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読書日記 小説 詩

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僕が読んだ、小説について、紹介していきます。
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「美しい星」 三島由紀夫 著 新潮文庫

「美しい星」 三島由紀夫 著 新潮文庫

三島由紀夫生誕100年だそうです。そんなわけで、最近三島を読み返しています。ちなみに三島由紀夫は1月14日生まれ・・・なんと僕と同じ誕生日です(どうでもいい話ですけど)。

「美しい星」は大学生の時に読みました。当時、変な本だなと思いました。何たって、主人公の大杉家の人々は宇宙人で、しかも家長の重一郎は火星人、妻の伊余子は木星人、長男の一雄は水星人、長女の暁子は金星人なのです。

重一郎は、円盤(

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「剣」 三島由紀夫 著 講談社文庫

「剣」 三島由紀夫 著 講談社文庫

短編集です。

「剣」は、最も三島らしい、美しい小説だと思いました。全国大会優勝を目指す大学の剣道部の話です。

国分次郎は、美しい完璧な秩序を求めていたのかもしれません。その完璧さにほんの小さな綻びが見えたとき、彼は死ななければならなかったのでしょう。

そこに僕は三島由紀夫の最期のときを重ねてしまいます。

あのとき、自衛隊は三島に従いませんでした。森田必勝は、三度介錯に失敗し、とどめは楯の会

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「カフカ断片集」 頭木弘樹 著 新潮文庫

「カフカ断片集」 頭木弘樹 著 新潮文庫

カフカの小説は、分からない。「変身」を読んだ時、「なんで朝起きたら虫になっているんだ!」と混乱したものです。カフカの作品は完成を目指していないので、伏線回収なんてことはどうでもいいのでしょう。どの作品を読んでも、どこか突き放されたような感じになります。

この本は、未完のメモのような文章の断片を集めたものです。断片だからこそ、割れたグラスの断面のような感じで、印象に残ります。

例えば
〔失敗する

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「爪と目」 藤野可織 著 新潮文庫

「爪と目」 藤野可織 著 新潮文庫

短編集です。

「爪と目」は、人は、見たくないものから目をそらすという話です。他人事にしておけば、傷つかないように見えるからです。

「あんたもちょっと目をつぶってみればいいんだ。かんたんなことさ。どんなひどいことも、すぐに消え失せるから。見えなければないのといっしょだからね、少なくとも自分にとっては(681)」

でも、それはそこにあります。

そして、それは、突然姿を現すかもしれません。この小

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「サド侯爵夫人 わが友ヒットラー」 三島由紀夫 著 新潮文庫

「サド侯爵夫人 わが友ヒットラー」 三島由紀夫 著 新潮文庫

僕は、三島由紀夫の小説類はほぼ読んでいますが、これは読んでいませんでした。僕が三島に凝っていたのは高校・大学の頃です。本屋でこれを買うのは、なんとなく憚れて・・・。

そりゃぁ、他にも勇気のいるのはありましたよ。「美徳のよろめき」とか「禁色」とか。でも、そこは、なんとかしれっとクリアしたのですが、「サド侯爵」と「ヒットラー」と、超ダイレクトな題名ですからね〜。若かりし頃の僕には、これをレジのお姉さ

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「工場」 小山田浩子 著 新潮文庫

「工場」 小山田浩子 著 新潮文庫

会社員時代を思い出させてくれた短編集でした。

表面に見えている世界は、真実なのでしょうか?薄皮一枚剥いだとこっろに、全く違う世界が展開しているのではないか・・・と言うことを、僕は会社員時代に常に感じていました。

僕が最初に配属されたのは、製油所です。石油製品を作る工場でした。僕は、入社した直後、偉い方から「自分の年収の3倍稼げ。それくらい会社に貢献できたら一人前だ」と言われました。

それから

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「お探し物は図書室まで」 青山美智子 著 ポプラ文庫

「お探し物は図書室まで」 青山美智子 著 ポプラ文庫

どこかでだれかと知らないうちに繋がっているかもしれないと感じさせる短編集です。

それぞれの短編の主人公たちの人生は思い通りになっていません。東京に出てファッション業界で働いていると地元の友達に言っていながら、実はスーパーの婦人服売り場で働いている藤木朋香、出産を機に編集の担当から外され資料室に異動することになった崎谷夏美、真面目に家具メーカーの経理として働いているけれど社長の姪の部下の女性に当た

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「アフターダーク」 村上春樹 著 講談社文庫

「アフターダーク」 村上春樹 著 講談社文庫

一気に読みました。
深く静かで、とても好きな小説です。

日が暮れて夜になり、朝になるまでの出来事が描かれています。主人公は、19歳で大学で中国語を学浅井マリと、マリの姉エリの大学の同級生でジャズを辞めて司法試験を受けようと決心した高橋テツヤを中心に物語が展開していきます。

マリの姉エリは、小さい頃からモデルとして仕事をしていました。マリによれば、エリは、「うちのお姉さんには、トロンボーンとオー

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「本心」 平野啓一郎 著 文春文庫

「本心」 平野啓一郎 著 文春文庫

AI、高齢化問題、格差社会、差別など、今最も考えなければならないテーマが凝縮した近未来小説。読み応えがありました。

主人公の朔也は、リアル・アバターとして働いている青年です。リアル・アバターとは例えば体が不自由で動けない人の代わりに、さまざまな場所に行きその様子を依頼者にライブで送信し、依頼者にあたかもそこにいるような体験をしてもらうという職業です。

朔也は、高校を中退し母と二人暮らしだったの

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「愛の夢とか」 川上未映子 著 講談社文庫

「愛の夢とか」 川上未映子 著 講談社文庫

短編小説集です。

川上未映子さんの文章が好きです。思わず立ち止まってしまうフレーズがある。矛盾もある(作者があえてそうしたのだろうけれど)。その中で、情景のビジュアルなイメージが浮かんでくるし、そこから妄想も働き始めます(時に暴走します)。

ビアンカ、でお願いします。(p.24)・・・「愛の夢とか」
最小と最少がおなじもの。(p.36)・・・「いちご畑が永遠につづいていくのだから」
最大と最多

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「日の名残り」 カズオ・イシグロ 著 ハヤカワepi文庫

「日の名残り」 カズオ・イシグロ 著 ハヤカワepi文庫

静かな心に染み入るような小説でした。

物語は、ダーリントン・ホールと呼ばれる大邸宅の執事ミスター・スティーブンスが、かつての同僚ミス・ケントン(現ミセス・ベン)に会いに行く旅行の道程を、スティーブンスの一人称の形で進められていきます。

旅行中、スティーブンスは、ダーリントン・ホールで起こった様々な出来事を思い出します。ダーリントン・ホールには、欧米の要人がやってきます。ハリファックス卿、チャー

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「群青の夜の羽毛布」 山本文緒 著 角川文庫

「群青の夜の羽毛布」 山本文緒 著 角川文庫

虐待を受けているのなら、そんな家から逃げればいいと思うのですが、実際に長年虐待を受けてきた人には、それが難しい。ずっとジャッジされ批判されてきているわけですから、人の目が怖くなる。電車にも乗れなくなり、お店に一人で入って食べることもできなくなる場合が少なくありません。

主人公のさとるは、男性のような名前ですが24歳の女性です。なぜ男性のような名前になったのかには、重要な意味があるのですが、ネタバ

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「プロット・アゲインスト・アメリカ」フィリップ・ロス 著 集英社文庫

「プロット・アゲインスト・アメリカ」フィリップ・ロス 著 集英社文庫

「プロット・アゲインスト・アメリカ」フィリップ・ロス 著 集英社文庫
舞台は1940年代アメリカです。ローズベルトの代わりに、空の英雄あのリンドバーグが大統領になるという歴史改変小説。

物語の中では、リンドバーグは親ナチス的な傾向を持つ孤立主義者として描かれています。実際には、リンドバーグは大統領候補にもなれませんでしたが、親ナチスの傾向はあったようです。また、反ユダヤ的な姿勢をとっていました。

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「「私」という男の生涯」 石原慎太郎 著 幻冬舎文庫

「「私」という男の生涯」 石原慎太郎 著 幻冬舎文庫

僕は、石原慎太郎さんとは、考え方も理想とする方向も違います。

でも、自分が死んで妻も亡くなってから絶対に出してくれと、幻冬舎の見城社長に著者が生前に頼んでいた本とのことなので、手に取ってみました。

よくここまで赤裸々に書いたなと思います。

女性遍歴がすごい。

「無謀な結婚の後、妻に支えられながらも繰り返した女たちとの不倫は、間に入った弁護士に、あれは面倒な相手だと同情されたほどの女にまでひ

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