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小説

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こちら時空管理局。何らかの影響によりこのアカウント内に小説が発生してしまった。パルス誘導システムを使用して、マガジンに閉じ込めておいた。もし興味があったら見ておいてくれ。以上
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#創作

短編小説|運べボール

短編小説|運べボール

 ナガモトがボールを左前方に蹴り出しすと、それに反応するように相手が右足を前に出した。ナガモトがボールの下をポンと蹴り上げると、相手は一瞬にしてボールを見失ってしまった。そして軽々と相手をかわし、何事も。するとすかさず二人の選手が立ちふさがり、示し合わせたようにスライディングでボールを奪いに来た。さすがのナガモトもこれはかわせず、急いで右サイドにいたダウアンにパスを出した。

 ダウアンは、体全体

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掌編小説|シャンプー

掌編小説|シャンプー

 ガラスケースの中には液体が並々と注がれている。その中心に、数十本のコードとセンサーらしき針が刺さっている脳が浮かんでいた。束ねたコードを辿っていくと大きなモニターがあり、そこには、脳が今考えているイメージと言葉がずらずらと映し出されている。こちらから話しかけることはできない。いったいどんなシャンプーなのか私は気になった。

大超短編小説|ファッションセンス

大超短編小説|ファッションセンス

 ふと、窓が気になった。
 手のひらでカーテンをどけると、暗闇に顔が浮かんでいる。随分と使い込まれたそれは、まぎれもない私の顔だった。その後ろにはガラスに反射した部屋が見える。時計は午前二時過ぎを指して、秒針が逆に動き続けていた。
 丑三つ時か、なんてことを考えていると死んだはずの母親が壁から現れた。さもそこに入り口があるかのように当たり前に入ってきた母親は、生前お気に入りだったヒョウ柄のセーター

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小説|ピンク・ポッド・ペアレント

小説|ピンク・ポッド・ペアレント

[オートログ 5532年15月4日 12:05 ククリリ ラボ棟第27号ラボ]

 ああ、やばい。やばいよな。絶対にやばいよな。確かここに置いたんだよ。置いた置いた。間違いなく置いた。それは覚えてる。確実に覚えてる。で、それを眺めてて……。さっき起きたら、無いんだよ。無いんだよここに。なんで? なんでだろ。テーブルの下には……無いんだよな。無いんだよ。さっき探したよここは。何回も探した。で、やっぱ

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小説|独房|みかん

小説|独房|みかん

「こんにちわ」
パソコンのディスプレイに緊張した顔が浮かぶ。男はまだ新しそうなスーツを着て、シルバーグレイのネクタイをしていた。
「はいどうも、こんちにわ」
私は何百回も繰り返した返答をした。
男は、もう一度こんにちわと言いながら、画面に向かって頭を下げた。

「じゃあ、面接ということでちょっと緊張しているかもしれませんが、まあ、リラックスしていきましょう」
「はい! ヨロシクオネガイシマス!」

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短編小説|「「母さん」」

短編小説|「「母さん」」

スマホが鳴った。

画面を見ると、母さん、という文字が浮かんでいる。まったく仕事中は電話をしてくるなといつも言っているのに。
おれは、やれやれといった表情を3割増しで表すと、もったいぶって電話に出た。

「もしもし?」
「ああ、わたしだよ。母さんだよ」
「知ってるよ。で、何?」
「それが大変なんだよ」

第一声から、明らかに慌てている様子が伝わってくる。しかし、今は仕事中だ。おれは声を強めてこう言

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短編小説|スマホが鳴った2

短編小説|スマホが鳴った2

スマホが鳴った。

まったく非常識極まりない。今なんの時間だと思ってるんじゃ。けしからん。こんなときでもスマホスマホか。まったく近頃の若者たちは、最低限の常識も持っとらん。こそこそと電源を切るくらいなら、持って来なければいいだけの話じゃ。

そもそも、そんな物を肌身離さず持っている神経も分からん。人間それなりの経験を積んでいれさえすれば、何も持たずとも立派に生きていられる。なんでもかんでも機械に頼

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小説|それから300年後

小説|それから300年後

友人の家は江戸時代から続く古い建物で、茅葺きの屋根は全体が苔で覆われている。畳は波打っているし、木製の壁は元の色が何色だったのか分からない程に黒ずんでいる。そんな歴史ある建物は、この度取り壊されることになった。

近隣住民から、由緒ある、歴史ある、と言われるのは嫌ではないが、決して金にもならないのでここいら辺で区切りをつけて近代的な新築物件を建てるそうだ。家財道具の一式はすでに運び出しているので、

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短編小説|飛び降りてください

短編小説|飛び降りてください

「このマンションに引っ越したいのですが」

吉田が選んだのは、しばらくワイドショーを賑わせている物件で、世界一の超高層マンションとして有名になっていた。

特に最上階までの10フロアにいたっては一般人が住めるような家賃ではなく、仮に入居が決まったら扱いは有名人にも引けを取らなかった。入居が決まるたびに、その人物の人となりがニュースに取り上げられ、最上階の住人はテレビに引っ張りだこになっている。

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短編小説|ディープナイトコンビニエンス

短編小説|ディープナイトコンビニエンス

 隙間からギラリと反射しているそれは、刃物であることは間違いない。数秒だったか数十秒だったかの後、心臓の鼓動が倍になった。
「えぇ、うそだろ…」
 おれは自分の意思とは無関係に、顔が引きつっているのが分かった。 
「一連の事件の犯人は、いわゆる刺身包丁を凶器として使用しており、警察は現在…」テレビからは、最近起きている連続殺人事件のニュースが流れていた。



いつもの時間、いつものコンビニにお

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ショートショート|ホワイトラン

ショートショート|ホワイトラン

大勢の仲間たちと走り出してから、どれだけ経っただろうか。
足の踏み場もないほどいた俺たちは、もう半分ほどになった。
出発前に話していた友人は、走り出した途端に力尽きてしまい、群衆の中へとあっという間に消えた。

友人といっても、数時間前に知り合っただけで長い付き合いではない。
そしてそれは俺だけに限ったことではなく、ここにいるほぼ全ての俺たちがそうに違いなかった。

数時間前から数日前、同じ場所へ

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謎小説|恐怖!レンコン人間の怪

謎小説|恐怖!レンコン人間の怪

その日、おれは関東の田舎町を車で走っていた。辺り一面を田んぼに囲まれたこの道は、夜になるとまるで湖に浮かぶ一本道のように見える。

明るいうちはそこら中を軽トラックが走っていたが、日が落ちた今、走っているのはおれひとりだ。

ろくに整備もされていない、ゴツゴツした田舎道をおれのライトだけが照らしている。月は出ていない。真っ黒になった田んぼの水面が、闇を大きくしている。こんな道を走り続けていると、車

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