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読書日記 歴史、社会、哲学、科学

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僕にとっての新しい知識や考え方を得ることができた本を紹介します。歴史・社会・経済・哲学・心理学・科学など、ジャンルはなんでもあり。
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記事一覧

「八月十五日に吹く風」 松岡圭祐著 講談社文庫

「八月十五日に吹く風」 松岡圭祐著 講談社文庫

アッツ島とキスカ島の占領は、太平洋戦争において失敗に終わったミドウェー海戦の陽動作戦として立案されました。しかし、ミッドウェーが敗北に終わってしまった後、アメリカ軍からの攻撃を先に受けたアッツ島では、日本兵2,638名が玉砕しています。

もう一つのキスカ島は、アッツ島玉砕の後完全に孤立してしまい、絶体絶命の状況に追い込まれます。しかし、キスカ島の5,200名の日本兵は、脱出に成功するのです。この

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「ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書」柴五郎著 石光真人編 中公新書

「ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書」柴五郎著 石光真人編 中公新書

義和団の乱における北京の各国公使館地区での籠城戦において実質的な指揮をとり、世界各国から賞賛された柴五郎の日記とその解説です。

柴五郎は、会津の生まれで、幕末に会津若松城が落城した時、10歳でした。

五郎は、会津若松城が黒煙に覆われ、わが家と思しきあたりが火の海になっているのを見ます。家の女性たち、祖母(81歳)、母(50歳)、兄太一郎の妻(20歳)、姉(19歳)、妹(7歳)は会津戦争の際に自

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「特攻の真実」 大島隆之著 幻冬舎文庫

「特攻の真実」 大島隆之著 幻冬舎文庫

1枚の写真が載っています。アメリカ軍によって撮影されたもので、空母フランクリンに一直線に突っ込んでいく一機の零戦が写されています。零戦は高射機銃を受けて火だるまになった櫻森文雄飛長(当時18歳)が操縦する特攻機です。火の玉になって、おそらく前も見えなかったと思われる状態で、そのままの角度でフランクリンの飛行甲板の後部にぶつかっていきます。その写真を見て、僕は言葉を失いました。

敗戦直後、多くの学

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「The Person You Mean to Be」 Dolly Chugh 著

「The Person You Mean to Be」 Dolly Chugh 著

人は、限定倫理的に物事を判断して、限定合理的に行動を決定します。そして「限定」の範囲は非常に狭く、99.999996%の情報が無意識に追いやられているのです。つまり、人は、0.000004%の情報だけを経験的に選択しているのにすぎません。たぶん、これが自我の大きさなのでしょうね。

そんな狭い範囲での判断で、自分が完璧に正しいと考えるのはおこがましいのです。われわれにできることは「(完全に)いい人

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「ソーシャル物理学」 アレックス・ペントランド著 草思社文庫

「ソーシャル物理学」 アレックス・ペントランド著 草思社文庫

アイデアの流れは速いが、似たアイデアに繰り返し晒されているエコーチェンバー状態にある人は、孤立状態にある人と同じくらい、現実から切り離されていきます。

アイデアの流れが速いということは、新しいアイデアが出ると素早くそれを参照すること。情報は素早く入ってくるのですが、偏りができてしまいます。心理療法にしても、一部の療法が極端に注目されることがよくあります。政治や外交の情報にしてもどうも偏りがある。

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「南京事件を調査せよ」 清水潔著 文春文庫

「南京事件を調査せよ」 清水潔著 文春文庫

目立たず地道だけど、とても大切な仕事をする人がいるものです。例えば、南京攻略戦に参加した兵士たちの日記を集めた小野賢二さんです。小野さんは、歴史の専門家でもない「化学労働者」です。小野さんは、会津若松で編成された「歩兵第65連隊」、「山砲兵第19連隊」の兵士たちの日記を集めました。その数31冊、うち26冊分はコピーで5冊は現物であり、立派な一次資料です。

これらの日記には、複数の人たちが、193

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「ソ連が満州に侵攻した夏」 半藤一利著 文春文庫

「ソ連が満州に侵攻した夏」 半藤一利著 文春文庫

戦争に勝ち目がないと悟った時、日本のトップの多くは、ソ連が仲介してくれるのではないかと言う淡い期待を持ちます。それは、あまりにナイーブな考え方です。戦争は、負けた方からいくら多くの利益を得るかという戦いなのです。善意で動く者などいません。交渉が可能なのは、言うことを聞かないと面倒なことになるぞと、相手に感じさせるほどの戦力がある間です。

ドイツと戦っている間は有効に機能した日ソ不可侵条約は、ドイ

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「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」 鴻上尚史著 講談社現代新書

「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」 鴻上尚史著 講談社現代新書

「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」 鴻上尚史著 講談社現代新書

FBFの方がタイムラインで紹介していたのを読んで、即アマゾンでチェックしたら売り切れだと言うので、本屋に直行して買いました。買ったかいがありました。

あの時代に、あの特攻という仕組みの中で、こんな人がいて生き残ったという事実が深い感動を呼びます。

佐々木友次という陸軍の特攻隊員は、9回出撃して9回生きて返ってくるので

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「故事成句でたどる楽しい中国史」 井波律子著 岩波ジュニア新書

「故事成句でたどる楽しい中国史」 井波律子著 岩波ジュニア新書

中国の歴史を故事成句で辿った本。ゴールデンウィーク中に読みました。おもしろかったです。

史記、十八史略、三国志、春秋左氏伝、論語、孟子、老子、荘子、孫子、荀子などから幅広く故事成句を拾ってきています。こうしてみると、中国の歴史が始まった3000年前から、1000年前ぐらいまでで、現代のほとんどの人に当てはまる人物評や、人生におけるほぼ全ての教訓が出尽くしているのかも・・。

「井の中の蛙、大海を

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「ブラックホールを見つけた男」アーサー・I・ミラー著 草思社文庫

「ブラックホールを見つけた男」アーサー・I・ミラー著 草思社文庫

スプラマニアン・チャンドラセカールは、インド生まれの理論天体物理学者で、1983年にノーベル物理学賞を受賞しています。

受賞の理由は、白色矮星の構造の研究に対してなされたものでした。しかし、チャンドラセカールは、その受賞理由に対しては、複雑な思いがあったそうです。

彼は、インドからイギリスにわたり、ケンブリッジで白色矮星を研究していた1930年代に、白色矮星になるためには上限の質量があり、それ

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「天才と異才の日本科学史」 後藤秀機 著 角川ソフィア文庫 

「天才と異才の日本科学史」 後藤秀機 著 角川ソフィア文庫 

明治維新・開国からたった20年で、北里柴三郎は、日本の細菌学を世界の最先端に引き上げました。「一九〇一年、第一回ノーベル賞がベーリングに決まる。受賞理由は「ジフテリアに対する血清療法の研究」となっていた。ジフテリアの仕事なら北里とベーリングは同格だった。それ以前の業績を考えれば、北里の方がずっと上(p.22)」だったのです。

また、物理学でも劇的な進展がありました。

長岡半太郎は、原子が土星の

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「科学する心」 池澤夏樹 著 角川文庫」

「科学する心」 池澤夏樹 著 角川文庫」

科学に関するエッセイ集です。

「日時計と冪とプランク時代」
ラプラスの魔物(僕は「ラプラスの悪魔」として知ってましたが・・)、大学生の頃だったかな?この概念を知った時は感動でした。宇宙は、決定論的ではなく、明日はわからないと言うことを知りました。

「無限と永遠」
「2014年、世界各国の国内総生産の合計は約77兆ドル。これに対して外国為替取引高は700兆ドルを超えた(p.52)」・・・大丈夫な

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「E=mc2」 デヴィッド・ボダニス著 早川書房

「E=mc2」 デヴィッド・ボダニス著 早川書房

あの有名なアインシュタインのE=mc2・・でも、これの意味を説明できる人がどれだけいるのか?そうなんです、理系の僕にもよくわからなかった。

でもこの本読んだら、少し垣間見える感じ。

速度の二乗と質量を掛けるとエネルギーになるのだけど、速度の最大値=光速の自乗になると、質量全部を使ったエネルギーになるんだね。そこに光の速度の特異性があるわけね。・・・といった感じの理解です。

E=mc2の意味も

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「戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗」 加藤陽子著 朝日出版社

「戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗」 加藤陽子著 朝日出版社

この本は、東大文学部教授の加藤陽子さんが、28人の中高生を相手に行った講義をまとめたものです。

複雑怪奇な戦前から日米開戦までの流れについて解説し、「リットン報告書」、「日独伊三国同盟」、「日米交渉」の3つの機会でなぜ開戦を避ける選択ができなかったのかについて、中高生に質問を投げかけながら講義が進んでいきます。それぞれの史実に対し、その背景を多角的に考察する加藤さんの歴史観には、厚みがあります。

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