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お年よりと絵本をひらく 第4回 「絵本で昔に思いをはせる」中村柾子

「子どもたちだけではなく、お年よりにも、絵本を楽しんでもらえたら」。元・保育士の中村柾子(なかむら・まさこ)さんは、2年半のあいだ、毎週のように近所のデイサービスに通っては、10人前後の利用者の方々と一緒に、手作りのおもちゃで遊び、絵本を楽しんでこられました。その日々の記録を、連載でお届けします。(編集部)

「昔の子ども」に戻る
子ども時代のことを思い出すきっかけは、どんなときでしょう。『昭和の子ども生活絵図鑑』には、戦後すぐから1965年頃までの、子どもの遊びや当時の暮らしが細やかに描かれています。

『昭和の子ども生活絵図鑑』
(ながた はるみ  絵 奥成 達  文 金の星社)

小学校の教室内の様子、給食、貸本屋、ゴム段(ゴム跳び)やめんこ、駄菓子など、描かれたものを見て、みなさん、たちどころに昔の子どもに戻ったようです。
「お風呂屋さんは、いくらだった?」「やたらとめんこの強いやつがいたなあ」「うちは、紙芝居は見てもいいけど、駄菓子は禁止だった」「水あめは白くなるまで練った」。いつもは遠巻きに見ているだけの男性も加わって、7、8人の声が、にぎやかに飛び交います。

『昭和の子ども生活絵図鑑』より

幸いなことに、知人から譲り受けた、当時のおもちゃが家にあったので、持っていきました。木製や陶製のままごと道具、ベーゴマ、めんこ、ぬり絵など、それらは、まさに絵本に描かれているもので、みなさんの喜ばれたこと。

思いをはせたり、推理をしたり
おもちゃに触れ、楽しんだ後で『ふるさと60年』に、移りました。

『ふるさと60年』
(道浦母都子  文 金 斗鉉  絵 福音館書店)

この本にも、昔の暮らしや子どもの遊びなどが描かれていますが、これは図鑑ではなく、ある地方都市の戦後間もない頃から60年後までの変貌(へんぼう)を、家族の歴史と重ね合わせて描いた物語絵本です。
「おなじ場所がずっと描かれているってところが、いいわね。どういう風に変わっていくかよくわかるから。最後まで昔のままの神社が残ってるのがいいわ」と、Iさん。

『ふるさと60年』より

この絵本でも、まずは昔の光景に目がいきます。
「牛が荷車引いてる」「一升瓶に棒がさしてある。これ、玄米入れてつくのよ。私、子どもの頃やったの」と、Sさん。
通りかかった若い職員が、絵本をのぞき「これなんですか?」と指さしたのは、デパートの屋上にあがるアドバルーンでした。「広告よ。そういえばずいぶん前から見ないわね」と、Aさん。時代の流れを感じたようです。

『ふるさと60年』より

 新幹線が走っているのを見つけたKさん。「SLから電気機関車、新幹線か。富士山の形で、ここがどこだか大体わかるね」と、鉄道の移り変わりに注目したり、物語の舞台の場を推理しています。

子どもの幸せを願う
でも、懐かしさや思い出に浸るだけではありませんでした。
「ちょっと待って。前のページでは、川で子どもが遊んでいたけど、埋め立てたのね」「便利になったり、きれいになるのはいいけど、子どもが遊べないのはね……」と、考え深げです。

「昔の子ども」に戻り、話に花が咲いた図鑑。そして、ふるさとの変化を追った物語絵本。両書とも、子ども時代の懐かしさにはじまりましたが、『ふるさと60年』を閉じる頃には、「やっぱり子どもは、外で遊ばないとね」と、今の子どもの置かれている状況を心配する声が生まれていました。
遊びの大事さを願うこの言葉は、街づくりの課題であり、未来の子どもの幸せを願う心の表われでもありますね。

著者プロフィール
中村柾子(なかむら・まさこ)
1944年、東京生まれ。青山学院女子短期大学児童教育科卒業。
10年間幼稚園に勤務後、保育士として26年間保育園で仕事をする。退職後、青山学院女子短期大学、立教女学院短期大学などで非常勤講師を務める。
著書に評論『絵本はともだち』『絵本の本』(ともに福音館書店)がある。

第5回は、「図鑑で遊ぶ」をお届け予定です。どうぞお楽しみに! *毎月20日公開予定(*2/16追記 当初の予定だった「おひなさまの物語」から変更してお届けします。)

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