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読書日記 小説

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僕が読んだ、小説について、紹介していきます。
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「本心」 平野啓一郎 著 文春文庫

「本心」 平野啓一郎 著 文春文庫

AI、高齢化問題、格差社会、差別など、今最も考えなければならないテーマが凝縮した近未来小説。読み応えがありました。

主人公の朔也は、リアル・アバターとして働いている青年です。リアル・アバターとは例えば体が不自由で動けない人の代わりに、さまざまな場所に行きその様子を依頼者にライブで送信し、依頼者にあたかもそこにいるような体験をしてもらうという職業です。

朔也は、高校を中退し母と二人暮らしだったの

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「愛の夢とか」 川上未映子 著 講談社文庫

「愛の夢とか」 川上未映子 著 講談社文庫

短編小説集です。

川上未映子さんの文章が好きです。思わず立ち止まってしまうフレーズがある。矛盾もある(作者があえてそうしたのだろうけれど)。その中で、情景のビジュアルなイメージが浮かんでくるし、そこから妄想も働き始めます(時に暴走します)。

ビアンカ、でお願いします。(p.24)・・・「愛の夢とか」
最小と最少がおなじもの。(p.36)・・・「いちご畑が永遠につづいていくのだから」
最大と最多

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「日の名残り」 カズオ・イシグロ 著 ハヤカワepi文庫

「日の名残り」 カズオ・イシグロ 著 ハヤカワepi文庫

静かな心に染み入るような小説でした。

物語は、ダーリントン・ホールと呼ばれる大邸宅の執事ミスター・スティーブンスが、かつての同僚ミス・ケントン(現ミセス・ベン)に会いに行く旅行の道程を、スティーブンスの一人称の形で進められていきます。

旅行中、スティーブンスは、ダーリントン・ホールで起こった様々な出来事を思い出します。ダーリントン・ホールには、欧米の要人がやってきます。ハリファックス卿、チャー

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「群青の夜の羽毛布」 山本文緒 著 角川文庫

「群青の夜の羽毛布」 山本文緒 著 角川文庫

虐待を受けているのなら、そんな家から逃げればいいと思うのですが、実際に長年虐待を受けてきた人には、それが難しい。ずっとジャッジされ批判されてきているわけですから、人の目が怖くなる。電車にも乗れなくなり、お店に一人で入って食べることもできなくなる場合が少なくありません。

主人公のさとるは、男性のような名前ですが24歳の女性です。なぜ男性のような名前になったのかには、重要な意味があるのですが、ネタバ

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「プロット・アゲインスト・アメリカ」フィリップ・ロス 著 集英社文庫

「プロット・アゲインスト・アメリカ」フィリップ・ロス 著 集英社文庫

「プロット・アゲインスト・アメリカ」フィリップ・ロス 著 集英社文庫
舞台は1940年代アメリカです。ローズベルトの代わりに、空の英雄あのリンドバーグが大統領になるという歴史改変小説。

物語の中では、リンドバーグは親ナチス的な傾向を持つ孤立主義者として描かれています。実際には、リンドバーグは大統領候補にもなれませんでしたが、親ナチスの傾向はあったようです。また、反ユダヤ的な姿勢をとっていました。

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「「私」という男の生涯」 石原慎太郎 著 幻冬舎文庫

「「私」という男の生涯」 石原慎太郎 著 幻冬舎文庫

僕は、石原慎太郎さんとは、考え方も理想とする方向も違います。

でも、自分が死んで妻も亡くなってから絶対に出してくれと、幻冬舎の見城社長に著者が生前に頼んでいた本とのことなので、手に取ってみました。

よくここまで赤裸々に書いたなと思います。

女性遍歴がすごい。

「無謀な結婚の後、妻に支えられながらも繰り返した女たちとの不倫は、間に入った弁護士に、あれは面倒な相手だと同情されたほどの女にまでひ

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「流浪の月」 凪良ゆう 著 創元社文芸文庫

「流浪の月」 凪良ゆう 著 創元社文芸文庫

[ロリコンなんて病気だよな。全員死刑にしてやりゃあいいのに](p.10)

[こんな鬼畜がおしゃれなカフェのオーナー面してる日本、終わってる]

[犯罪しでかしても人生になんの傷もつかない。一般市民は税金を納める気なくす](p.310)

僕は、SNS上で使われるこの手の文言が嫌いです。

彼らは、「あなたは被害者なのだからかわいそう」、「お前は加害者なのだから生きている価値はない」などと勝手に決

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「ハリガネムシ」吉村萬壱 著 文春ウェブ文庫

「ハリガネムシ」吉村萬壱 著 文春ウェブ文庫

慎一は高校の倫理の教師ですが、「倫理の教科書には、あたかも国連が正義の使者のように扱われているが、しかしこの世の悪を根絶するという発想そのものがナンセンス極まりないと思った」という考えを持っています。彼にとって、世界は欺瞞に満ちているものなのかもしれません。表面は美しいけれど、それはプラスチックのようにツルツルで表情のないものと写っているのではないかと、僕は感じました。

とても印象に残ったシーン

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「僕の死体をよろしくたのむ」 川上弘美 著 新潮文庫

「僕の死体をよろしくたのむ」 川上弘美 著 新潮文庫

一時期、陽キャなる人たちがもてはやされました。陽気で、楽しく、場を盛り上げ、リーダシップがあり、きついこともズバリと言う・・・僕としては、どうも疲れてしまう人たちのことです。彼らの中には、自分たちが勝ち組だと思い上がり、彼らのノリについていけない、ついていかない人たちを馬鹿にする人もいます。

果たして、陽キャの感じる満足は真の意味で「幸せ」なのでしょうか?それより、微妙で繊細でふとした時に感じる

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「コンビニ人間」 村田沙耶香 著 文春文庫

「コンビニ人間」 村田沙耶香 著 文春文庫

人は(ひょっとしたら「現代の日本人は」なのかもしれませんが)、理由を聞こうとしません。大事なのは結果なのです。

主人公の古倉恵子が子供の頃から繰り返す突飛な行動には、ちゃんと理由があるのです。理由を聞かれないまま、その行動はよくないものであり、そうした行動をしてしまう恵子は治されるべき存在と認識されます。

恵子は「治らなくては」と思いながらどんどん大人になっていき、コンビニでアルバイトをするよ

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「カード師」 中村文則 著 朝日文庫

「カード師」 中村文則 著 朝日文庫

どこかで、躓いて転んだ時、たまたまそこにとんがった岩があり、その岩で頭を打ち、死んでしまった人がいるとします。その人は運が悪かったと思う人がほとんどでしょう。

でも、こう考える人もいるかもしれません。

「その岩は、その人がそこで転ぶのをじっと待っていたのだ」
という考えです。

もしそれが正しいとすれば、宇宙の法則を完全に知ることにより、次の瞬間に何が起こるのか知ることができるでしょう。

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「滅びの前のシャングリラ」凪良ゆう 著 中公文庫

「滅びの前のシャングリラ」凪良ゆう 著 中公文庫

面白かった。

結論はわかっています。1ヶ月後に小惑星が地球に衝突して地球滅亡です。

そこで何が起こるのか?そして、なぜ、それが「滅びの前のシャングリラ」になるのか?考えさせられる小説です。

地球が滅ぶとなれば、世界中無法地帯になるでしょう。

この小説も強烈にバイオレントです。でも、そこから愛が生まれ、ごく局所的なのかもしれませんが、滅びるまでの束の間のシャングリラ(=ユートピア)が生まれる

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「死んでたまるか」 団鬼六 著 ちくま文庫

「死んでたまるか」 団鬼六 著 ちくま文庫

相場ですっからかんになり、その後始めた酒場経営にも失敗し、中学の英語教師という真っ当な職についたものの3年で辞め、ポルノ作家になった著者の自伝エッセイです。

「ジャパニーズ・チェス」は、戦時中勤労動員で軍需工場で働いていた中学生時代の著者たちとアメリカ人捕虜との将棋を通した交流の物語。切ない話です。大人たちは戦争をしているけど、子供には関係ない。敵も味方もないんです。

「ショパンの調べ」は、英

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「万事快調<オール・グリーンズ>」 波木銅 著 文春文庫

「万事快調<オール・グリーンズ>」 波木銅 著 文春文庫

僕は、村上龍の「69」という高校生が主人公の小説が大好きなのですが、この「万事快調」は、まさに、現代の「69」と言えると思います。今度は女子高生が主人公。最高に面白かったです。

舞台は茨城県の東海村。

主人公の朴秀美は、田舎の底辺工業高校の、目立たない生徒ですが、学校が終わると東海村サイファーという集まりでフリースタイルラップをやっています。

読書家で、本を読みたいと言ったひきこもりの弟に、

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