第一章 中1①

序章:  突然、胸のあたりに激痛が走った。思わず、自転車のハンドルを離しそうになる。  (な、なんやっ?)  胸に手をやった途端、今度はへその上あたりを2回目、3回…

馬永
1年前
1
それでもあなたは自分が私の父親だと言う

それでもあなたは自分が私の父親だと言う

序章
 小春日和の午後、運動場の奥の2階建て校舎の背には雲一つない青空が広がっている。日はまだ高い。
 校舎中央の生徒用の入口からは子どもたちがわらわらと出てきた。みな、ランドセルがまだ大きい。小学1年生の下校時間になっていた。歓声を上げる子たち、にこにこしている子たち、正門に向かって運動場を駆けだす子も少なくない。

 しばらくして、ピンクのランドセルの女の子が出てきた。一人ぼっちだ。入口近くの

もっとみる
それでもあなたは自分が私の父親だと言う 最終章②-終章

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 最終章②-終章

4.2019年10月
 10月最初の日曜日、ルカは駅前の真新しいビルのワンフロアを借り切った明るく清潔感の溢れるオフィスに来ていた。案内されたのは間仕切りだけのブースではなく、きちんとした小部屋で、机の上にはモニター画面と2つのキーボードが並んでいた。説明者と客が同時にキーボードで操作できるようだ。
 案内してくれた女性は、ほどなく飲み物を運んできてくれ、説明者用のキーボードを操作しながら
 「こ

もっとみる
それでもあなたは自分が私の父親だと言う 最終章①

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 最終章①

第五章
1 2019年5月
 5月、ルカは俊介の故郷、香川県を訪ねた。
 「初デート記念日、旅行しない?」
 「初デート記念?」
 「上野だよ。もしかして覚えてない?ショックなんですけど。」
 「いやいや、覚えているけど。そっちが覚えているのにびっくりしただけ。」
 「あのねぇ、そういう大事なことはちゃんとしているつもりだよ。」
 そうなのだ。俊介はそういう、人を喜ばすツボを心得ている風があった。

もっとみる
それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第四章②

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第四章②

3
 民法877条第1項で定められている扶養義務者は、直系血族及び兄弟姉妹となる。直系血族とは本人の祖父母、父母、子ども、孫のことである。ここに結婚などによる戸籍の変更は関係ない。同じく、民法752条では、夫婦間にも扶養義務があるとされている。例えば、自分の父親に介護の必要が生じた場合に、その介護義務が発生するのは、父親の兄弟姉妹、母親(父親から見た妻、配偶者)、自分と兄弟姉妹、自分の子どもたち、

もっとみる
それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第四章①

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第四章①

第四章
1
 都内の支局へ異動して半年あまり、リーダーとしての業務にも少しは慣れてきた頃のことだ。9月生まれのルカは31才になっていた。私用のスマートフォンに見知らぬ番号から電話が入った。社用スマホなら珍しくないが、私用の方に登録していない番号から電話が入ることはあまりない。
 仕事中だったこともあって無視したが、着信は数回に渡り、メッセージ録音機能に切り替わると切れる。なんとなく嫌な予感がして、

もっとみる
それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第三章

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第三章

第三章
1
 雄二は1962年、福田家の次男として誕生した。姉1人、兄1人、この兄は雄二が生まれる前に死亡している。家は兼業農家を営んでおり、敷地内には畑もあった。普段、父親は役場に勤めている。
 幼いころからその外見は両親には似ず、何の血を引いたのか、顔の彫が深く、色は浅黒く、日本人離れしていた。
 保育園では、既に「やんちゃ」とは呼ぶには悪質過ぎる騒ぎを繰り返し起こし、手を焼いた園から退園を言

もっとみる
それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第二章

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 第二章

第二章
1
 「いったいどんな食生活をしてきたん?」
 俊介は相変わらずこう呟く。
 俊介に言わせるとルカの、ちょっとぶつけたところが大きなあざになって何日も引かないところも、虫に刺されたところが膿んで熱を持つところも、アレルギー体質なのも、花粉症がひどいのも、全部、幼いころの食生活が原因ではないか、ということになるそうだ。

 ルカは1980年代半ば、日本経済がバブルに沸いていた頃に、静岡県で生

もっとみる
それでもあなたは自分が私の父親だと言う 序章~第一章

それでもあなたは自分が私の父親だと言う 序章~第一章

序章
 小春日和の午後、運動場の奥の2階建て校舎の背には雲一つない青空が広がっている。日はまだ高い。
 校舎中央の生徒用の入口からは子どもたちがわらわらと出てきた。みな、ランドセルがまだ大きい。小学1年生の下校時間になっていた。歓声を上げる子たち、にこにこしている子たち、正門に向かって運動場を駆けだす子も少なくない。

 しばらくして、ピンクのランドセルの女の子が出てきた。一人ぼっちだ。入口近くの

もっとみる
ぼくは0点? 最終章 高1②

ぼくは0点? 最終章 高1②

◆2学期 ツッパリ・ハイスクール・ロックンロール
 夏休み中さんざん悩んだ末に、2学期早々、秀雄は笠間先生に自分の気持ちと今後の計画を正直に話した。ぶん殴られるだけならまだしも、学校を辞めさせられても仕方がないと思っての一大告白だった。
 笠間先生の反応は意外なものだった。
 「ほう、やっぱりの。なんか常に心ここにあらずみたいやったんは、そういことか。合点がいった。そうやな、お前にはその方がええや

もっとみる
ぼくは0点? 第四章 高1①

ぼくは0点? 第四章 高1①

第四章:高1

◆1学期 現国問題
 長い学ランを引きずるように着流し、額には剃り込みを入れ、髪はポマードで固めたリーゼントスタイル、当時の曲でいう「洋ラン背負ってリーゼント」にした「ツッパリ」と呼ばれた男子生徒。新設の新田中学、特に秀雄の学年には数人だけしかいなかったが、内海中学には秀雄が転入した当時の中3にはかなり存在しており、佐藤くんやゴロチからは「3年生の校舎には行ったらいかん」と聞かされ

もっとみる
ぼくは0点? 第三章 中3②

ぼくは0点? 第三章 中3②

◆3学期 入試
 クリスマスも過ぎ、じきに大晦日という日の夜も更けたころ、受験生にクリスマスも大晦日も正月もあるかいって感じのピリピリした秀雄が、コーヒーを作りに台所に行くと、早くもお節料理の準備をしていた母親と出くわした。母親がすっかり小さくなったような気がしてびっくりした。一丁前に反抗期を迎えていた秀雄は、ここ最近、母親とはほとんど話をしていない。西高志望もほとんど相談せずに一方的に伝えていた

もっとみる
ぼくは0点? 第三章 中3①

ぼくは0点? 第三章 中3①

第三章:中3

◆1学期 君がいない
 3年生になった。担任ははたして大西先生だった。ゴロチも一緒、なんとヤマも一緒に3年8組になった。背が少し、髪の毛はだいぶ伸びた秀雄に対して、ヤマの成長は著しく、秀雄より拳一つ分くらい背が高くなっていた。ゴロチの身長は中1のときからあまり変わってない。本人は体操部で筋肉をつけすぎたせいかと気にしていた。

 1学期中間テスト
 国語96点:数学92点:社会98

もっとみる
ぼくは0点? 第二章 中2②

ぼくは0点? 第二章 中2②

 2年7組は春のクラスマッチも、秋の運動会、合唱コンクールでも圧倒的な強さを誇り、常に優勝、準優勝の好成績を収めていた。男子女子の仲も良好で、昼休みも皆が普通に輪になって弁当を食べ、会話していた。リコがそう呼ぶので、秀雄はクラスの女子からは自然と「ヒデくん」と呼ばれるようになり、中1の時のような革命を起こす必要はなかった。
 「ヒデくん、今度の新アニメの放送時間、教えて」
 2学期になると、毎月、

もっとみる
ぼくは0点? 第二章 中2①

ぼくは0点? 第二章 中2①

◆1学期 新田(しんでん)中学校
 4月、生徒数が膨大に膨らみ過ぎていた内海中学は、新設された新田中学と内海中学の2校に正式に分かれた。新田中は内海中とほぼ同じ経度を大きく南へ下った平地、秀雄の通った鴨田小学校のように、田んぼの真ん中に建てられていた。校舎の北側には内海中から見るより少し遠くになったとはいえ、屋島が変わらずに控えてくれている。
 新学期初日、秀雄はヤマと一緒に歩いて登校する。通学距

もっとみる
ぼくは0点? 第一章 中1②

ぼくは0点? 第一章 中1②

◆坂本式学習法
 次の土曜、早速に坂本式の教室を母親と一緒に訪ねた。母親の原付バイクを秀雄が自転車で追いかけるといういつものスタイルだ。
 着いたのは内海中からそう遠くない住宅地の中にあった、秀雄の家に負けず劣らず古い、平屋の一戸建て。教室入口には小さなクリスマスツリーが立てられているが、お世辞にも建物にマッチしているとは言えない。
 10あったやる気は7くらいになった。
 玄関を上がると、目の前

もっとみる
ぼくは0点? 第一章 中1①

ぼくは0点? 第一章 中1①

序章:

 突然、胸のあたりに激痛が走った。思わず、自転車のハンドルを離しそうになる。
 (な、なんやっ?)
 胸に手をやった途端、今度はへその上あたりを2回目、3回目の激痛に襲われた。
 (おわっ!)
 うずくまりそうになったせいでハンドル操作を誤った。川沿いの土手を走っていた自転車は、そのまま土手を川とは反対側、田んぼの方に転がり落ちてく。自転車のまま草の生い茂る土手を駆け降りることができたの

もっとみる