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記事一覧

お年よりと絵本をひらく 第11回 「絵本で異文化体験」中村柾子

きっかけは、お相撲さん 大相撲春場所の頃だったか、施設(デイサービス)のみなさんのあいだで、「今場所は誰が優勝するかな」と、力士の名前が取りざたされていました。…

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5日前
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お年よりと絵本をひらく 第10回 「夏の絵本で遊ぶ」中村柾子

文字のない絵本、どう読む? 『えんにち』は、楽しい絵本です。でも、お年よりの方々に、どんな読み方をしたらいいでしょう。なぜって、この絵本には言葉がないので、差し…

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1か月前
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お年よりと絵本をひらく 第9回 「雨の日の絵本」中村柾子

絵本を選ぶ際、その季節ならではの作品を選びたいと思われる方は、多いのではありませんか。私も、梅雨時には、いちどは雨の絵本を読んでみたいと思います。雨降りをテーマ…

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2か月前
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お年よりと絵本をひらく 第8回 「『きょうは何の日?』で本を選ぶ」 中村柾子

「旅の日」にちなんで 絵本選びに迷っていた日、こんな手もある! と教えてくれたのは、早朝のラジオ放送でした。「きょうは何の日」というコーナーです。「5月16日は、旅…

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3か月前
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お年よりと絵本をひらく 第7回 「昔話絵本に心動かされる」中村柾子

絵本に求めるものは? 施設(デイサービス)に通いはじめた当初、絵本の時間に集まるメンバーは、その日によって違っていました。ですが、回を重ねるうちに、少しずつ顔ぶ…

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4か月前
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お年よりと絵本をひらく 第6回 「春をあじわう絵本」中村柾子

春を届ける 桜が咲きはじめる頃、草の間に交じって顔を出すつくし。今日は、施設(デイサービス)のみなさんに春を届けようと、線路脇の土手で摘んだつくしを持っていきま…

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5か月前
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お年よりと絵本をひらく 第5回 「図鑑で遊ぶ」中村柾子

扱い慣れれば、おもしろい 図鑑と聞くと、「絵本にくらべてなじみがない」と思う方も、いらっしゃるかもしれません。ですが、図鑑は、扱い慣れればとてもおもしろいもので…

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6か月前
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お年よりと絵本をひらく 第4回 「絵本で昔に思いをはせる」中村柾子

「昔の子ども」に戻る 子ども時代のことを思い出すきっかけは、どんなときでしょう。『昭和の子ども生活絵図鑑』には、戦後すぐから1965年頃までの、子どもの遊びや当時の…

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7か月前
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お年よりと絵本をひらく 第3回 「一年をしめくくる絵本」中村柾子

元気の出る絵本 12月のある日、絵本を読み終えて施設(デイサービス)を出ようとすると、「今年も、あとわずかですね。来年はどんな年になるでしょう」と、利用者の方に声…

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8か月前
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お年よりと絵本をひらく 第2回 「声を楽しむ、音とことばの絵本」中村柾子

声を出すって気持ちいい 毎週デイサービスを訪問していると、声の出にくいお年よりがいらっしゃいます。声は元気のもと。朗らかな笑い声や話し声を少しでも取り戻せたら、…

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9か月前
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お年よりと絵本をひらく 第1回 「食べ物絵本で、つながる」中村柾子

お年よりも絵本が好きなのでは? 私は、保育現場で30年以上、子どもたちと絵本を読んできました。それは、とても楽しい日々でした。退職後考えたことは、「お年よりも絵本…

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10か月前
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『ブニーとブールド』新刊著者対談つづき

福音館書店では、6月に新刊『ブニーとブールド』を刊行しました。お金はもちろん、パンも大好きという2ひきのブタの貯金箱を描いた愉快なお話です。前回につづき、この本…

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1年前
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『ブニーとブールド』新刊著者対談

福音館書店では、6月に新刊『ブニーとブールド』を刊行しました。お金はもちろん、パンも大好きという2ひきのブタの貯金箱を描いた愉快なお話です。 今日から2回にわたっ…

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1年前
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きつね山の女の子 第二回

山元ときえ 作 七、ボロボロになったくま太ズボン 「ただいまー!」  げんかんのドアをあけると、外に出ようとしていたお母さんと、ぶつかりそうになりました。  その…

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1年前
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花音とモモのふしぎなぼうけん 第三話「春のオオカミ」

柚木一乃 作 安井寿磨子 絵    その朝めざめると、部屋の中が昨日よりひんやりとしている感じがして、花音(かのん)はいきおいよくベッドからとびおりました。さいき…

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1年前
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 きつね山の女の子 第一回

    山元ときえ 作  るみなは、ふしぎなハンカチを一まいもっています。白地に、赤いコスモスの花が、一りんだけししゅうしてあるハンカチです。  もう、一年いじ…

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1年前
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お年よりと絵本をひらく 第11回 「絵本で異文化体験」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第11回 「絵本で異文化体験」中村柾子

きっかけは、お相撲さん
大相撲春場所の頃だったか、施設(デイサービス)のみなさんのあいだで、「今場所は誰が優勝するかな」と、力士の名前が取りざたされていました。なかに、「お相撲さんもいろいろな国の人がいるのね。モンゴルとか、ヨーロッパの人もいるみたい」と話す人も、います。

そんな会話を聞きながら、私は、モンゴルを舞台にした絵本を、思い浮かべていました。モンゴル出身のお相撲さんのことは知っていても

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お年よりと絵本をひらく 第10回 「夏の絵本で遊ぶ」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第10回 「夏の絵本で遊ぶ」中村柾子

文字のない絵本、どう読む?
『えんにち』は、楽しい絵本です。でも、お年よりの方々に、どんな読み方をしたらいいでしょう。なぜって、この絵本には言葉がないので、差し出し方次第で、読み方が変わるのです。そこで今回は、遊びにつなげてみようと、思い立ちました。

まずは言葉遊びから。
「夏といったら、どんな事柄を思いつきますか?」とデイサービスの7、8人のみなさんにたずねると、まあ、いろいろ出ること。枝豆・

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お年よりと絵本をひらく 第9回 「雨の日の絵本」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第9回 「雨の日の絵本」中村柾子

絵本を選ぶ際、その季節ならではの作品を選びたいと思われる方は、多いのではありませんか。私も、梅雨時には、いちどは雨の絵本を読んでみたいと思います。雨降りをテーマにした絵本はたくさんありますが、ご年配のみなさんは、「雨」にどのような思いを持っているのでしょう。

ごく幼い子向けの絵本だけど……
ごく幼い子向けの絵本は、それ自体が優れていても、お年よりには物足りないだろうと、これまであまり選んできま

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お年よりと絵本をひらく 第8回 「『きょうは何の日?』で本を選ぶ」 中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第8回 「『きょうは何の日?』で本を選ぶ」 中村柾子

「旅の日」にちなんで
絵本選びに迷っていた日、こんな手もある! と教えてくれたのは、早朝のラジオ放送でした。「きょうは何の日」というコーナーです。「5月16日は、旅の日です。松尾芭蕉が奥の細道へ旅立った日で、それにちなみ、旅の日となりました」という放送でした。

ちょうど乗り物の絵本を読みたいと思っていたので、それを旅に結びつけてみようと思い立ちました。

頭に浮かんだのは、『やこうれっしゃ』です

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お年よりと絵本をひらく 第7回 「昔話絵本に心動かされる」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第7回 「昔話絵本に心動かされる」中村柾子

絵本に求めるものは?
施設(デイサービス)に通いはじめた当初、絵本の時間に集まるメンバーは、その日によって違っていました。ですが、回を重ねるうちに、少しずつ顔ぶれが定まってきました。すると、みなさんが何を求めているのか、気になるようになりました。

面白いと思ったのは、知らないことに出会ったときの喜びの大きさ・深さです。年齢に関係なく、知ることは、嬉しいことなのですね。科学絵本や図鑑などが、こんな

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お年よりと絵本をひらく 第6回 「春をあじわう絵本」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第6回 「春をあじわう絵本」中村柾子

春を届ける
桜が咲きはじめる頃、草の間に交じって顔を出すつくし。今日は、施設(デイサービス)のみなさんに春を届けようと、線路脇の土手で摘んだつくしを持っていきました。
「さあ、この袋の中に何が入っているでしょう? ヒントは、春です」といって、紙袋を差しだしました。「たんぽぽ?」「さくら?」 なかなか正解は出ません。

「つくしです!」と袋をあけると、「あら~」「ほんと」。なかでも、根っこのついた

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お年よりと絵本をひらく 第5回 「図鑑で遊ぶ」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第5回 「図鑑で遊ぶ」中村柾子

扱い慣れれば、おもしろい

図鑑と聞くと、「絵本にくらべてなじみがない」と思う方も、いらっしゃるかもしれません。ですが、図鑑は、扱い慣れればとてもおもしろいものです。昆虫、海の生き物、植物、天体など、図鑑が取りあげる世界は、どれをとっても、私たちの暮らしに無縁ではありません。図鑑は、幼い子向けのものから専門書まで多種多様ですが、年齢を選ばず見る人によって、いろいろな楽しみ方ができるものもあります。

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お年よりと絵本をひらく 第4回 「絵本で昔に思いをはせる」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第4回 「絵本で昔に思いをはせる」中村柾子

「昔の子ども」に戻る
子ども時代のことを思い出すきっかけは、どんなときでしょう。『昭和の子ども生活絵図鑑』には、戦後すぐから1965年頃までの、子どもの遊びや当時の暮らしが細やかに描かれています。

小学校の教室内の様子、給食、貸本屋、ゴム段(ゴム跳び)やめんこ、駄菓子など、描かれたものを見て、みなさん、たちどころに昔の子どもに戻ったようです。
「お風呂屋さんは、いくらだった?」「やたらとめんこの

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お年よりと絵本をひらく 第3回 「一年をしめくくる絵本」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第3回 「一年をしめくくる絵本」中村柾子

元気の出る絵本
12月のある日、絵本を読み終えて施設(デイサービス)を出ようとすると、「今年も、あとわずかですね。来年はどんな年になるでしょう」と、利用者の方に声をかけられました。そこで、「よい一年になるように、今度は元気の出る絵本を持ってきますね」と言って、別れました。

翌週持っていったのは、『ぐりとぐらの1ねんかん』です。この絵本のあちこちに描かれている、どんぐりや松ぼっくり、まだ公園に残

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お年よりと絵本をひらく 第2回 「声を楽しむ、音とことばの絵本」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第2回 「声を楽しむ、音とことばの絵本」中村柾子

声を出すって気持ちいい

毎週デイサービスを訪問していると、声の出にくいお年よりがいらっしゃいます。声は元気のもと。朗らかな笑い声や話し声を少しでも取り戻せたら、と思います。でも訓練で声を出すのは、気が滅入ります。声を出すって気持ちいい、と思える方法があると、いいですよね。

『あーと いってよ あー』を、持っていった日のことです。大きな声で、あーと言ったり、上を向いて、あーと言ったり、思いきり

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お年よりと絵本をひらく 第1回 「食べ物絵本で、つながる」中村柾子

お年よりと絵本をひらく 第1回 「食べ物絵本で、つながる」中村柾子

お年よりも絵本が好きなのでは?
私は、保育現場で30年以上、子どもたちと絵本を読んできました。それは、とても楽しい日々でした。退職後考えたことは、「お年よりも絵本が好きなのでは?」ということでした。すぐれた絵本は時をこえ、国もこえて、子どもたちに迎えられた……それなら、年齢をこえても、絵本は喜ばれるはず。幸いなことに近所のデイサービスが、「週1回、午後の1時間をどうぞ」と、受け入れてくれました。

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『ブニーとブールド』新刊著者対談つづき

『ブニーとブールド』新刊著者対談つづき

福音館書店では、6月に新刊『ブニーとブールド』を刊行しました。お金はもちろん、パンも大好きという2ひきのブタの貯金箱を描いた愉快なお話です。前回につづき、この本の作者・山下篤さんと、お話の絵を描いてくださった広瀬弦さんの対談をお届けします。

お話に登場するキャラクターたち

広瀬 お話の中に意地悪なカラスが出てきますけど、あのカラスはいいですね。

山下 絵本から、もう少し長いこの物語を書こうと

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『ブニーとブールド』新刊著者対談

『ブニーとブールド』新刊著者対談

福音館書店では、6月に新刊『ブニーとブールド』を刊行しました。お金はもちろん、パンも大好きという2ひきのブタの貯金箱を描いた愉快なお話です。
今日から2回にわたって、この本の作者・山下篤さんと、お話の絵を描いてくださった広瀬弦さんの対談をお届けします。お二人に、作品作りの背景や貯金箱にまつわるお話など、あれこれたっぷり語っていただきました。

そもそもの始まりは・・・

広瀬 このお話はどのくらい

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きつね山の女の子 第二回

きつね山の女の子 第二回

山元ときえ 作

七、ボロボロになったくま太ズボン
「ただいまー!」
 げんかんのドアをあけると、外に出ようとしていたお母さんと、ぶつかりそうになりました。
 そのしゅんかん。
「るみな、いったい、どこへ行っていたの!」
 お母さんの大きな声が、頭のうえからふってきました。
「くらくなっても帰ってこないから、これから、あなたをさがしにいくところだったのよ!」
 それだけいうと、お母さんは力がぬけた

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花音とモモのふしぎなぼうけん 第三話「春のオオカミ」

花音とモモのふしぎなぼうけん 第三話「春のオオカミ」

柚木一乃 作 安井寿磨子 絵

 
 その朝めざめると、部屋の中が昨日よりひんやりとしている感じがして、花音(かのん)はいきおいよくベッドからとびおりました。さいきん、どんどんさむくなるので、雪がふるのではないかと、とても楽しみにしているのです。
 あわててカーテンをあけますが、外はいつもどおりのけしき。雪はまだのようでした。
 花音は急にさむくなって、大いそぎできがえると、あたたかいリビングへと

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 きつね山の女の子 第一回

 きつね山の女の子 第一回

 

  山元ときえ 作

 るみなは、ふしぎなハンカチを一まいもっています。白地に、赤いコスモスの花が、一りんだけししゅうしてあるハンカチです。
 もう、一年いじょうもつかっていて、せんたくをくりかえしているのに、赤いコスモスのししゅうは少しも色あせていません。たった今、糸をさしおえたばかりというように、つやつやとかがやいているのです。
 そのハンカチは、るみなが小学二年生だったきょ年の秋、き

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