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KILLING ME SOFTLY【小説】110_17歳の自分に教えてあげたい

確かに夏輝はこちらには相談せず、契約云々のトラブルもなく事務所を辞め、その後は大手企業に入社した。そこから現在に至るまでの彼女については謎に包まれており、いつの間にかバンドマンと親睦を深めるなど、兎に角(取り分け異性との)交友関係は幅広い。


夏輝に寄り添い、勝ち誇った啓裕の顔を思い浮かべると無性に腹が立つ。殆どあの〈浮気男〉の存在が原因で私は総攻撃を受けたというのに、無傷のまま大躍進する。
「…西島さんは何故、私を…?」
彼女の話を聞くうちに疑問が湧き、口を衝いて出ると西島さんは優しく微笑んだ。


「莉里ちゃんが初めて表紙を飾った号のインタビューを覚えていますか?〈服が大好き、おしゃれって凄くエネルギーを貰えて、お気に入りとか新しいのを着るだけで幸せに思えたり、前向きになれるんだよ。ファッションには人を変える力があって、ほんの少しの勇気で輝ける〉。琴線に触れたんですよね。好きなものになら大抵当て嵌まる、とっても素敵な考え方。私はずっと忘れられなかった。」


途端に涙が溢れ、10代の〈凛々香〉が放った言葉に24歳の〈深澤莉里〉が平手打ちされた。消えかけのアイデンティティだが、こうして私は無我夢中で生きてきたのだった。誰かの心に刺さり、それを機に未来へと繋がる。現在も、きっと。


「プロフィールは非公開、目に光を宿さない、どこか子供のよう。いずれ理由を打ち明けてくれる、と私は信じていました。あなたの友人になりたい、なんて言ったらおかしいですかね。」
この瞬間を、待ち望んでいた。



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