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「コンビニ人間」 村田沙耶香 著 文春文庫

人は(ひょっとしたら「現代の日本人は」なのかもしれませんが)、理由を聞こうとしません。大事なのは結果なのです。


主人公の古倉恵子が子供の頃から繰り返す突飛な行動には、ちゃんと理由があるのです。理由を聞かれないまま、その行動はよくないものであり、そうした行動をしてしまう恵子は治されるべき存在と認識されます。


恵子は「治らなくては」と思いながらどんどん大人になっていき、コンビニでアルバイトをするようになります。コンビニは、恵子にとって安住の地になるはずでしたが・・・。


これ以上はネタバレになるので書きません。


僕の周りを見ても、人々は、軽々と好ましい結果を出していっているように見えます。ある年になったら受験をし(最近都市部では、中学受験が当たり前のようになりつつありますが)、できるだけいい大学(「いい」は偏差値が高いという意味でしかない)に入学し、できるだけいい企業(何をもって「いい」としているのかは不明ですが、とりあえず有名企業だとか上場企業が理想)に正社員として勤め、ある年齢になったら結婚し、子供を産み・・・というレールが設定されていて、そこから外れた人たちは、次第に排除されていきます。


なんとかギリギリレールにしがみついている人たちは、ヒエラルキーの底辺の人として蔑まれます。レールから外れてしまった人は、異物と扱われます。


そして、「正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される(p.65)」のです。


僕はカウンセラーという仕事をしていますので、例えば学校に行けなくなった子どもたちから話を聞くことがあります。その中で、こんなことを言う不登校の中学生がかなりいます。


「受験のための勉強を始めたのは小学校3年の時です。友達の中には2年生から始めている子もいました。塾で勉強を教わり、勉強だけじゃダメだと言うことで、ピアノも習いました。今でも習っています。」


「父も母も、『いい中学に入れば楽しい』と言うので、中学に入ることを励みで勉強してきました。そして、希望の学校に入ったのですが、入学してから、いきなり先生たちから『これから6年が勝負だ』と言われました。最初のうちは頑張ろうと思ったのですが、どうしても勉強する気持ちになれなくなっていきました。私は、6年頑張っていい大学に入って幸せになろうと思ったのですが、大学生は、インターンとか就活で大変そうに見えました。」


「父も母も、『いい大学を卒業して、いい企業に就職すれば幸せになれる』と言います。でも、いい企業に勤めているはずの大人たちが疲れ切っていて、とても幸せそうには見えないのです。」


「私は、『なんのために勉強するのか』わからなくなってしまいました。勉強しないようになったら、成績も落ち、授業にもついていけなくなって、学校にいかなくなりました。」


「人は、なんのために勉強するのですか?」


彼女が不登校になった「理由」も「疑問」も、僕にはもっともだと思えます。非常に冷静に世の中を見て、一生懸命自分の頭で考えています。でも、多くの大人は、彼女が主張するような「理由」や「疑問」に耳を傾けず、「結果」と言うアウトプットを要求します。


「そんな余計なことを考えないで、とりあえず学校に行け」「大学だけは出てちょうだいね」と言ったり、それでも「結果」が出なければ、専門家の毒にも薬にもならないような、「とにかく、愛情を注いで、ゆっくり見守りましょう」というアドバイスに従って、子どもを見守るっていると言うのですが、実は、見張ったり、見捨てたりするのです。


僕は、大人たちが、子どもたちの「理由」や「疑問」を、ちゃんと耳を傾けたらいいと思っています。子どもたちには、徹底的に語ってもらいましょう。


「理由」や「疑問」を聞いたところで、解決なんかしないじゃないかと言う人もたくさんいるでしょう。


解決なんて簡単にできるわけないじゃないですか?


子どもたちの「理由」や「疑問」は、とても大事で深いテーマです。大人の僕たちも明確な答えなんて持っていない。


できることは一緒に考えることだけなんだろうと思います。


てなことを言うと、「そんな悠長なことを言っていて、将来この子がどうなってもいいのか?」と言う大人もいらっしゃるでしょう。

そういう人たちは、「結果の呪縛」から逃れられていないのかもしれないですね。そ


でも、子供たちには、無限の可能性があります。


どんな解決があるのかは分かりませんが、少なくとも子供たちが「結果の呪縛」から逃れるお手伝いはしていきたいです。


そして、子供達にも、異物とされた人たちにも、「理由」や「疑問」、すなわち「プロセス」を大事にする生き方の大切さと面白さを伝えていきたいと思っています。


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