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Book Review

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#日記

20代前半の微妙な心境を描き切ったEmma Cline待望の新作

20代前半の微妙な心境を描き切ったEmma Cline待望の新作

待ちに待ったEmma Clineの新刊を読みました!

2016年に出版されたClineの処女作「The Girls」は、その年の主要ベストセラーリストを入りを果たし大変話題になった1冊だったので、本作はそれを必ず上回るだろうと期待しすぎていただけに、何となく読むのが恐ろしかったのですが、期待を遥かに上回る大変素晴らしい1冊でした。
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今年もロングアイランドに夏がやって来た。
なのに、Ale

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「他者の苦しみを描く権利は誰にあるのか?」今年話題の1冊YellowFace

「他者の苦しみを描く権利は誰にあるのか?」今年話題の1冊YellowFace

今年5月に出版されると同時に35万冊が売れた、まさに今年話題の1冊を読みました。
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中国系アメリカ人Athenaは特大ヒットを記録し続けるベストセラー作家で、白人のJuneは辛うじて処女作の出版はできたものの全く売れないままスランプに陥った作家。

同じ大学で出会い、付かず離れずの距離で付き合いを続けていた2人でしたが、Athenaはある不幸な事故で死亡。たまたま事故現場に居合わせたJune

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明日、また明日、そして明日こそ、きっと世界は少しはくらいはマシなはずだ

明日、また明日、そして明日こそ、きっと世界は少しはくらいはマシなはずだ

昨年、英語圏の多くの読者が「今年のベストブック」に選書していた「Tomorrow And Tomorrow And Tomorrow 」読みました。
本のタイトルはシェイクスピアの「マクベス」に出てくる『トゥモロースピーチ』から来ていて、人生の中で成功していられる期間は短く、ピークが過ぎるとまるで何も成し遂げられなかったかのように忘れ去られる…というような内容。読了後、移り変わりの激しいゲーム業界

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監視社会がビックビジネスを成功させた未来。

監視社会がビックビジネスを成功させた未来。

ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの元ジャーナリストRob Hartの代表作「The Warehouse 」を読みました。最初の7割がジョージ・オーウォル(1984)、最後の3割がレイ・ブラッドベリ(華氏451度)、という感じで大変面白かったです。

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世界は疫病により荒廃。失業者が爆発的に増え、異常気象が悪化し「 Cloud 」という会社が支配的な力を持つようになりました。 地球最大規模

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助け合えない私たちが目指すものとは|「おいしいごはんが食べられますように」

助け合えない私たちが目指すものとは|「おいしいごはんが食べられますように」

名久井直子さんの装丁に惹かれて購入した「おいしいごはんが食べられますように」は今年の芥川賞を受賞。それは「口にしにくいことを言葉にしてくれてありがとう」という最高な一冊でした。

どこにでもいそうな人たちのありふれた日常が急に事件になる。

「女性」というものはこうあるべき、「仕事」というものはこうするべき、「ごはん」というものはこう食べるべき、という誰が決めたのかすら分からないルールが延々と積み

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マリブは何度でも蘇る。手放すことで得られた幸せ。

マリブは何度でも蘇る。手放すことで得られた幸せ。

夏になると読みたくなる作家が何人かいるのですが、TJR(Taylor Jenkins Reid)はまさにその1人です。
前作の「Daisy Jones &The Six」という本は、幸運にもパンデミック直前に行けた初夏のアメリカで読みました。ある場所に行く時は、その土地を舞台にしたり、その国の人が書いている本を読むのが好きなので…、なんとなく感じが出るような気がするのです。
今作「Malibu R

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スランプに陥った作家が人生を取り戻す新感覚スリラー

スランプに陥った作家が人生を取り戻す新感覚スリラー

Finlay Donovanは2人の幼い子供を育てるシングルマザーで、本が全く売れず危機的状況にある犯罪小説作家です。
元夫は長年不倫関係にあった不動産業を営む美人と同棲するために家を出ただけでなく、Finlayが雇っていたナニーを「お金の無駄使いだ」と勝手にクビにしてしまうような、どうしようもない人。

夫とナニーを失ったFinlayに残ったのは、元夫の浮気を知り激怒した時に壊した車の賠償金とマ

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完璧な夫婦生活を壊した真犯人は?ラストまで読者を悩ませる完璧な心理スリラー

完璧な夫婦生活を壊した真犯人は?ラストまで読者を悩ませる完璧な心理スリラー

MarissaとMathew Bishopは周囲の誰もが羨む「ゴールデン・カップル」です。夫妻共に見た目が良く、互いにビジネスを成功させていて、まさに”理想の夫婦”に見えていましたが、ある日Marissaはその結婚を自ら壊しにかかり、直ぐに後悔します。

崩壊してしまった結婚生活をどうにか取り戻そうと、Marissaはコンサルタントをしている元セラピストAveryを雇います。Averyはあることが

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「最高です!」としか言い表せないのが悔しいほど最高なアンディー・ウィアー最新作

「最高です!」としか言い表せないのが悔しいほど最高なアンディー・ウィアー最新作

世界的特大ヒットを記録したThe Martian (映画邦題・オデッセイ)の著書アンディー・ウィアーの最新作「Project Hail Mary」。今作も最高です!ウィアー様!!と叫びたくなるほど、とにかく面白かったです。

高校で化学の教師をしているRyland Graceは、ある日昏睡状態から目覚めます。Grace は宇宙船に乗っていて、地球とは異なる太陽系にいることを突き止めますが、一体なぜ

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思い描いた人生を歩めない時、人はどう選択すべきか。ニューヨークタイムズ2021年ベストスリラー

思い描いた人生を歩めない時、人はどう選択すべきか。ニューヨークタイムズ2021年ベストスリラー

新年です。私の住む街は数十年ぶりの寒波に見舞われ、強烈な寒さで明けました。
「寒い。寒い」といっていても寒さは変わらないので、ならばより寒さを感じる本でも読んでみよう、と思いたった元旦。 

とてつもなく寒そうな北アイルランドを舞台にした「Northern Spy」という本書は、1960年代後半から1998年までの約30年間続き、3500人以上が亡くなった北アイルランドの領有権を巡るイギリスとIR

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その文化は誰のものか?

その文化は誰のものか?

2020年のオプラ・ウィンフリーのブッククラブにピックアップされていた「American Dirt」。

ページターナーな一冊で「寝不足になった」「他の文化を知るきっかけになった」「メキシコから何故移民がやってくるのか。その問題の根深さが理解できた」などというポジティブなレビューが沢山付き、瞬く間に全米ベストセラーになった反面「Cultural Appropriation」「文化の盗用」なのではな

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次々にナニーが消えていく、スマートハウス「Heatherbre House」の秘密

次々にナニーが消えていく、スマートハウス「Heatherbre House」の秘密

スリラー小説の常識を覆してくれる小説に出会いました。Ruth Wareの「The Turn Of The Key」です。

Wareは、イギリスでは有名な心理犯罪スリラー作家だそうなのですが、私はそんなことは全く知らず、たまたま本屋で目についた「The Turn OF The Key」という、いかにもスリラー小説らしい意味深なタイトルがいいなあ、と思いパラパラと数ページめくって読むと、主人公がHM

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現在のアメリカが見える人間ドラマ|日々の生活の中で起きる人種差別とは?

現在のアメリカが見える人間ドラマ|日々の生活の中で起きる人種差別とは?

女優のリーズ・ウィザースプーンが「Hello Sunshine」という会社と連携して立ち上げたオンラインブッククラブ(読書会)。洋書が好きな方はご存知の方も多いと思うのですが、ウィザースプーンが毎月1冊選書し、その本をInstagramのアカウントで紹介し、ネット書店だけでなく「IndieBound」を通じてローカル書店を応援しよう、という取り組みを行なっています。

ウィザースプーンが選書した本

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#Metooムーブメント|黒幕暴露の裏側

#Metooムーブメント|黒幕暴露の裏側

「Catch and Kill」「捕えて、殺す」

セクハラや性的暴行などのスキャンダルを揉み消す為に、スキャンダルが報道される前にフルストーリーを「Catch」「捕える」。セクハラやパワハラを受けた被害者の過去を徹底的に調べあげ、異性関係や性的嗜好を掘り出し、大袈裟に報道し人格攻撃を開始。被害者は世間から批判され、信用されなくなります。被害者が精神的にボロボロになったところで、加害者から高額な示

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