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『満ち欠けワンダーランド』11.観覧/玉響


 ムギは愚痴を並べ、肝心な話に辿り着かないが、自らの欠点には気付いた。一つのクリアはさておき、半周を過ぎた観覧車、タイムリミットが迫る。

「つーか今の職場ではどう?」
「ここ数年で、忙しい人として紛れ込んだらわざわざ言わずに済んだ。興味なし。恋愛・結婚しなきゃダメじゃない、自由。雑談に喧しいわと思いながら相槌打つけど、しんどくて。昼前のオッくんが汲み取ってくれたあれに補足すると『いつか運命の相手が現れる』を、ゾノ達にだけは」

 強い口調で顔を歪め、ぐっと噛み締める下唇が負の感情を滲ませた。偽って心苦しい、仲間に全てを曝け出せば楽になる。さぞ反応が怖かったろう。


 しかし、
「私自身を守る為に分かって、認めて欲しい」
 俺にはこう聞こえた。予防線を張って、再び関わり、交流を深めると試し行動で今度こそゲームオーバーが目に見えている。間を持たせたいのか、よりによって「家庭環境が悪い」「親の離婚時に兄から暴言を吐かれた」云々の呪文を唱えた。
 あるようでない選択肢、アーリーやオッくんは要求を満たすも、残念ながらこちらにスキルが備わっていなかった。返事に困り、ここで緊急メンテナンスを行う。


「自分の世界を大切にしてんだね。今日はごめん、別のタイミングでやり直そっか。でもさ、いい感じのとこまで来たのに、ムギは戻ってく。てな訳で俺が視点改めてみるわ」
 お馴染みのゾノ、に他ふたりを取り入れて、語り掛ける。見つめ合う数秒、美しい輪郭、アンニュイな雰囲気、視線を逸らすと窓外の景色が移ろった。


「はじめに、このアドバイスは否定じゃねえぞ。ムギは思い込みが激しくて突っ走りやすい。家族が『病院で診てもらえ』とか言ったのは差別的な意味? 心配したからかも知れん。指摘されて、ちょっとは耳傾けたり歩み寄った? そのまんまで頑なに出てったら、そりゃ、あちこちでぶつかる」

 緩やかにゴンドラが下がり、御伽話を鼻で笑う。豊かな想像力だこと。辛うじて鍵を開けたムギの扉が、閉じられる。俺は魔法を使えなかった。


「お父さんとお兄ちゃんには『気色悪い』……おじいちゃんは『大人になれば治る筈、可哀想だ』……『幾ら何でも時期尚早でしょ』は、お母さんだけど、うわ、もしや私、嫌いな親に似てる? や、自分のせいで結局バラバラ、今更だよ。どこにも居場所なくて、不信、誰もいなくなったの。もうリセットできないし、詰んでる。はい、自業自得」
 昨夜は穏やかな光で薄雲を纏った上弦の月が浮かび、スマートフォンのカメラに収め、メッセージを送る。『これから更に満ちていく』と教わり、希望を抱いた。ムギの空は長雨、晴れたとしても項垂れていると目に入らない。


「年月経てば余計に引っ込みがつかんわな。ただ、兄貴は成長してて、ムギ次第で。それに俺らがいんだろ、仕事と東京の家も。毎日よくやってる、すげーよ。お疲れさま。半生の、全部が必要だったとは考えられなくたって、何か欠けてたら4人が集まらなかった可能性もある。会えて良かった! ていう、ポジティブ変換。感情に流されちゃうなら書き出す。か、キャラが違うゾノ・アーリー・オッくん、多くの、客観的な意見を。あくまでヒント、なんて俺も、でかい口叩ける奴じゃ。未熟者でさ」

 プレイヤーが難易度を上げた結果ハードに、コントローラーの故障、都合よく消し去ろうとも残り、〈自分用の攻略本〉がない現実を生きる。だが、失うばかりでなく得られたものもあった。終えた冒険はまだ途中で、今後は逃げてきたことと立ち向かって乗り越える。
 兎に角、「前に進もう」と踠き苦しむ。口を噤み、伏せた睫毛、吐息、半ば諦めが漂った。
 こちらとて行き当たりばったりで、むやみに動いて迷惑を掛けた。かつての失敗から学び、ほんの少し先に考える(『不機嫌では』と勘繰られてしまった、アップデートする)。


「あの、変われる? 素直に頼れない。独りぼっちが楽なのにホントは繋がってたい。ゾノやっぱカッコいいや。だって面倒臭がらず真剣に追いかけてくるような存在は貴重、ありがとね。あっ、降りなきゃ」
 突然、明るく振る舞うムギが瞬くとキラキラの雫が落ちた。俺は背中を押すのみ、時間が掛かり、実際にアクションを起こすは本人だ。


 宮園には悩みがなさそうで何より?
 父親は過労で倒れて早期退職後、無理なく働いている。長男に相談せず決めてしまい、収入が減ったけれども以前と比べて楽しげだった。届くメッセージの意図は〈頑張り過ぎないように〉。
 彼との間にできた壁を、そろそろ壊せる。

【 】

 夕飯は揃って軽めに食べた。各自の好物が違い、おまけに何かしら摘んで園内を歩き回る。  
 服装の系統など、あまり共通点がないようなグループの再会、最後は煌びやかな回転木馬に乗った。

「どれにしよ」
「僕は後ろ向きにチャレンジ」
「どうせなら派手なの選ぼっと」
「やべえ! アーリーの足、長過ぎ」
 遠くのアトラクションと、近くの友人らを交互に、メルヘンチックで素晴らしい。とはいえ、角度を変えれば奇妙な光景。
 ごっこ遊び、舞台にて踊り、カルテットの旅路、まるでミルフィーユ、朝と昼に夜を迎え、混ぜた絵の具、言葉、リメイクを試みて、活かし合える。

 ただの笑顔が、忘れられなかった。記憶も土産に含まれる。


★メリーゴーラウンドかカルーセル 
最後の部分、誰とは決めていません。


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