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20代前半の微妙な心境を描き切ったEmma Cline待望の新作

待ちに待ったEmma Clineの新刊を読みました!

2016年に出版されたClineの処女作「The Girls」は、その年の主要ベストセラーリストを入りを果たし大変話題になった1冊だったので、本作はそれを必ず上回るだろうと期待しすぎていただけに、何となく読むのが恐ろしかったのですが、期待を遥かに上回る大変素晴らしい1冊でした。
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今年もロングアイランドに夏がやって来た。
なのに、Alexの夏はもはや終わろうとしている。

自分がどう振舞えば男性が振り向くかを生まれながらに知っていた22歳のAlexはSexを武器にし、自分の2倍以上の年齢である裕福な中年男性Simonに近づき、彼がロングアイランドに所有する豪邸で暮らし始めます。

ある日、Simonが開いたディナーパーティーには、生まれながらにして裕福なエリートたちが大勢集まり、Alexは自分の顔を売り込む絶好の機会を手にしていたにも関わらず、取り返しのつかないミスを犯しSimonは激怒。
SimonはAlexにシティへ戻る列車の片道切符を手渡し、問答無用で豪邸を追い出すよう使用人へ言いつけ、Alexは駅へと向かう車に乗せられます。

駅へ向かう途中のビーチで車から降りたAlex。
お金も泊まる場所もない彼女は、そのまま目的もなくビーチを散策していた際に、うっかりスマホを水没させてしまいます。

全てを失ったかのように見えたAlexの心に何故か「Simonはハッキリと私と別れたいとは言わなかった。きっと来週のレーバーデイ(9月の祝日)のパーティーにはSimonの怒りも収まり、私はあの豪邸に帰れるはず。」という考えが浮かびます。
そして、彼女は他者を意のままに操る天性の才能を発揮し、寝ぐらを転々としながらレーバーデイまでの数日間をロングアイランドで過ごすのですが…
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ロングアイランドの豪邸にゲストを招いて夏を過ごす、ということが恒例行事の富裕層。その中で、常に誰かのゲストとして暮らす貧困層のAlex。

物語はAlexの視点から語られているので、AlexがSexや見た目を武器に他者を意のままに操っているように見えるのですが、実はその裏では、Simonや裕福な中年男性たちはAlexが特別扱いされることに喜びを感じていることをちゃんと分かっていて彼女を一時的に受け入れている。
そして、Alexも心のどこかでそのことを分かっているのに、それを認めてしまうと自分のプライドが傷付く。だから、自分が傷付く前にアルコールとドラッグで現実逃避してから男性を誘い、ことが終わると、相手が自分を本当はどう思っているのかを確かめるために必ず行き過ぎた行動を起こし、相手を激怒させ反応を見る、ということを繰り返します。

一見すると、Alexの行動は支離滅裂で破滅思想を抱いているようにも思ったのですが、22歳という年齢は、少女ではなく女性でもない。その曖昧な年齢の時にある「居場所が欲しい」「自分を認めて欲しい」という心理をとてもよく表現している文章が散りばめられている本書。そしてその微妙な年齢の心境を、文学として唯一無二の物語として押し上げた著者がとにかく素晴らしい!!

どうやってもうまくいかなかったあの夏の日々が、鮮明に蘇ってくるような本書。20代前半の夏がなんだかとても懐かしく感じました。









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