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現在のアメリカが見える人間ドラマ|日々の生活の中で起きる人種差別とは?

女優のリーズ・ウィザースプーンが「Hello Sunshine」という会社と連携して立ち上げたオンラインブッククラブ(読書会)。洋書が好きな方はご存知の方も多いと思うのですが、ウィザースプーンが毎月1冊選書し、その本をInstagramのアカウントで紹介し、ネット書店だけでなく「IndieBound」を通じてローカル書店を応援しよう、という取り組みを行なっています。

ウィザースプーンが選書した本は全てがベストセラーになっていているのですが、中には映像化された作品(Little Fire Everywhere ,私に会うまでの1600キロ,など)もあり、映像化されることによって原書の本が更に売れ大大大ベストセラーになった作品も沢山あります。

ウィザースプーンのブッククラブ「1月の本」に選書されていた「Such a Fun Age」。TBR パイル(To Be Read≒積読本)の中にずっと眠っていたのですが、Instagramで高評価を目にする機会が多く、ようやく読み終えました。そして「何でもっと早く読まなかったのよ?!」と思うほど、読み終えた後、この本について2度、3度と様々な事を考えさせられる素晴らしい一冊でした。

裕福な家庭で育った白人Alixはブロガーとして彼女自身も成功し、誰もが羨むような生活を送っていますが、それでも自分の人生に物足りなさを感じています。他人から見ると「完璧」なAlixですが、彼女はどこか精神的に不安定で、更に2人目の子供を産んでからは自分の外見に満足出来ずにいます。そして、Alixは自分の人生の選択は正しかったのか?自問自答し始めます。

もう1人の主人公、黒人EmiraはAlixの長女Briarのベビーシッターをしています。25歳のEmiraはベビーシッターとタイピングの仕事を掛け持ちし、ギリギリ家賃を支払っていますが、今すぐにでも健康保険のある安定した職業に就きたいと願っています。

ある日の夜11時。Alixは「緊急事態だ」と言い、娘Briarをスーパーマーケットに連れ出して欲しい、とEmiraに電話します。Emiraは親友のバースデーパーティーに参加していて、ほろ酔いでパーティー用のタイトなドレスを着ていましたが、それでも構わないから「今すぐ来て欲しい」というAlixのオファーを受けることに。実は、Emiraは親友へのバースデーギフトとパーティー代金を支払い、金欠だったため、Alixの非常識な時間帯のオファーを断り切れませんでした。黒人女性が白人の子供を連れて、夜中に高級スーパーをウロつくのを不審に思った警備員が「誘拐」疑いをEmiraにかけます。

Emira と警備員は、スーパーの客が集まってくるほど激しい言い争いになり、その客の1人が事態の一部始終を携帯で撮っていました。

Emiraから連絡をもらったAlixの夫Peterがスーパーへ駆けつけ事態は収集しましたが、Emiraは「自分が黒人だから疑われた」という言葉では言い表しようのない惨めさや、屈辱、虚しさを感じながらスーパーを後にしました。

その数日後、Emiraはスーパーで起きた誘拐疑惑事件の一部始終を携帯に記録した長身でハンサムな白人男性Kellyと偶然同じ電車に乗りました。お互いの外見に惹かれ合い、意気投合した2人はデートすることに。Emira の人生で起きた最悪の事件が、Kellyに出会うという最高の偶然に変わった!とEmiraは喜びますが、この「最悪」と「最高」という偶然の出来事が深く結び付けた関係の背後で、微妙な人間関係に亀裂が走ります。Kellyという白人男性は、開けてはいけないパンドラの箱の「鍵」だったのです。AlixとEmiraは2人共に、このパンドラの箱がもたらす災いを受けることになります。

良き妻、良き母でいることより自分のキャリアや外見ばかりを常に気に留めるAlixは、いつもどこか自己中心的でなのですが、彼女の性格の浅さが、アメリカで裕福な家庭に育ち社会経済的に恵まれたリベラルの浅さと重なるようでした。

また、黒人貧困地で育ったEmira が、25歳を過ぎても情熱を傾けるものが見出せず、自分の人生をどう生きるのかを全く考えられない原因は、日々の生活費をどうにか稼ぐ事にいっぱいいっぱいで、それ以外の事は考えられないんだ、という黒人貧困層の現実でした。時給の仕事を掛け持ちするEmiraは、親友と5日間のバケーションに出掛けると家賃が支払えなくなる…というのはEmiraが仕事に希望を見出せないことを、よく表したシーンだ、と思いました。貧困が、向上心や自尊心を蝕んでいくという問題をとても考えさせられました。

人種の異なる2人の女性、AlixとEmiraを主人公にしたことで、白人による人種差別や多様であることの重要性、自称”リベラル”からの善意だとしても非常に上から目線で恩着せがましい態度、人種に関係なく誰もが持つ過去のトラウマや、親子関係など様々な難しいテーマにアプローチし、見事に一冊にまとめあげた著者。

本の結末については賛否が分かれるレビューを沢山目にしました。私はAlixとEmira、そのどちらのキャラクターにも共感できる部分があったのですが、読む人によってキャラクターの解釈も違うようなので、まさに読書会にピッタリの一冊だな、と思いました。

ところで、Instagramの#bookstagramコミュニティ内では#black resilience booksta tourというツアーが今月末まで開催されています。(Such a Fun Ageも紹介されていました)黒人の作家やライターが書いた本が毎日紹介されていて「マイノリティーだから」と埋もれそうになっていた才能を世界中にアピールできる素晴らしい取り組みへ繋がっています。私は、本は読むのも買うのも大好きなので、ハッシュタグをフォローして毎日紹介される本を楽しみにしています。

BLM抗議活動が始まってからアメリカに根深かく残る人種差別問題に、本当に沢山の人が正面から向き合い、切り込んだことは革命だったと思います。#bookstagramコミュニティ内も少しずつ確実に変わってきています。学ぶことや反省することがあまりに多くて圧倒させられ続けましたが、自分自身や人生観を真剣に見つめ直す貴重な時間になり、私の心の中でも革命が起きたように、今は感じています。
















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