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お年よりと絵本をひらく 第5回 「図鑑で遊ぶ」中村柾子

「子どもたちだけではなく、お年よりにも、絵本を楽しんでもらえたら」元・保育士の中村柾子(なかむら・まさこ)さんは、2年半のあいだ、毎週のように近所のデイサービスに通っては、10人前後の利用者の方々と一緒に、手作りのおもちゃで遊び、絵本を楽しんでこられました。その日々の記録を、連載でお届けします。(編集部)

扱い慣れれば、おもしろい

図鑑と聞くと、「絵本にくらべてなじみがない」と思う方も、いらっしゃるかもしれません。ですが、図鑑は、扱い慣れればとてもおもしろいものです。昆虫、海の生き物、植物、天体など、図鑑が取りあげる世界は、どれをとっても、私たちの暮らしに無縁ではありません。図鑑は、幼い子向けのものから専門書まで多種多様ですが、年齢を選ばず見る人によって、いろいろな楽しみ方ができるものもあります。

描かれていない野菜の名は?

たとえば、『いきものづくし ものづくし』シリーズには、遊び心がいっぱいです。3巻目の、野菜の仲間を集めたページには、なじみの野菜が勢ぞろい。

『いきものづくし ものづくし3』より
(高原美和  絵 福音館書店)

デイサービスのみなさんと、野菜の名前を言ったり、好きな料理法を話した後、質問をしてみました。
「ところで、ここに描かれてない野菜、何か思いつきますか?」
「えっ、なんだろう」
「わかった、うど」
「みずな」
「しそ」
と、つぎつぎ名前が上がりました。「すごいですね」と感心していると、「子どもが嫌いなものなら、いくらでも思いつくわよ」だそうです。
 
1巻目には、角(つの)のある動物ばかり集めたページもあれば、世界の履物が一堂に並んでいるページもある、ユニークさ。角のある動物はすべて草食獣だと知ると、「そうだと思ってた」と、Kさんがつぶやきました。

『いきものづくし ものづくし1』より
(田中豊美  絵 福音館書店)

動詞を「ひねり出す」

おなじ1巻目に、文房具を並べたページがあります。ひらいてみせると、「まあ、きれいに並んでいること」と、まずは、驚きの声。クレヨンや、絵の具のチューブなど、文房具の仲間が整然と並んでいます。どれも身近なものです。「よくこんなに集めたわね」と、感心する人もいました。

『いきものづくし ものづくし3』より
(角愼作  絵 福音館書店)

そこで、とっさの思いつきですが、尋ねてみました。
「ここに描かれている文房具は、人に使われるとき、動詞を伴います。たとえば、鉛筆は?」と聞くと、
「書く」
と、ひとりが即答。
「では、みなさん、どれほど動詞が隠れているか、この画面から探してみてください」
みんなおもしろがって考えました。
なかには、思いがけないものもありました。物差しを指さし、「はかる」とか「あてる」と言っていたのですが、ひとりの人が挙げたのは「たたく」でした。
「えっ?」
と、いぶかる声に、
「ちょっとこれ使って、肩たたきすることあるじゃない」
思いがけぬ発想に、笑い声が上がりました。書く、ちぎる、折る、(墨を)する、塗る、彫る、くっつける、なぞる……と、出ること、出ること。なんと、40を超える動詞が「ひねり出された」のです。
 
「あー、頭使って疲れちゃった」
と、Aさん。でも、表情を見ると、とても楽しかったようです。
お年よりに図鑑?と思われるかもしれませんが、いまは誰もが楽しめる図鑑がたくさん出ています。ただ眺めるだけでもよし、時には寄り道をして遊ぶもよし。「頭使って疲れちゃった」という言葉を、私は、心地よい刺激と、受けとめました。

著者プロフィール
中村柾子(なかむら・まさこ)
1944年、東京生まれ。青山学院女子短期大学児童教育科卒業。
10年間幼稚園に勤務後、保育士として26年間保育園で仕事をする。退職後、青山学院女子短期大学、立教女学院短期大学などで非常勤講師を務める。
著書に評論『絵本はともだち』『絵本の本』(ともに福音館書店)がある。

第6回は、「春の絵本」をお届け予定です。どうぞお楽しみに! *毎月20日公開予定


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