トトロ

塾講師&パートいろいろ。童話も書いています。読んでほっこりする童話を書いていきたいと思…

トトロ

塾講師&パートいろいろ。童話も書いています。読んでほっこりする童話を書いていきたいと思っています。

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記事一覧

夕暮れの飛行機雲 ⑧(小説)

 十年前からこの町はほとんど変わらない。  駅前の商店街の店はシャッターを下ろす店が少し増えただけで、新しい居酒屋とカフェがそれぞれ一軒できただけ。それだけだ。…

トトロ
1年前
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夕焼けの飛行機雲 ⑦(小説)

夕暮れの飛行機雲 ⑦  どうしたらいいんだろう。  僕は実家の自分のベッドに仰向けになり、天井を見ながら考えた。  部屋は僕が高校生の頃とぼほ一緒だった。  ほと…

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1年前
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夕暮れの飛行機雲 ⑥(小説)

 夕焼けの飛行機雲 ⑥  川べりの並木道の緑が濃さを増すにつれ、クラスも受験の雰囲気へと変わっていった。  今年の夏はきっと、家族での一泊旅行もなく、夏祭りも浮…

トトロ
1年前
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夕暮れの飛行機雲 ⑤(小説)

 そういえば、祐樹は声がとてもよかった。  張りがあって艶艶している感じ?  特に声変わりしてからというものは、そこに包み込むような優しさも加わってその魅力的だっ…

トトロ
1年前
5

夕暮れの飛行機雲 ④(小説)

 新緑がまぶしい土手の上の桜並木を、僕はやや速い速度で走る。  田舎の、そして初夏の匂いがする。  カラッとした風は涼しいくらいで、汗も滲んでこない。だんだんペ…

トトロ
1年前
3

夕暮れの飛行機雲 ③(小説)

 祐樹、かっこよかったな。  私は家へ帰る道で何度もそう思った。カーネーションの鉢を抱えているけど重たいというほどではない。  紺色のナイキのトレーニングウエア…

トトロ
1年前
1

夕暮れの飛行機雲②(小説

記憶障害、ってほどでもないけれど、ときどき自分がどこにいるのかわからなくなる。  立ち止まったときに、自分がどこへ行こうとしていたのかわからなくなったり、なぜ自…

トトロ
1年前
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夕暮れの飛行機雲①

 五月の風がバラの香りを運んできた。 隣の家のおばさんはバラづくりが趣味で、毎年この季節になるとむせるようなバラの香りが私の家の庭まで届いた。  とはいってもこ…

トトロ
1年前
4

童話を書いてみた

何年か前に書いた童話を書き直してみました。 当時は完成した話しだと思っていたけど、いろいろ読みづらい所も見つかって・・・ 自分ではだいぶよくなったと思います。 時…

トトロ
1年前

電子書籍が出ます。小中学生をもつ親御さんにぜひ読んで欲しいです。


https://www.amazon.co.jp/dp/B0B782G21P

トトロ
1年前
1

 怠け者のサトウさんを変えたものは

 五月のある晴れた日のこと。  サトウさんはいつものように庭のベンチに座ってぼんやりしていると玄関のベルが鳴りました。  たいていセールスの人しかたずねてこないの…

トトロ
2年前
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とかげと兵隊さん

 砂漠の真ん中の小さな小屋に若い兵隊さんが一人で住んでいました。  兵隊さんの仕事は小屋の横の見張り台から国境を見張ることです。  となりの国から侵入しようとする…

トトロ
2年前
4

海辺の美容室

 その美容室は急な坂の途中にありました。  お客がドアベルを鳴らして店に入ると、少し太めで花柄のエプロンをしたおかみさんが 「いらっしゃい。お疲れでしょう」 とニ…

トトロ
2年前
1

ミュウがいた日々

 目覚めたとき「いい夢だったな」と私は思った。  こんな夢を見たのは何年ぶりだろう。  幸せな気分を忘れないように何度も同じ夢を反芻する私。  それは中学の同級会…

100
トトロ
2年前
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フィルムが止まった

 午後8時。久々に服でも眺めるかな。  巨大なターミナル駅からファッションビルに繋がる通路を僕は歩いていた。  ロータリーに置かれたキャラクターのオブジェから放つ…

100
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2年前
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海に浮かぶ月

踏切の向こうに青い海が見える。  そして水平線から伸びる入道雲。  夏の暑さと共鳴しているかのように、カンカンカンとかん高い警報機が鳴り響いている。  僕は遮断機…

100
トトロ
2年前
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夕暮れの飛行機雲 ⑧(小説)

 十年前からこの町はほとんど変わらない。
 駅前の商店街の店はシャッターを下ろす店が少し増えただけで、新しい居酒屋とカフェがそれぞれ一軒できただけ。それだけだ。
 時の流れから取り残されたように、今も人々は穏やかな暮しを守っている。
 実家に帰ってから私は、あまりに時の流れが遅く感じ、何度も時計を見る。
 なんて太陽はゆっくりと一番高いところまで上っていき、そして沈むのだろう。夜ともなれば、その

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夕焼けの飛行機雲 ⑦(小説)

夕焼けの飛行機雲 ⑦(小説)

夕暮れの飛行機雲 ⑦

 どうしたらいいんだろう。
 僕は実家の自分のベッドに仰向けになり、天井を見ながら考えた。
 部屋は僕が高校生の頃とぼほ一緒だった。
 ほとんど家に帰らないんだし、机もベッドも本棚も片づけていいよ、と母に言っているのだが、いつ来ても無くならずに同じ場所にあった。強くなることにあこがれて貼ったジャッキーチェンのポスターもそのままだ。
 真理の痩せて元気がない顔が頭から離れな

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夕暮れの飛行機雲 ⑥(小説)

夕暮れの飛行機雲 ⑥(小説)

 夕焼けの飛行機雲 ⑥

 川べりの並木道の緑が濃さを増すにつれ、クラスも受験の雰囲気へと変わっていった。
 今年の夏はきっと、家族での一泊旅行もなく、夏祭りも浮かれ気分では行けないに違いない。去年、ゆかたと帯を新調したばかりなのに・・・
 私は来年の春に迫る高校受験を前にして気が重い日々を送っていた。
 夢見がちだった将来も現実の路線に軌道修正しなければいけない。偏差値という名前だけ知っていた言

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夕暮れの飛行機雲 ⑤(小説)

夕暮れの飛行機雲 ⑤(小説)

 そういえば、祐樹は声がとてもよかった。
 張りがあって艶艶している感じ?
 特に声変わりしてからというものは、そこに包み込むような優しさも加わってその魅力的だった。
 私は「声、いいね」なんて、とても恥ずかしくて言えなかったけど。
 本人にはその自覚がないようで
「今日、後ろの席の女子に、声優になれば?なんて言われたんだ。何でかな?」
 なんて、本当に理由がわからないって調子で言ったりした。
 

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夕暮れの飛行機雲 ④(小説)

夕暮れの飛行機雲 ④(小説)


 新緑がまぶしい土手の上の桜並木を、僕はやや速い速度で走る。
 田舎の、そして初夏の匂いがする。
 カラッとした風は涼しいくらいで、汗も滲んでこない。だんだんペースを上げていく。
 小さな孫を散歩させているおばあさん、ベビーカーを押す若いお母さん、ウォーキングしているおじいさん。いろんな人とすれ違う。みんなそれぞれのペースで散歩を楽しんでいた。
 やがて左手に水色の欄干の大きな橋が見えてきて、

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夕暮れの飛行機雲 ③(小説)

夕暮れの飛行機雲 ③(小説)

 祐樹、かっこよかったな。
 私は家へ帰る道で何度もそう思った。カーネーションの鉢を抱えているけど重たいというほどではない。
 紺色のナイキのトレーニングウエアの上からも、ほどよく筋肉がついているのがわかった。健康的な二十代の若者の見本のようだった祐樹。
 小さな頃は私よりもずっと背が低くて、手も足も棒切れのように細かったってけ。私の三倍は風邪をひくことが多かったように思う。
 そんな祐樹がどん

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夕暮れの飛行機雲②(小説

夕暮れの飛行機雲②(小説

記憶障害、ってほどでもないけれど、ときどき自分がどこにいるのかわからなくなる。
 立ち止まったときに、自分がどこへ行こうとしていたのかわからなくなったり、なぜ自分がこれをやり始めたのかわからなくなったり。まるで八〇才過ぎのおばあさんみたいだ。
 病院の先生は「一時的なものですよ。だんだんそんな症状は出なくなっていくので大丈夫。」と言っていたけど、一向によくなる様子はない。でも、どうでもいいや。未来

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夕暮れの飛行機雲①

夕暮れの飛行機雲①

 五月の風がバラの香りを運んできた。
隣の家のおばさんはバラづくりが趣味で、毎年この季節になるとむせるようなバラの香りが私の家の庭まで届いた。
 とはいってもこの香りをかぐのは五年ぶりかな。
 去年は病院で、その前の年までは結婚して別の土地に住んでいたから。
 天国もこんなバラの香りで満たされているといい。映画で見る天国は花がいっぱいで、みんな白い服を着て天使なんかもいる。
 最近はすごく身近に

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童話を書いてみた

何年か前に書いた童話を書き直してみました。
当時は完成した話しだと思っていたけど、いろいろ読みづらい所も見つかって・・・
自分ではだいぶよくなったと思います。
時間があったら読んでください。

電子書籍が出ます。小中学生をもつ親御さんにぜひ読んで欲しいです。


https://www.amazon.co.jp/dp/B0B782G21P

 怠け者のサトウさんを変えたものは

 怠け者のサトウさんを変えたものは

 五月のある晴れた日のこと。
 サトウさんはいつものように庭のベンチに座ってぼんやりしていると玄関のベルが鳴りました。
 たいていセールスの人しかたずねてこないので、いつもなら無視するところですが今日はそうもいきません。
 なぜなら玄関から、サトウさんのいるベンチは丸見えだったからです。おまけにその訪問客とサトウさんは目が合ってしまいました。
「こんにちはー。おじいさん」
 お客は大声でおじいさん

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とかげと兵隊さん

とかげと兵隊さん

 砂漠の真ん中の小さな小屋に若い兵隊さんが一人で住んでいました。
 兵隊さんの仕事は小屋の横の見張り台から国境を見張ることです。
 となりの国から侵入しようとする人がいたら警報を鳴らしてやめさせなくてはなりません。
 もともととなりの国は兵隊さんの国と同じ国だったので、本当は兵隊さんもそんなことはしたくないのですが、仕事なので仕方ありません。
「つらい仕事だなぁ。貧しくて仕事を求めてやってくる人を

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海辺の美容室

海辺の美容室

 その美容室は急な坂の途中にありました。
 お客がドアベルを鳴らして店に入ると、少し太めで花柄のエプロンをしたおかみさんが
「いらっしゃい。お疲れでしょう」
とニコニコしながらむかえてくれます。
 そして他にお客がいないときはよい香りがするハーブティーを出してくれます。
 お客は登山かと思うような坂道をよっこらしょよっこらしょと登って来たものですから、出されたハーブティーがそれはおいしく感じられる

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ミュウがいた日々

ミュウがいた日々

 目覚めたとき「いい夢だったな」と私は思った。
 こんな夢を見たのは何年ぶりだろう。
 幸せな気分を忘れないように何度も同じ夢を反芻する私。
 それは中学の同級会。
 私のまわりには2,3人の男子がいる。
「聞いたんだけど、おまえの行っている大学、いいとこなんだって」
「へー、そうなんだ」
 べつの男子が言う。
 私はそんなことなにのにな、勉強しても三流の大学しか入れなかったのに。どこからそんなデ

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フィルムが止まった

フィルムが止まった

 午後8時。久々に服でも眺めるかな。
 巨大なターミナル駅からファッションビルに繋がる通路を僕は歩いていた。
 ロータリーに置かれたキャラクターのオブジェから放つ鮮やかな光や木々に点けられた青い電球や付近のビルの窓からの白い光。そしてごった返す人並でテーマパークか何かにいるような気分だ。

 遠くから生の歌声が聞こえた。

 歩いていくうちに次第に大きくなる若い女性の歌声。
 かなりうまい。
 の

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海に浮かぶ月

海に浮かぶ月

踏切の向こうに青い海が見える。
 そして水平線から伸びる入道雲。
 夏の暑さと共鳴しているかのように、カンカンカンとかん高い警報機が鳴り響いている。
 僕は遮断機ごしに海を見ながら電車を待っていた。
 太陽なほぼ真上から照りつけている。
 暑っ!
 僕は思わず口に出した。
夏はここ2,3日「最後のあがき」のように35度以上の高温を叩き出していた。
 
 バイトの帰りだった。
 春から始めた駅前のカ

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