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短編小説|スマホが鳴った2

スマホが鳴った。

まったく非常識極まりない。今なんの時間だと思ってるんじゃ。けしからん。こんなときでもスマホスマホか。まったく近頃の若者たちは、最低限の常識も持っとらん。こそこそと電源を切るくらいなら、持って来なければいいだけの話じゃ。

そもそも、そんな物を肌身離さず持っている神経も分からん。人間それなりの経験を積んでいれさえすれば、何も持たずとも立派に生きていられる。なんでもかんでも機械に頼りおる、その根性がなっておらん。その性根がなっておらんから───

スマホが鳴った。

やれやれ、ここまでなってないとは思わなんだ。さっきの音を聞いとらんかったんか。最低限の常識があれば、自分は大丈夫かなとなるもんだが。それすらも分からんか。まあ、分からんからスマホなんぞ持ちよるんだろう。半人前が便利便利と騒ぐから、それを間に受けてさらに半人前が増えよる。スマホなんぞ半人前の道具じゃ。それまた、こそこそと電源を切って──、ん? 今のはわしのせがれか。なんて情けない。なんて情けない。あれほど厳しく育てたのに。良い学校にも行かせて、コネで給料の良い会社にも入れてやったのにまったく。スマホなんて持ったばかりに───

スマホが鳴った。

いい加減にせんか! 

何を考えとる。スマホを持っとる奴は何を考えとるんじゃ。いや、何も考えておらん。だからスマホなんぞを持ち歩くんじゃ。そうに決まっとる。うちの婆さんもスマホを欲しがっとったが、持たせんで良かった。おかけでボケにもならず、安らかに逝けた。もしスマホを持っとったらと思うと、考えるだけでも恐ろしいわい。見てみぃ、隣の婆さんなんて一日中スマホを見たまま一言も話さんようになってしもうた。スマホなんての、百害あって一利なし───

スマホが鳴った。

いい加減にせんか! いい加減にせんか! いい加減にせんか!

いい歳こいた大人がなにをやっとるんじゃ。そんなもの捨ててしまえ。捨ててしまうがいい。手遅れになる前にさっさと捨ててしまうがいいんじゃ。いや、もう手遅れかもしれん。残念じゃがもう、あんたらは───

スマホが鳴った。鳴った。鳴った。

もう許せん、お前ら! 年寄りを舐めるなよ! 
スマホなんぞ今すぐ捨てて、わしの話を聞け。ええか、お前らは毒されとる。その四角くて薄っぺらい機械に洗脳されとる。もっと脳みそを使わんと、本当に取り返しのつかないことになる。断言する、わしは断言するぞ。スマホは悪魔の道具じゃ。人間をたぶらかし、滅ぼすつもりじゃ。いい加減に目を覚まさんか。

おい、そこの貴様。聞いとるんか。おい。スマホは今すぐに捨てなさい。そのカバンに入っとるスマホは今すぐに───

スマホが鳴った。鳴った。鳴った鳴った鳴った鳴った鳴った。

この、ヌケサクめ! もう承知せんぞ! そのスマホを貸しなさい!

あ、避けよったな。この、このこの。避けるんじゃない! こういうときは避けるんじゃない! 素直にスマホを取られればいいんじゃ! この! くそ!

まったく信じられん。世の中こんなやつらばかりか。よく見れば全員、下を向いてスマホしか見ていないじゃないか。なんてことだ。こいつらはスマホを使っているんじゃない。スマホに使われているんじゃ。スマホの奴隷じゃ。ああ、恐ろしい。恐ろしいぞ、そんなことでは未来は無いぞ。スマホを捨てるんじゃ。その手に持っているスマホを───

まあ、捨てんでもいいか。そこまでせんでもいいかな。うん、そうじゃな。別に捨てる必要は無い。それはさすがにやりすぎじゃな。もう少しスマホに触る時間を減らせればいい。うん。それだけで十分であろう。

うん? 

いやいやいや、捨てなさい。今すぐに捨てなさい。スマホなんて本当に害しかないんじゃ。今すぐに捨てなさい! うるさい! とにかく捨てなさい!

───ということはない。わっはっは。冗談、冗談。捨てるまではしなくてもよい。それはやり過ぎかもしれん。まあ、今スマホを鳴らすのはどうかと思うが、捨てるまではせんでもよい。

むしろ使ってていい。いつでもスマホを使うがいい。それは個人の自由じゃ。好きなときに好きなように使う。それがスマホを持つ者の権利というものじゃ。うん、そういうものじゃ。

だから今すぐにスマホを捨てなさい!

というのは冗談で───

捨てなさい!

いや、持っててよい!

捨て、いや、持ってていいんじゃ。そうじゃそうじゃ。スマホは素晴らしい。素晴らしい発明じゃ。

ス……マホは…………素晴らし……いんじゃぁ……。


シュワ~


「清酒はここに置いて……。よし」

「この祠、お供えしないとスマホ嫌いのじいさんが出るんでしたっけ」

「そうそう、大昔だけどこの土地に住んでたのがスマホ嫌いのじいさんだったらしいよ。操作が分からなくてショップにクレームを入れに行く途中、歩きスマホで車に轢かれたんだってさ。それよりも、この間の会議で決まった新作のスマホのことなんだけど───」


スマホが鳴った。


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