向後善之

エンジニアとして会社員生活を送った後、留学。2000年から心理カウンセラー。現在東京恵…

向後善之

エンジニアとして会社員生活を送った後、留学。2000年から心理カウンセラー。現在東京恵比寿のハートコンシェルジュ( https://heartc.com/ )でカウンセリングを行う。共感・傾聴は言うは易し行うは難し。嘘っぽい(偽りの)共感・傾聴は、したくないと思っています。

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    僕が読んだ、小説やルポやエッセイについて、紹介していきます。

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    カウンセリングとは、どんなものか、難しい言葉を極力使わず、お伝えしていきたいと思います。

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  • モニョモニョ英語

    ものにするには時間がかかり忘れるのはあっという間。英語ってそういうもんだと身にしみて感じています。2001年に4年半過ごしたアメリカから帰国して、すっかり英語もさびついてしまいました。これじゃぁいかんと勉強し直そうとするのですが、目的がなければ、どうも気合が入らない。 しかし、近年のAIの進歩。こりゃぁ、利用してみるかと思ってやってみたら、とてもいい感じ。 じゃあ・・・ってことで、これまでいい加減に解釈していた英語のロックの詩の意味を調べてみることにしました。

  • 父のこと

    私の父は、高品格という俳優でした。最初から最後まで、映画・テレビで脇役を演じました。没後30年になりましたので、忘れないうちに、ちょっととぼけたユーモアのあった父とのエピソードを紹介します。トップ画像の右が父です。

記事一覧

「未来」 湊かなえ 著 双葉文庫

いくらフィクションだからといって、盛りすぎだよね、ここまでのことは、小説の中でしか起こらないよ・・・と、以前の僕であれば思ったことでしょう。 「おやっ?」と思う…

向後善之
5時間前
3

「ハードなアプローチは有害か?その3 吉福伸逸さんとの出会い」

吉福伸逸さんは、私が最も影響を受けたセラピストです。 1970年代後半から1980年代、トランスパーソナル心理学は、世界中に強烈なインパクトを与えました。 人はあらゆる…

向後善之
20時間前
9

「グレート・ギャツビー」 F・スコット・フィッツジェラルド 著 村上春樹 訳 中央公論社

だいぶ前、多分20代の頃に読んだ時、僕は、なぜこれが傑作なのかわかりませんでした。なんか引っかかる作品ではありましたが・・・。 要は、一人の男が、一人の女性に恋を…

向後善之
1日前
5

「おまじない」 西加奈子 著 ちくま文庫

短編集です。人は、役割を演じざるを得ません。いい人、可愛い人、面白い人、知的な人・・・。でも、役割を演じるのは、疲れます。じゃあ、そんな役割、捨ててしまえばいい…

向後善之
1日前
4

「反オカルト論」 高橋昌一郎 著 光文社新書

コナン・ドイルも、原子タリウムを発見したウィリアム・クルックスも、ノーベル生物学・医学賞を受賞したシャルル・リジェも、インチキ霊媒師にころっと騙されました。一方…

向後善之
4日前
5

「失敗の科学」 マシュー・サイド 著 ディスカバートゥエンティーワン

車輪のトラブルに対応しているうちに燃料が無くなって墜落した飛行機のパイロットは、「信じられないほど早く燃料が減ってしまった」と証言しますが、フライトレコーダーの…

向後善之
4日前
2

「日本史サイエンス」 播田安弘 著 ブルーバックス新書

元寇は、神風が二度吹いたから日本は救われたと学校で習いましたが・・・。著者は、本当にそんなことが起こったのだろうかと疑問を持ち、工学の知識を活用して詳細検討しま…

向後善之
5日前
1

「墨子よみがえる」 半藤一利 著 平凡社新書

春秋時代が終わり、戦国時代に入った頃、紀元前5世紀後半に活躍した墨子は、徹底した非戦論、平和論を唱えた人です。生涯をとおして、官につかえることを欲しなかった自由…

向後善之
5日前
4

「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」 クーリエ・ジャポン編 講談社現代新書

2021年1月に出版された本です。賢人たちの主張の検証は、これからなされることになるでしょう。 16人の「賢人」たちが語る、パンデミック以降の世界についてのインタビ…

向後善之
6日前
6

「バッティングピッチャー」 澤宮優 著 集英社文庫

僕にとって、落合博満は、最高の打者です。素人視点なのですが、落合のスイングは、バットのヘッドが他の打者よりもっと遅れて出てきて、バットのやや上にボールを乗せて、…

向後善之
7日前

「ハードなアプローチは有害か?その2 エッジを超える」

抑うつ的な日々をすご押していたAさんは、当時「セミナー」と呼ばれたグループワークに参加しました。セミナー会場は、ホテルの会議室でしたが、椅子と机は綺麗に片付けら…

向後善之
8日前
11

ハードなアプローチは有害か?その1 Aさんの事例

以前は、激しい動きや大声を出すグループセラピーが多かったのですが、最近では、もっとソフトなアプローチが主流になっています。かつてのようなハードなアプローチで、逆…

向後善之
8日前
4

「ファイト」 佐藤賢一 著 中公文庫」

左回り、左回り、ダンス、ダンス、蝶のように舞い、それから高速の左ジャブ二発、ステップ、ステップで横に流れて、左右のワンツーを蜂のように刺す(p.32)・・・"蝶のよう…

向後善之
9日前
2

「避けられた戦争」 油井大三郎 著 ちくま新書

第一次世界大戦後の世界は、軍事力背景に他国を侵略し領土を拡大する「旧外交」から、力によらず民族の自決権を承認し、市場を拡大する「新外交」へ移行した時期でした。19…

向後善之
9日前
3

「BUTTER」 柚木麻子 著 新潮文庫

最初の方に、暖かいご飯の上にバターを冷たいまま乗せ、少し醤油をたらす、バター醤油ご飯の話が出てきます。バターは、エシレという高級品でなくてはなりません。バターが…

向後善之
10日前
10

「クマにあったらどうするか」 姉崎等 語り 片岡龍峯 聞き手 ちくま文庫

語りの姉崎さんは、アイヌのクマ撃ち猟師です。北海道にいるヒグマは、雄の成獣で200キロくらい、中には400キロもある巨大グマがいるそうです。 姉崎さんにとって、クマは…

向後善之
11日前
8
「未来」 湊かなえ 著 双葉文庫

「未来」 湊かなえ 著 双葉文庫

いくらフィクションだからといって、盛りすぎだよね、ここまでのことは、小説の中でしか起こらないよ・・・と、以前の僕であれば思ったことでしょう。

「おやっ?」と思うことはあっても、かつての自分も含め、多くの人は、「そんなことあるはずはないよね」「まさかそんなことはしないよね」と、自分を納得させ通り過ぎてしまいます。

でも、現実にそれは起こっているということを、今の僕は知っています。

いじめ、DV

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「ハードなアプローチは有害か?その3 吉福伸逸さんとの出会い」

「ハードなアプローチは有害か?その3 吉福伸逸さんとの出会い」

吉福伸逸さんは、私が最も影響を受けたセラピストです。

1970年代後半から1980年代、トランスパーソナル心理学は、世界中に強烈なインパクトを与えました。

人はあらゆる二元論を超越した境地にまで成長することができる、人はどこかで繋がっている、人が成長するための道はあるのだ・・・といった考え方は、当時20代だった私をワクワクさせました。世界が変わるかもしれない・・・と、当時思ったものです。

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「グレート・ギャツビー」 F・スコット・フィッツジェラルド 著 村上春樹 訳 中央公論社

「グレート・ギャツビー」 F・スコット・フィッツジェラルド 著 村上春樹 訳 中央公論社

だいぶ前、多分20代の頃に読んだ時、僕は、なぜこれが傑作なのかわかりませんでした。なんか引っかかる作品ではありましたが・・・。

要は、一人の男が、一人の女性に恋をしたけれど、戦争で離れ離れになっている間に女性は結婚してしまう。諦めきれない男は、彼女が夫と子供と共に暮らす邸宅が内海を隔てて正面に見える場所に居を構え、いつか彼女に会えないかと、週末ごとに派手なパーティーを開きます。彼女が、パーティに

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「おまじない」 西加奈子 著 ちくま文庫

「おまじない」 西加奈子 著 ちくま文庫

短編集です。人は、役割を演じざるを得ません。いい人、可愛い人、面白い人、知的な人・・・。でも、役割を演じるのは、疲れます。じゃあ、そんな役割、捨ててしまえばいいじゃないかと言う人もいるでしょう。できれば、それをやりたい。でも、そんなこと簡単にできないのです。役割を捨てることができずにもがきにもがいて、なんとかやっていくのが、大抵の人たちのやっていることです。それでもいいじゃないかと、応援してくれる

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「反オカルト論」 高橋昌一郎 著 光文社新書

「反オカルト論」 高橋昌一郎 著 光文社新書

コナン・ドイルも、原子タリウムを発見したウィリアム・クルックスも、ノーベル生物学・医学賞を受賞したシャルル・リジェも、インチキ霊媒師にころっと騙されました。一方、当時の奇術師ハリー・フーディーニは、すぐにトリックを見破りました。「理性的」と思われる人たちは、実は神秘的なものに騙されやすいのかもしれません。

これは、少しわかるような気がします。僕は、もともと理系ですが、「現在の」数式や論理で見落と

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「失敗の科学」 マシュー・サイド 著 ディスカバートゥエンティーワン

「失敗の科学」 マシュー・サイド 著 ディスカバートゥエンティーワン

車輪のトラブルに対応しているうちに燃料が無くなって墜落した飛行機のパイロットは、「信じられないほど早く燃料が減ってしまった」と証言しますが、フライトレコーダーの記録によれば、機長には、胴体着陸を選択するための十分な時間がありました。危機において、時間感覚は突然麻痺します。もしそうなら、航空機の事故は多発しそうです。

 

しかし、航空機の事故率は、非常に小さく、フライト100万回につき0.41回

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「日本史サイエンス」 播田安弘 著 ブルーバックス新書

「日本史サイエンス」 播田安弘 著 ブルーバックス新書

元寇は、神風が二度吹いたから日本は救われたと学校で習いましたが・・・。著者は、本当にそんなことが起こったのだろうかと疑問を持ち、工学の知識を活用して詳細検討します。その結果は、それまでの常識を覆すものでした。蒙古軍の突然の撤退は、そもそもの計画に無理があったということであり、日本の武士の戦い方もこれまで考えられていたような一騎打ちではなく、集団による攻撃だったのではないかと、著者は考えています。

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「墨子よみがえる」 半藤一利 著 平凡社新書

「墨子よみがえる」 半藤一利 著 平凡社新書

春秋時代が終わり、戦国時代に入った頃、紀元前5世紀後半に活躍した墨子は、徹底した非戦論、平和論を唱えた人です。生涯をとおして、官につかえることを欲しなかった自由人と見た方がいいと半藤一利さんは言います。

 

墨子の主要な主張の一つである兼愛とは、心情的個人的愛ではなく、自他の区別なく人を広く同等に愛しいつくしむというものです。その墨子の理念を、あのトルストイが「墨子は世の人びとに、権力に対して

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「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」 クーリエ・ジャポン編 講談社現代新書

「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」 クーリエ・ジャポン編 講談社現代新書

2021年1月に出版された本です。賢人たちの主張の検証は、これからなされることになるでしょう。

16人の「賢人」たちが語る、パンデミック以降の世界についてのインタビュー集です。横断的に、賢人たちが今パンデミックの中で、何を考えているのかがまとめられていて、とても興味深い本でした。

  

ほとんどの人は、行き過ぎたグローバリズムに対する懸念を語っています。それをどうするかについては、それぞれ独

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「バッティングピッチャー」 澤宮優 著 集英社文庫

「バッティングピッチャー」 澤宮優 著 集英社文庫

僕にとって、落合博満は、最高の打者です。素人視点なのですが、落合のスイングは、バットのヘッドが他の打者よりもっと遅れて出てきて、バットのやや上にボールを乗せて、一気に振り抜くように見えました。ボールは、理想的な軌道を描いてスタンドに向かって飛んでいきました。長嶋も王も張本もそれぞれ個性的な素晴らしいスイングだったのですが、僕には、落合のバッティングが最もしなやかで美しかったのです。

この落合のバ

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「ハードなアプローチは有害か?その2 エッジを超える」

「ハードなアプローチは有害か?その2 エッジを超える」

抑うつ的な日々をすご押していたAさんは、当時「セミナー」と呼ばれたグループワークに参加しました。セミナー会場は、ホテルの会議室でしたが、椅子と机は綺麗に片付けられ、自由に動き回れるようになっていました。「セミナー」とは、一九八〇年代から九〇年代にかけて盛んに行われていた自己探究のためのワークショップで、中には泊まりがけのものもありました。そして、参加費も三〜四日で十万円程度と、安くはありませんでし

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ハードなアプローチは有害か?その1 Aさんの事例

ハードなアプローチは有害か?その1 Aさんの事例

以前は、激しい動きや大声を出すグループセラピーが多かったのですが、最近では、もっとソフトなアプローチが主流になっています。かつてのようなハードなアプローチで、逆にバランスを崩す例もあることは事実です。また、ハードなアプローチをすると予後が悪いと言う人もいます。僕は、この「予後が悪い」という意見には懐疑的です。予後について、徹底的にカウンセリングアプローチとの因果関係を調査した例を僕は知らないからで

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「ファイト」 佐藤賢一 著 中公文庫」

「ファイト」 佐藤賢一 著 中公文庫」

左回り、左回り、ダンス、ダンス、蝶のように舞い、それから高速の左ジャブ二発、ステップ、ステップで横に流れて、左右のワンツーを蜂のように刺す(p.32)・・・"蝶のように舞い、蜂のように刺す “(Float like a butterfly, sting like a bee)。モハメド・アリのボクシングは芸術です。

  

「ファイト」は、アリの4つの戦いを描いた小説です。対リストン戦、対フレー

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「避けられた戦争」 油井大三郎 著 ちくま新書

「避けられた戦争」 油井大三郎 著 ちくま新書

第一次世界大戦後の世界は、軍事力背景に他国を侵略し領土を拡大する「旧外交」から、力によらず民族の自決権を承認し、市場を拡大する「新外交」へ移行した時期でした。1920年代の日本は、国際連盟の常任理事国に選ばれ、中国の領土保全や門戸開放・機会均等等を約束し(1922年)、「国権の発動としての戦争放棄」を規定した不戦条約にも調印しました(1928年)。この頃外相として活躍した幣原喜重郎は、「新外交」を

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「BUTTER」 柚木麻子 著 新潮文庫

「BUTTER」 柚木麻子 著 新潮文庫

最初の方に、暖かいご飯の上にバターを冷たいまま乗せ、少し醤油をたらす、バター醤油ご飯の話が出てきます。バターは、エシレという高級品でなくてはなりません。バターが溶け始める瞬間に味わうのです。

それを語るのが、何人もの男性に対する殺人容疑で東京拘置所に留置されている梶井真奈子です。彼女は、バターをたっぷり使った手の込んだ料理で、40代から70代の男性にふるまい、結婚をほのめかすのですが、決して結婚

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「クマにあったらどうするか」 姉崎等 語り 片岡龍峯 聞き手 ちくま文庫

「クマにあったらどうするか」 姉崎等 語り 片岡龍峯 聞き手 ちくま文庫

語りの姉崎さんは、アイヌのクマ撃ち猟師です。北海道にいるヒグマは、雄の成獣で200キロくらい、中には400キロもある巨大グマがいるそうです。

姉崎さんにとって、クマは師匠だと言います。クマの足跡を辿れば、山を歩くことができます。クマが食べているものは、人間が食べても大丈夫です。

姉崎さんは、自然の中で熊になったような気持ちになって熊を追います。常に熊の歩いた後を歩いているので、熊が逃げそうなと

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