見出し画像

メロンソーダの味、あの夏の微笑み【ショートショート】

その夏、僕らはメロンソーダの味を覚えた。思い出すのは、あの青空と君の微笑み。緑色の泡に、冷たい氷の感触。そんな些細なことが、僕らの心に深く刻まれている。

君と出会ったのは、昼下がりのラムネ売りの店。太陽は煌々と輝き、街はまばゆい光で溢れていた。店の棚に並んだ瓶詰めのラムネを見つめていた君の視線は、まるで小鳥が虹色の羽根を眺めるようだった。

そして、君はメロンソーダを選んだ。僕も同じものを選び、君と並んでベンチに座った。

初めて君がその瓶を開けた瞬間、ソーダが泡立つ音が静寂を切り裂いた。それが夏の始まりだった。

僕らは緑色の液体を口に含むと、すっと涼しげな甘さが広がり、暑さを忘れさせてくれた。ほんの一瞬だけど、あの瞬間は永遠のようだった。君の頬が緩み、目がキラキラと輝いていた。

それからというもの、僕らは毎日のようにメロンソーダを飲んだ。甘い緑色の液体は、夏の暑さと戦うための武器だった。それは緑の海に浮かぶ小島のようで、太陽の下で眩しく輝いていた。

僕たちの関係は、そのメロンソーダとともに育っていった。毎日、違う話をして、笑い合った。

ある日、君が家族のことを話してくれた。彼らのことを思い出すと、君の目が少し潤んだ。僕は何も言わず、ただそばに座っていた。その時のメロンソーダの味は、いつもより少しだけ甘く感じた。

夏が過ぎて、秋風が吹くようになった時、君は微笑みながら言った。「メロンソーダの緑色は、夏の終わりを告げるようだ」と。僕は答えず、ただ微笑んだ。

君が微笑む度に、心の中に静寂が広がった。その微笑みは、僕の心を満たしていた。それが君の魔法だった。

冬になると、僕らの間には雪が積もり始めた。君の頬は赤く、僕の心は白くなった。

それでも、君の微笑みは変わらず、僕の心を暖めてくれた。ある日、雪の中で君が笑顔で雪玉を投げてきた。僕は驚いて反撃し、二人で笑いながら雪の中で遊んだ。その時も、メロンソーダの味が蘇った。

春になると、花々が咲き乱れ、僕らの心も満開になった。僕は君の微笑みを思い出し、心が満たされていくのを感じた。

そして、再び夏が訪れた。昼下がりのラムネ売りの店には、新たな味が並んでいた。けれど、僕らはまたメロンソーダを選んだ。その瓶を開ける瞬間、僕らは一年前の夏を思い出した。

甘さと炭酸のキレが混ざり合い、記憶が溶けていく。君が微笑むと、緑色の海が目の前に広がった。

瞬間、心は静けさに包まれ、時間だけがゆっくりと流れていた。僕らはまた、夏の暑さと戦うためにメロンソーダを飲み続けた。涼しげな甘さが心地よく、君の笑顔が僕の心を満たした。

次の秋が来た時、君は再び微笑んだ。「メロンソーダの味は夏の終わりを告げるようだ」と。僕は何も言わず、ただ微笑んだ。

冬になり、雪が積もると、君の頬は再び赤く、僕の心は白くなった。それでも、君の微笑みは変わらず、僕の心を暖めてくれた。

春が来て、花が咲き、僕らの心は再び満開になった。そして、次の夏が来ると、僕らはまたメロンソーダを選んだ。

繰り返される季節と、その都度選ばれるメロンソーダ。そして、それに連なる君の微笑み。変わらぬ日々が続く中で、唯一変わることのないものが、僕らの心を静かに満たしていく。

そして、僕らは知った。メロンソーダの味は、ただの飲み物ではなく、一つの思い出、一つの約束。そして、君の微笑みは、ただの笑顔ではなく、一つの安心、一つの希望だった。

季節が巡り、僕らが成長し、世界が変わっても、僕らの心の中にあるメロンソーダの味と、君の微笑みだけは、いつまでも変わらない。それは僕らが、これまでに生きてきた証であり、これからも生きていく力である。

その夏、僕らはメロンソーダの味を覚えた。そして、それは僕らの永遠の思い出になった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?