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【短編小説】

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こちらは短編読切です。【霊感タオル】は全13話となりました。
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記事一覧

【 短編小説 】 永遠のフライト。

【 短編小説 】 永遠のフライト。

学校からの帰り道、僕はいつもこの土手を通って帰る。

ここは広い景色を見ることが出来て気持ち良いし、河原にちょいちょい吉沢さんがいるから。

いつもなら吉沢さんはベンチに腰掛けて本を読んでいるはずだった。

今日はそのベンチが机になり、吉沢さんは熱心に紙飛行機を折っている。

僕は土手を降りて行った。

久しぶりに声を掛けてみる、、といっても一週間前にここで会ったけど。

「何してるの?」

3機

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【 短編小説 】 娘の学園祭。

【 短編小説 】 娘の学園祭。

こっそり来てしまった。

娘が頑張っているところを見たいのだ。

可愛いひとり娘。

早くに妻を病で亡くし、父と娘、二人で頑張って来た。

どうしても通いたい学校があると、この東京の学校に入学した。

本当は地元の学校に通って欲しかったが、子どもの頃からの夢へ、まずは第一歩となる学校であった。

「元気で頑張っているよ」と、欠かさず連絡をくれる優しい娘である。

「ただ、先輩たちの気合が凄くてちょ

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【 短編小説 】une grasse matinée ~ アロマの香りと共に ~

【 短編小説 】une grasse matinée ~ アロマの香りと共に ~

宜しかったら、音楽をかけながら、どうぞ。

雨が静かに降り続いている。

湿度を感じる、少し遅く起きた朝。

部屋を満たすアロマ。

深呼吸で香りを体の中に染み込ませる。

穏やかな時間。

息を細く吐き出す。

心地良い目覚め。

ベッドから起き出して、テーブルのペリエを口に含む。

体温と同じ炭酸は身体を優しく起こしてくれる。

スツールに腰掛けて、ペリエの炭酸をしばらく眺めた。

冷蔵庫から

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【短編小説】 人気のある部屋

【短編小説】 人気のある部屋

友人の田中くんが引っ越したので、新居でお祝いを兼ねて飲み会をすることになった。

聞くところによると家賃が激安とのこと。

ひょっとして、不動産界隈で有名なアレな部屋なんじゃ。。

一抹の不安を感じつつ、同じく友人の木野くんと酒やつまみを持って田中くんの新居へ向かった。

外観は小綺麗なワンルームマンション。

不穏な雰囲気は感じられない。

田中くんから教えて貰った部屋へ木野くんと向かう途中でも

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【短編小説】嫌われないでね。

【短編小説】嫌われないでね。

嫌なことがあるとわたしは好きなことに集中します。

すると、嫌なことが見えなくなります。

そして、嫌なことはなかったことになります。

だから、わたしに嫌われないようにしてください。

「ハヤシさんが倒れている!!」

「救急車、救急車!! 息していない!! AED取って来てー!!」

廊下で人が右往左往する様がすりガラス越しに見える。

わたしはトイレでメイク直しに専念した。

あ、口紅も塗り

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【短編小説】 選択する仕事。

【短編小説】 選択する仕事。

緊急事態である。

守りたい人間が本心ではいない場所だが、仕事なので私はここでコレに対峙している。

時限爆弾。

国の重要な施設であるため、単純に爆破する訳には行かず、爆弾処理のエキスパートである私がここにいる。

小さなお道具箱のようなサイズの時限爆弾。

静まり返った建物内で正確に時を刻んでいるデジタル音が聞こえるが、私の体内からもやや乱れた鼓動が聞こえてくる。

大概のパターンは「安全に順

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【短編小説】 これ一本でやっていく。

【短編小説】 これ一本でやっていく。

仕事帰りにふらりと飲み屋に立ち寄った。

L字型のカウンターは6席。

満席になったら、さぞや息苦しさを覚えそうだと思った。

私はL字の4席、2席となっている店の最奥4席の端に腰掛けた。

平日の23時を回ろうとしているお陰で、店は私ひとりだった。

歳の頃、40代の中程だろうか、割烹着姿の女将さんがひとりで切り盛りしている店だった。

私は日本酒の冷を頼んだ。

空きっ腹に優しい、あんかけの豆

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【短編小説】 走馬灯甲子園

【短編小説】 走馬灯甲子園

「両校が得点無しで向かえました9回の裏、二死満塁! いやぁ、両校選手たちの素晴らしい走馬灯に、一進一退が続き、得点を許さない状況となっております! 7回表の場面で高田農業高校の山本くんがノーアウトで長打コースの14点走馬灯を繰り出してくれましたが、品川高校センター蒲田くんの『雨降る中で交通量の多い幹線道路に立ちすくむ子猫を助けた走馬灯』で、ここ甲子園のバックスクリーン前特設席にいらっしゃる、両校選

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【短編小説】 その先は、

【短編小説】 その先は、

新聞の切り抜きをしていた。

気に入った記事をスクラップブックに貼り付けるために。

貼り付けた記事は読み返されることはない。

貼り付けた途端に興味が薄れる。

「あ~」

見上げた天井には小さな明かりが灯っている。

カッターを握ったまま両腕を天井に突き上げて伸びをする。

カッターが空を切り裂いた。

切り裂いた先から手が伸びて来た。

掴みあげられた私はスクラップブックに貼られる。

そし

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【短編小説】 僕の指を掴むのは。

【短編小説】 僕の指を掴むのは。

ああ、居たたまれない。

あからさまに「居ても役に立たない」ことがあるなんて。

追い出された訳じゃないけど、外に出た。

飛び出すように来たから上着を持って出なかった。

シャツの襟をなぶるように風が絡みつく。

ああ、寒い。

日差しはあるけど、急に下がった気温と風で体が冷えて来た。

けどな、戻るのもなぁ。

ピュ~っと僕をなぶりに来た風がシャツの襟に何か隠して行った。

カサっとする何か。

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【短編小説】 彼の部屋の扉は、

【短編小説】 彼の部屋の扉は、

きょうは初めて彼の部屋に行く。

ドキドキが止まらない。

彼は急な仕事で会社に行っている。

けど、予めスペアのカードキーを貰っている。

スマホの地図で位置を確認しながら彼の部屋を目指す。

「えっと、この信号を渡って・・・」

押しボタン式信号。

車はまばらにしか走って来ないけどボタンを押す私。

ポチっと押して十数秒。

赤から青に変わった瞬間。

歩行者信号用の音楽が流れて来た。

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【短編小説】 優しいお神輿。

【短編小説】 優しいお神輿。

分からなくは無いけど、酷いことをするね。

隣の上辺村に大手商社がゴルフ場を造成するらしいと、数年前から噂には聞いていた。同じように何にもない我が下辺村に話が来ても良さそうなものだと思っていた。

だが、上辺村の山に連なる四季折々に咲く花や木々を鑑みると、我が村には話がやって来ないらしい。

山の栄養が足りないのか、楓やイチョウ、コナラなどは紅葉の季節でも色付きにムラがあり、村の位置関係で気象条件

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【 短編小説 】 ホログラム裁判 #2000字のホラー

【 短編小説 】 ホログラム裁判 #2000字のホラー

「・・・実証実験を重ねておりました『記憶ホログラム』が、99.99%の整合性と確認され、物的証拠として裁判で採用される運びとなりました。」

「・・・合わせて簡易裁判所にて刑期等が検討済となっている裁判において、先入観の無い子供達による裁判員制度も同時に施行される運びとなり・・・」

  何でまた、こんなしょうもない事になってんのかねぇ。もう、執行猶予付きの判決が出てるじゃねぇかよ。同じことをガキ

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【短編小説】 あの日泊った旅館にて。 #2000字のホラー

【短編小説】 あの日泊った旅館にて。 #2000字のホラー

友達のAちゃんとF県のとある温泉地へ一泊旅行へ出掛けた時の話です。

ちょっと鄙びたところの方がゆっくり出来るよね。

Aちゃんとは大学からの同級生で、就職してからも時々会っては食事へ行ったり、遊びに行ったり。

久しぶりに旅行でも行こう!

ある日、私の部屋で宅飲みをしていたら話が盛り上がり、勢いでネット検索をしていて偶然見つけた旅館でした。

そのままの勢いで電話をしてみると、ちょうどキャンセ

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