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次々にナニーが消えていく、スマートハウス「Heatherbre House」の秘密

スリラー小説の常識を覆してくれる小説に出会いました。Ruth Wareの「The Turn Of The Key」です。

Wareは、イギリスでは有名な心理犯罪スリラー作家だそうなのですが、私はそんなことは全く知らず、たまたま本屋で目についた「The Turn OF The Key」という、いかにもスリラー小説らしい意味深なタイトルがいいなあ、と思いパラパラと数ページめくって読むと、主人公がHM刑務所からMr.Wrexhamという弁護士宛てに「私は殺していない」と手紙を書こうと試みているのですが、何度も書き損じてしまい、ようやく書ききった手紙に、何故か差し出し人である自分の名前を書いていませんでした。

とてもシンプルな文章なのに、数ページで引き込まれてしまい「これは面白そうだなぁ」という直感で購入しました。そのままカフェへ向かい、早速読み始めたのですが、物語の展開がとてもスローで、100ページほど読んでも何も起きない…。

私は普段から、4-5冊をその日の気分に合わせて同時進行で読んでいることもあり、あまりリズムが掴めない本は読み切らずに他の本を読む時間に充てるようにしているので、すっかり読了する気を無くしてしまった本書はそのまま本棚の片隅へ。恐らく2度と本書を開くことはないだろうな…と思っていたのですが、年明けにInstagramの#bookstagramコミュニティで再び本書を「ベストスリラー」として投稿している人を複数見かけたたのをきっかけに、先週末にもう一度読んでみることにしました。

やはり、2度目もスローな展開にリズムが掴めず戸惑いながらも、そのままサラサラと読み進め、200ページほどを過ぎた辺りから、物語は急展開し始めたのです。一気に引き込まれて、そのまま週末の2日間で読み切ってしまいました。

主人公Rowanは、1年間で4人のナニーが辞めた問題がありそうな豪邸「Heatherbre House」の住人Elincourt一家が新たなナニーを募集している求人広告を見つけます。信じられないほど高額な給料と、監視カメラが各部屋に設置され全てがコントロールパネルで管理されているスマートハウス「Heatherbre House」に住み込みで働けるという夢のような好条件に、Rowanは戸惑いながらも応募します。

父Billと母Sandraと3人の娘が暮らす「Heatherbre House」でナニーの職を得たRawan。全てが順風満帆に見えていたのですが、テック系の会社経営をしているBillのヘルプするために急遽Sandraも数日間家を空けることになり、Rowan勤務初日から子供たちと置き去りにされます。彼女は割り当てられた自分専用の豪華な部屋で眠ろうとベッドに入るのですが、何もないはずの天井裏から「キーッ…キーッ…」と人が歩くような床が軋む音が聞こえます。毎晩必ず響くその音に恐怖を感じたRowanは、ついに「Heatherbre House」の過去を調べ始めるのですが、幽霊が出る、という幾つもの噂を見聞きします。

そして、大人しそうに見えていた3人の娘たちは、それぞれに難しさを抱えていることが明らかになり、寮で生活していた長女Rhiannonが帰宅したことで、事態は全く予測不能の結末へ向かいます。

初夏でも冬のように肌寒いイギリス北部の人気のない森の中に位置する「Heatherbre House」の地形と、何もかもが自分自身の意思ではなくオンラインで管理されているスマートハウスという気味の悪さが、「幽霊が出る」という超常現象を信じてしまいそうにさせるのが、著者Wareの凄いところ。

物語の本筋ではないのですが…。私は「スマートハウス」と聞くと、便利そうでいいなぁ、などと呑気に考えていたのですが、本書を読みながら”AIが進化すると人間の心のような感情を持つのではなく、人間がAIは心のような感情を持っている”という勘違いをしてしまう怖さを感じました。

冒頭で「誰かが死んだ」ということは直ぐに分かるのですが、誰が何故死んだのか?そして真犯人は誰なのか?というところに凄くツイストがあり、警察官や刑事が1人も出てこないのに、事件を解決してしまう著者Wareの書法がとにかく凄い。スロースタートなスリラー小説でしたが、ラスト2ページのために340ページが存在する…こんなスリラーを書いた著者に謝意を表したいです。面白かった!!










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