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法曹の末席の戯言

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法曹の末席として、独り言と戯言をつぶやいています。
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AIの透明性に関する考察・提案とChatGPT

AIの透明性に関する考察・提案とChatGPT

ChatGPTなど生成AIの勃興もあり、AIのガバナンスや倫理的・法的な問題が盛んに議論されています。そのような中で、昨年度、東京大学公共政策大学院の社会人プログラムにおいて、AIの透明性に関する議論を整理し、一つの提案をまとめることができました。今回は、その概要を整理し、ChatGPTに関しても考察を加えてみます。
(論考の日本語本文はこちら・英語はこちら)

3行まとめ「AIアルゴリズムの透明

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食べログの裁判例から考えるアルゴリズムの透明性と公正性(特にBtoCプラットフォーム)

食べログの裁判例から考えるアルゴリズムの透明性と公正性(特にBtoCプラットフォーム)

先週、大手グルメサイト「食べログ」を運営する「カカクコム」に対し、チェーン店であることを理由に不当に食べログ上の評価点を下げられたとして、焼き肉・韓国料理チェーン店を展開する「韓流村」が約6億4000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が出た。裁判所は、食べログの独占禁止法違反(優越的地位の濫用)を認め、損害賠償として3840万円の支払いを命じた。一方で、当該アルゴリズム使用の差止請求は認められなかっ

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反ワクチン本がAmazonから削除されたことが意味する本当の危険性

反ワクチン本がAmazonから削除されたことが意味する本当の危険性

つい数日前、以下のツイートを見て、いわゆる「反ワクチン本」の一つがAmazon.co.jp(以下「Amazon」)のランキングから消え、取扱い自体がなくなったことを知りました。

sekkai氏は学生時代から付き合いのある、心から尊敬している友人の一人であり、彼の問題意識から出た行動が大きく社会を動かしたこと自体は称賛に値するものだと考えています。
しかし、法曹の端くれとしては、アマゾン社による対

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「言論検閲なしSNS」を謳うParler(パーラー)は必然的に配信停止に陥った

「言論検閲なしSNS」を謳うParler(パーラー)は必然的に配信停止に陥った

[追記: 2021年1月12日19時40分]
AWSのメール文章とParler内でどのような投稿があったのかが米国で報道されているため、その点文末に追記しました。
[追記終了]

トランプ支持者を始めとして多くの保守系のユーザーが利用していたParlerというSNSがGoogle, Appleのアプリストアから配信を停止させられ、さらにはAmazonからもウェブホスティングサービスの利用を停止させ

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ドコモ口座問題と本人確認手続/KYCのあり方について

ドコモ口座問題と本人確認手続/KYCのあり方について

NTTドコモ提供の電子決済サービス「ドコモ口座」からの不正出金問題について、既に様々な専門家が問題点や防衛策を提示されていますが、アルゴリズム社会におけるプライバシーとセキュリティに強い関心を持つ法曹の身として、後学のためにも各プレイヤーの契約関係と本人確認手続に関する論点を整理してみたいと思います。

1.ドコモ口座の概要について「ドコモ口座」とは、公式サイト上では、「ネットやアプリ上で送金やお

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CCPA規則の全文日本語訳

CCPA規則の全文日本語訳

2020年1月1日から施行されているCCPA(米国カリフォルニア州の消費者プライバシー法)ですが、先日8月14日に州行政法局(OAL)が最終執行規則案(以下「CCPA規則」)を承認し、いよいよ現実に執行が可能になりました。

CCPAへの準拠だけでも色々と苦慮されている事業者も多いかと存じますが、このCCPA規則は、単に細かな執行関連の事項を定めているのではなく、①CCPAには言われていなかったよ

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「忘れられる権利」について~直近の東京高裁逆転判決を題材に~

「忘れられる権利」について~直近の東京高裁逆転判決を題材に~

今週月曜日(6月29日)、東京高裁があるツイートの削除請求をめぐり、地裁判決を覆し、原告逆転敗訴(ツイートの削除を認めない)の判決を出しました。Twitterの検索で過去の逮捕歴が表示され、人格権が侵害されたため削除を求めるという原告の主張は、東京地裁では認められましたが、この控訴審によって削除が認められなくなったということです。(これ以降、今回のツイートの削除請求に関する事件を便宜上「Twitt

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SNS上の誹謗中傷への規制のあり方

SNS上の誹謗中傷への規制のあり方

『テラスハウス』に出演していた木村花さんが、SNS上での誹謗中傷を受けて自殺したのではないかとされる問題で、SNS上の誹謗中傷に社会がどう立ち向かうべきかが話題になっています。

与野党も迅速にこれに反応し、「憲法が保障する「表現の自由」に配慮しつつ、海外の事例を参考に、SNSのサービスを提供するプラットフォーマーと呼ばれるIT企業に一定の責任を課す方法や、誹謗中傷した人への罰則を設けるなど法整備

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いったい検察庁法改正案の何に抗議しているのか

いったい検察庁法改正案の何に抗議しているのか

【2020.05.12[21:34] 改正案の内容について整理表を追加しました。また勤務延長の読み替えへの言及がわかりにくいということでその点も整理表とともに説明を加えました。】
【2020.05.10[23:05] 附則について末尾に追記しました】

昨晩からものすごい勢いで、「#検察庁法改正案に抗議します」タグが伸び、ずっとトレンドに入っているのですが、法曹の端くれとしましては、正確に何に抗議

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スタートアップへの魅力的な「金銭以外の投資」のあり方を考える

スタートアップへの魅力的な「金銭以外の投資」のあり方を考える

 僕が所属する弊所(法律事務所ZeLo・外国法共同事業)のクライアントには、上場企業のみならず、スタートアップも少なくない。これまで100社近くのスタートアップにアドバイスしてきた中で、非常に要望の多い「金銭以外の投資」のあり方について、思考の整理のためにも本記事を執筆した。
 まずはもう少し、この「金銭以外の投資」という要望について、詳しく述べる。

 以下の図のとおり、スタートアップに限らず、

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緊急事態宣言に基づく外出自粛要請に法的拘束力がない理由

緊急事態宣言に基づく外出自粛要請に法的拘束力がない理由

いよいよ、新型コロナウィルス対策特措法に基づく緊急事態宣言が発令されます。
この宣言がされることにより、法的根拠に基づいて、国民に対し、不要不急の外出自粛要請が可能になります。
そして、対象地域として指定された都道府県の知事は、社会機能(特に医療機能)の崩壊を防ぐため、外出の自粛要請に加えて、学校や映画館、飲食店などの施設の使用停止や制限等の要請・指示、医薬品などの強制収用などが可能になります。

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AIによる契約書レビューの現在地とこれから

AIによる契約書レビューの現在地とこれから

クリスマスのLegalACこんにちは、とんふぃです。
この記事は、裏法務系Advent Calendar 25日目の記事で、STORIA法律事務所の菱田昌義先生の大変学びの多い記事「これ絶対に言わないでくださいよ!企業法務のためのデジタル・ライフハック集」からのバトンとなります。(クリスマスに何してるねんというツッコミ、ありがとうございます!察してください!!)

今回は、リーガルテックの現在地、

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法律事務所の経営に関するアメリカのレポートがとても面白いので、抜粋和訳しました。

法律事務所の経営に関するアメリカのレポートがとても面白いので、抜粋和訳しました。

Clioという北米のローファーム向けコンサル会社が今年も「Legal Trends Report 2019」を発表しました。

Legal Trend Reportでは、大きく、①法律事務所の成長と衰退の原因、②クライアントが法律事務所をどのように選択しているか、という観点から分析を行い、それぞれの結論を支える様々なデータや実証実験が公開されています。

やはり内容が非常に面白く、せっかくなので多

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就職先(としての法律事務所)の選び方

就職先(としての法律事務所)の選び方

司法試験が先月終わり、いよいよ就職が気になりはじめる方も多くなる時期かと思います。
すでに司法修習も折り返しに入っている時期ですので、72期の方は余計に。

Readyforにいらっしゃる弁護士の草原先生が「弁護士事務所の選び方」という素敵なエントリーを出されており、僕も良い機会ですので、少し珍しいキャリアを選んだ身として、考えをお伝えしたいと思います。
(なお、ちょうど同時期に就職活動をしていた

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