マガジンのカバー画像

Book Review

27
読んだ本の感想を書いています
運営しているクリエイター

記事一覧

ダイバーシティの中に潜む女性蔑視、白人特権社会を描いた昨年話題の1冊

ダイバーシティの中に潜む女性蔑視、白人特権社会を描いた昨年話題の1冊

名のない語り手が主人公の「I’m A Fan」がペーパーバックになっているのを知り、嬉々として購入。

2023年Women’s Prizeフィクション部門にノミネート、ブリティッシュブックアワードのディスカバー部門受賞など昨年とても注目されていた本書。賛否両論様々なレビューを目にして以来、読んでみたい1冊でした。
+++
30代、移民2世、ロンドン南部でボーイフレンドと同棲中の白人ではない名のな

もっとみる
ニューヨークで暮らす大富豪の暮らしが垣間見れるパインアップル・ストート

ニューヨークで暮らす大富豪の暮らしが垣間見れるパインアップル・ストート

「Pineapple Street」は今年最初に読んだ1冊。
2011年ニューヨークのど真ん中マンハッタンで起きた「Occupy Wall Street」(ウォール街を占拠せよ)という抗議活動で使用されたスローガン「We are the 99%」は、アメリカの富を上位1%が独占しているのは経済界や政界が腐敗しているからだ、という意味で富裕層への抗議として現在でも使用されているのですが、ではその上位

もっとみる
アメリカで人気の未解決事件を解決するTrue Crime番組の闇を描いたページターナーなスリラー

アメリカで人気の未解決事件を解決するTrue Crime番組の闇を描いたページターナーなスリラー

2003年10月。Luke Ryderは裕福な妻と3人の継子を残し、ロンドンの自宅の庭先で遺体となり発見されました。目撃者は1人も見つからず、迷宮入り。未解決事件として葬り去られようとしていた事件が今、20年の時を経てその真実が明らかになろうとしています。しかも、カメラの前で!

犯罪ドキュメンタリー番組「Infamous 」のプロデューサーNick Vincent は、元メトロポリタン警察の刑事

もっとみる
アメリカ過疎地の深刻な社会問題「オピオイドクライシス」

アメリカ過疎地の深刻な社会問題「オピオイドクライシス」

本年度のピューリツアー賞フィクション部門を受賞した話題の1冊、Barbara Kingsolverの「Demon Copperhead」を読みました。
500ページ越えの長編に加えて、フォントがかなり小さく「私、コレ読み切れるのかな…」と、本の分厚さに圧倒されながらも読んでよかった、本当によかった、今年1番良い本だった、と思った大変興味深い1冊になりました。
+++
10代のシングルマザーが小

もっとみる
20代前半の微妙な心境を描き切ったEmma Cline待望の新作

20代前半の微妙な心境を描き切ったEmma Cline待望の新作

待ちに待ったEmma Clineの新刊を読みました!

2016年に出版されたClineの処女作「The Girls」は、その年の主要ベストセラーリストを入りを果たし大変話題になった1冊だったので、本作はそれを必ず上回るだろうと期待しすぎていただけに、何となく読むのが恐ろしかったのですが、期待を遥かに上回る大変素晴らしい1冊でした。
+++
今年もロングアイランドに夏がやって来た。
なのに、Ale

もっとみる
「他者の苦しみを描く権利は誰にあるのか?」今年話題の1冊YellowFace

「他者の苦しみを描く権利は誰にあるのか?」今年話題の1冊YellowFace

今年5月に出版されると同時に35万冊が売れた、まさに今年話題の1冊を読みました。
+++
中国系アメリカ人Athenaは特大ヒットを記録し続けるベストセラー作家で、白人のJuneは辛うじて処女作の出版はできたものの全く売れないままスランプに陥った作家。

同じ大学で出会い、付かず離れずの距離で付き合いを続けていた2人でしたが、Athenaはある不幸な事故で死亡。たまたま事故現場に居合わせたJune

もっとみる
明日、また明日、そして明日こそ、きっと世界は少しはくらいはマシなはずだ

明日、また明日、そして明日こそ、きっと世界は少しはくらいはマシなはずだ

昨年、英語圏の多くの読者が「今年のベストブック」に選書していた「Tomorrow And Tomorrow And Tomorrow 」読みました。
本のタイトルはシェイクスピアの「マクベス」に出てくる『トゥモロースピーチ』から来ていて、人生の中で成功していられる期間は短く、ピークが過ぎるとまるで何も成し遂げられなかったかのように忘れ去られる…というような内容。読了後、移り変わりの激しいゲーム業界

もっとみる
監視社会がビックビジネスを成功させた未来。

監視社会がビックビジネスを成功させた未来。

ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの元ジャーナリストRob Hartの代表作「The Warehouse 」を読みました。最初の7割がジョージ・オーウォル(1984)、最後の3割がレイ・ブラッドベリ(華氏451度)、という感じで大変面白かったです。

+++
世界は疫病により荒廃。失業者が爆発的に増え、異常気象が悪化し「 Cloud 」という会社が支配的な力を持つようになりました。 地球最大規模

もっとみる
同じ時代を生きる者同士が負うものとは/What We Owe Each Other

同じ時代を生きる者同士が負うものとは/What We Owe Each Other

表紙に惹かれて購入したミノーシュ・シャフィクの「What We Owe Each Other」。
内容は、タイトルにあるとおり「私たちがお互いに背負っているもの」ということで、特に政治や経済システム、人生のそれぞれの段階における保障などの「社会契約」が実はもう機能していないのではないか、ということにフォーカスして書かれています。

社会契約がボロボロ…。「んなこと、わかっとる、だからどうすればいい

もっとみる
未来は古くて新しい。過去の選択が私を作り続けるThe Paper Palace

未来は古くて新しい。過去の選択が私を作り続けるThe Paper Palace

親による虐待やレイプシーンを含む本書は、アメリカで初版が出版された当初からかなり賛否両論があった一冊だったのですが、その一方で多くのBook Club (読書会)の課題図書としてピックアップされていた一冊でもあり、気になって購入したまま積読になっていたのを最近読みました。
大自然の描写が大変美しく、夏の終わりから涼しくなる初秋頃に読むのにぴったりな本書。「あんな本読むなんて時間の無駄だー!」という

もっとみる
助け合えない私たちが目指すものとは|「おいしいごはんが食べられますように」

助け合えない私たちが目指すものとは|「おいしいごはんが食べられますように」

名久井直子さんの装丁に惹かれて購入した「おいしいごはんが食べられますように」は今年の芥川賞を受賞。それは「口にしにくいことを言葉にしてくれてありがとう」という最高な一冊でした。

どこにでもいそうな人たちのありふれた日常が急に事件になる。

「女性」というものはこうあるべき、「仕事」というものはこうするべき、「ごはん」というものはこう食べるべき、という誰が決めたのかすら分からないルールが延々と積み

もっとみる
マリブは何度でも蘇る。手放すことで得られた幸せ。

マリブは何度でも蘇る。手放すことで得られた幸せ。

夏になると読みたくなる作家が何人かいるのですが、TJR(Taylor Jenkins Reid)はまさにその1人です。
前作の「Daisy Jones &The Six」という本は、幸運にもパンデミック直前に行けた初夏のアメリカで読みました。ある場所に行く時は、その土地を舞台にしたり、その国の人が書いている本を読むのが好きなので…、なんとなく感じが出るような気がするのです。
今作「Malibu R

もっとみる
スランプに陥った作家が人生を取り戻す新感覚スリラー

スランプに陥った作家が人生を取り戻す新感覚スリラー

Finlay Donovanは2人の幼い子供を育てるシングルマザーで、本が全く売れず危機的状況にある犯罪小説作家です。
元夫は長年不倫関係にあった不動産業を営む美人と同棲するために家を出ただけでなく、Finlayが雇っていたナニーを「お金の無駄使いだ」と勝手にクビにしてしまうような、どうしようもない人。

夫とナニーを失ったFinlayに残ったのは、元夫の浮気を知り激怒した時に壊した車の賠償金とマ

もっとみる
完璧な夫婦生活を壊した真犯人は?ラストまで読者を悩ませる完璧な心理スリラー

完璧な夫婦生活を壊した真犯人は?ラストまで読者を悩ませる完璧な心理スリラー

MarissaとMathew Bishopは周囲の誰もが羨む「ゴールデン・カップル」です。夫妻共に見た目が良く、互いにビジネスを成功させていて、まさに”理想の夫婦”に見えていましたが、ある日Marissaはその結婚を自ら壊しにかかり、直ぐに後悔します。

崩壊してしまった結婚生活をどうにか取り戻そうと、Marissaはコンサルタントをしている元セラピストAveryを雇います。Averyはあることが

もっとみる