Web福音館

福音館書店のウェブマガジン「WEB福音館」が noteに移行しました! これまでの「…

Web福音館

福音館書店のウェブマガジン「WEB福音館」が noteに移行しました! これまでの「WEB福音館」はこちらからどうぞ https://www.fukuinkan.co.jp/webfukuinkan/

最近の記事

お年よりと絵本をひらく 第7回 「昔話絵本に心動かされる」中村柾子

絵本に求めるものは? 施設(デイサービス)に通いはじめた当初、絵本の時間に集まるメンバーは、その日によって違っていました。ですが、回を重ねるうちに、少しずつ顔ぶれが定まってきました。すると、みなさんが何を求めているのか、気になるようになりました。 面白いと思ったのは、知らないことに出会ったときの喜びの大きさ・深さです。年齢に関係なく、知ることは、嬉しいことなのですね。科学絵本や図鑑などが、こんなに喜ばれるとは! 文房具やつくしという「もの」を媒介に、会話が生まれ、話がひろが

    • お年よりと絵本をひらく 第6回 「春をあじわう絵本」中村柾子

      春を届ける 桜が咲きはじめる頃、草の間に交じって顔を出すつくし。今日は、施設(デイサービス)のみなさんに春を届けようと、線路脇の土手で摘んだつくしを持っていきました。 「さあ、この袋の中に何が入っているでしょう? ヒントは、春です」といって、紙袋を差しだしました。「たんぽぽ?」「さくら?」 なかなか正解は出ません。 「つくしです!」と袋をあけると、「あら~」「ほんと」。なかでも、根っこのついたつくしはみなさん初めて見るようで、興味しんしん、手に取って眺めています。 「根

      • お年よりと絵本をひらく 第5回 「図鑑で遊ぶ」中村柾子

        扱い慣れれば、おもしろい 図鑑と聞くと、「絵本にくらべてなじみがない」と思う方も、いらっしゃるかもしれません。ですが、図鑑は、扱い慣れればとてもおもしろいものです。昆虫、海の生き物、植物、天体など、図鑑が取りあげる世界は、どれをとっても、私たちの暮らしに無縁ではありません。図鑑は、幼い子向けのものから専門書まで多種多様ですが、年齢を選ばず見る人によって、いろいろな楽しみ方ができるものもあります。 描かれていない野菜の名は? たとえば、『いきものづくし ものづくし』シリー

        • お年よりと絵本をひらく 第4回 「絵本で昔に思いをはせる」中村柾子

          「昔の子ども」に戻る 子ども時代のことを思い出すきっかけは、どんなときでしょう。『昭和の子ども生活絵図鑑』には、戦後すぐから1965年頃までの、子どもの遊びや当時の暮らしが細やかに描かれています。 小学校の教室内の様子、給食、貸本屋、ゴム段(ゴム跳び)やめんこ、駄菓子など、描かれたものを見て、みなさん、たちどころに昔の子どもに戻ったようです。 「お風呂屋さんは、いくらだった?」「やたらとめんこの強いやつがいたなあ」「うちは、紙芝居は見てもいいけど、駄菓子は禁止だった」「水あ

        お年よりと絵本をひらく 第7回 「昔話絵本に心動かされる」中村柾子

          お年よりと絵本をひらく 第3回 「一年をしめくくる絵本」中村柾子

          元気の出る絵本 12月のある日、絵本を読み終えて施設(デイサービス)を出ようとすると、「今年も、あとわずかですね。来年はどんな年になるでしょう」と、利用者の方に声をかけられました。そこで、「よい一年になるように、今度は元気の出る絵本を持ってきますね」と言って、別れました。 翌週持っていったのは、『ぐりとぐらの1ねんかん』です。この絵本のあちこちに描かれている、どんぐりや松ぼっくり、まだ公園に残っていたイチョウの葉っぱなども、一緒に持っていきました。 大判の表紙に描かれた

          お年よりと絵本をひらく 第3回 「一年をしめくくる絵本」中村柾子

          お年よりと絵本をひらく 第2回 「声を楽しむ、音とことばの絵本」中村柾子

          声を出すって気持ちいい 毎週デイサービスを訪問していると、声の出にくいお年よりがいらっしゃいます。声は元気のもと。朗らかな笑い声や話し声を少しでも取り戻せたら、と思います。でも訓練で声を出すのは、気が滅入ります。声を出すって気持ちいい、と思える方法があると、いいですよね。 『あーと いってよ あー』を、持っていった日のことです。大きな声で、あーと言ったり、上を向いて、あーと言ったり、思いきり音をのばしたり、弾ませたり、絵本の主人公のすることを、皆でまねてみました。 す

          お年よりと絵本をひらく 第2回 「声を楽しむ、音とことばの絵本」中村柾子

          お年よりと絵本をひらく 第1回 「食べ物絵本で、つながる」中村柾子

          お年よりも絵本が好きなのでは? 私は、保育現場で30年以上、子どもたちと絵本を読んできました。それは、とても楽しい日々でした。退職後考えたことは、「お年よりも絵本が好きなのでは?」ということでした。すぐれた絵本は時をこえ、国もこえて、子どもたちに迎えられた……それなら、年齢をこえても、絵本は喜ばれるはず。幸いなことに近所のデイサービスが、「週1回、午後の1時間をどうぞ」と、受け入れてくれました。 でも、いざ行くとなると絵本選びに迷います。あれこれ考えた末、頭に浮かんだ絵本

          お年よりと絵本をひらく 第1回 「食べ物絵本で、つながる」中村柾子

          『ブニーとブールド』新刊著者対談つづき

          福音館書店では、6月に新刊『ブニーとブールド』を刊行しました。お金はもちろん、パンも大好きという2ひきのブタの貯金箱を描いた愉快なお話です。前回につづき、この本の作者・山下篤さんと、お話の絵を描いてくださった広瀬弦さんの対談をお届けします。 お話に登場するキャラクターたち 広瀬 お話の中に意地悪なカラスが出てきますけど、あのカラスはいいですね。 山下 絵本から、もう少し長いこの物語を書こうと思ったとき、カラスのことは考えました。できれば、悪者になってくれる登場人物がほし

          『ブニーとブールド』新刊著者対談つづき

          『ブニーとブールド』新刊著者対談

          福音館書店では、6月に新刊『ブニーとブールド』を刊行しました。お金はもちろん、パンも大好きという2ひきのブタの貯金箱を描いた愉快なお話です。 今日から2回にわたって、この本の作者・山下篤さんと、お話の絵を描いてくださった広瀬弦さんの対談をお届けします。お二人に、作品作りの背景や貯金箱にまつわるお話など、あれこれたっぷり語っていただきました。 そもそもの始まりは・・・ 広瀬 このお話はどのくらい前から書き始めたんですか? 山下 この形になったのはもう3年以上前。でも、実は

          『ブニーとブールド』新刊著者対談

          きつね山の女の子 第二回

          山元ときえ 作 七、ボロボロになったくま太ズボン 「ただいまー!」  げんかんのドアをあけると、外に出ようとしていたお母さんと、ぶつかりそうになりました。  そのしゅんかん。 「るみな、いったい、どこへ行っていたの!」  お母さんの大きな声が、頭のうえからふってきました。 「くらくなっても帰ってこないから、これから、あなたをさがしにいくところだったのよ!」  それだけいうと、お母さんは力がぬけたように、だまりこみました。ところが、るみなのズボンを見て、また、新しいひめいをあ

          きつね山の女の子 第二回

          花音とモモのふしぎなぼうけん 第三話「春のオオカミ」

          柚木一乃 作 安井寿磨子 絵    その朝めざめると、部屋の中が昨日よりひんやりとしている感じがして、花音(かのん)はいきおいよくベッドからとびおりました。さいきん、どんどんさむくなるので、雪がふるのではないかと、とても楽しみにしているのです。  あわててカーテンをあけますが、外はいつもどおりのけしき。雪はまだのようでした。  花音は急にさむくなって、大いそぎできがえると、あたたかいリビングへと、かけこみます。モモがうれしそうに、しっぽをふってむかえてくれました。だきつくと

          花音とモモのふしぎなぼうけん 第三話「春のオオカミ」

           きつね山の女の子 第一回

              山元ときえ 作  るみなは、ふしぎなハンカチを一まいもっています。白地に、赤いコスモスの花が、一りんだけししゅうしてあるハンカチです。  もう、一年いじょうもつかっていて、せんたくをくりかえしているのに、赤いコスモスのししゅうは少しも色あせていません。たった今、糸をさしおえたばかりというように、つやつやとかがやいているのです。  そのハンカチは、るみなが小学二年生だったきょ年の秋、きつね山でいっしょにあそんだ、見知らぬ女の子からもらったのです。でも、るみなは、今

           きつね山の女の子 第一回

          花音とモモのふしぎなぼうけん 第二話「キリンのこもり歌」  

          柚木一乃 作 安井寿磨子 絵  花音(かのん)が学校から帰ると、モモが茶色のまゆをぴくぴくさせながら、ねむっていました。夏のはじめの光にてらされたまゆ毛に、白い毛がまじっています。花音がそっと近づくと、とつぜんモモはおきあがりました。そのとたん、「さんぽにいこう」と力いっぱいしっぽをふります。  すっかり年をとって、このところは、お昼ねばかりのモモですが、さんぽとなるとじっとしていられないのです。  今日は二人で家の近くにある、しばふ広場に行ってみることにしました。つゆあ

          花音とモモのふしぎなぼうけん 第二話「キリンのこもり歌」  

          花音とモモのふしぎなぼうけん 第一話「湖のしっぽ」  

          柚木一乃 作 安井寿磨子 絵    今日は家族でしおひがりです。 花音(かのん)はリュックをせおって、元気にテーブルのまわりをとびはねています。そのうしろを、しっぽをふってモモがついていきます。  モモは、花音が生まれるよりも前からこの家にいる大きな犬です。せなかは黒く、おなかは白、大きなひとみの上には茶色のまゆ毛があります。  花音が生まれると、お父さんがモモに、 「モモは、花音のお姉さんになったんだよ」 と、おしえました。すると、モモは花音の顔をじっと見つめ、わかったと

          花音とモモのふしぎなぼうけん 第一話「湖のしっぽ」  

          ラオスのひと昔前に、小さな女の子だったチャンの話 第6話

          月夜のトラとお正月  米の収穫が終わると、刈り取りの終わった村はずれの水田に、水牛が放されました。そのころは、水牛は、犂をつけて田んぼを耕す貴重な労働力となっていたので、どの家でも水牛をたくさん飼っていたのです。  ある日、その田んぼの周りでトラの足跡が見つかりました。数えると水牛が減っているようです。村の男たちは話し合って見張りに行くことにしました。午後遅く、出かけようとするお父さんに、チャンはついていこうとしました。でもお父さんは言ったのです。 「今日は、おまえのことは

          ラオスのひと昔前に、小さな女の子だったチャンの話 第6話

          ラオスのひと昔前に、小さな女の子だったチャンの話 第5話

          「夜」と「森」の住人たち  チャンたち村の子どもたちが、昼間には楽しく駆けまわって遊ぶ家の周りも、夜はまるで見知らぬ別の世界のようになりました。暗闇が支配する夜は、人間が思うようにふるまえる時間ではありません。夜は、トラやヤマネコなど森の動物たちが動きまわる時間でもあり、そして、なんと言っても「ピー(精霊、妖怪)」が支配する世界となるからです。  何度も言いますけれど、そのころは電気がなかったのですから、夜は漆黒の闇だったのです。もちろん、月は夜を照らしてくれました。満月が

          ラオスのひと昔前に、小さな女の子だったチャンの話 第5話