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読書のお部屋

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#読書感想文

おじさんのかさ

おじさんのかさ

朝から雨が降っている。ウサギは窓の外を見つめ、小さくため息をついた。「雨の日が嫌いってわけじゃないんだけどね」灰色に煙った外の景色は、いつもより少し寂しく見えた。

「こんな日には、あの絵本が読みたいわ」
彼女は窓から離れて、小さな本棚の前に立った。揺れる瞳で背表紙をなぞると、その中から一冊の絵本を取り出した。そして窓辺に腰を下ろすと、柔らかい雨音を聴きながら、ゆっくりとページをめくり始めた。

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ものぐさトミー

ものぐさトミー

「おはようございます。ウサギのティースプーンのお時間です」小さなラジオブースの中で、ウサギはいつものように元気な声で番組を始めた。その日はリスナーからの質問に答えるコーナーが用意されていた。

「次の質問は、ラジオネーム『図書館大好きなカメさん』からです。『もし、こういうものがあったら欲しい、というものがあったら教えてください』という質問をいただきました」ウサギはリスナーに向けて話し始めた。

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つきのぼうや

つきのぼうや

その夜、ウサギはベランダに立ち、そっと夜空を見上げた。そこには細く優雅な三日月がぽつんと輝いていた。彼女はどこか寂しげに微笑んだ。街明かりが強すぎて、星の姿はほとんど見えない。月だけがひとり夜空に取り残されたように見えた。

「こんな夜には、あの本が読みたいわ」彼女はそう呟くと部屋の中に戻った。小さな本棚の前に立ち、揺れる瞳で背表紙をなぞると、その中から一冊の絵本を取り出した。

窓辺に腰をおろし

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わゴムは どのくらい のびるかしら?

わゴムは どのくらい のびるかしら?

きのうの夜、図書館でその本を読んでいたカメくんが私に言ったの、「輪ゴムってどれくらい伸びると思う?」って。そう聞かれた時、私は何も考えずに答えてしまった。「そうね、20センチくらいじゃないかしら?」と。

その時よ、自分がつまらない大人になってしまったのではないかと思ったのは。だから、その本を受け取り一人で図書館を後にした。少し混乱していた私は、直ぐにはその本を読めなかったわ。

朝が来て、読み始

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もっと おおきな たいほうを

もっと おおきな たいほうを

ウサギはラジオの仕事を終えると、急ぎ足で駅へ向かった。飛び乗った電車の窓からは、夕暮れの景色が、心地よいリズムを刻んで流れていく。やがて小さな駅に到着すると、彼女は静かに図書館へと足を向けた。

閉館間近で慌ただしい窓口を通り過ぎ、児童書コーナーに向かうと、求めていた本を探し始めた。彼女が手にしたのは、二見正直さんの「もっと おおきな たいほうを」という絵本だった。閲覧席に腰を下ろすと、最初のペー

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よかったね ネッドくん

よかったね ネッドくん

その日、カメが図書館の静けさの中で本の海に潜っていると、肩を落としてトボトボと歩くウサギが現れた。彼女の表情は曇りガラスのように霞がかかっており、どこか彼女の不運を物語っていた。

彼女は細い身体を、力なく閲覧席の椅子にあずけると、小さな声で話し始めた。「長い列に並んだのに、買いたかったスイーツが目の前で売り切れてしまったの。私はこの星の中で一番の不幸な人なの」

カメはそんな彼女に、「ウサギさん

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あの時の日記帳

あの時の日記帳

その日、カメは部屋の本棚から一冊の日記帳を取り出した。ページをめくると、あの時の記憶が鮮やかに蘇ってくる。

今日、図書館で返却作業をしていたら一冊の絵本に出会った。表紙には砂漠を横切る孤独な道と、その道をひたすら歩く旅人の姿があった。一旦ページをめくり始めると、その指は途中で止まることはなかった。

その旅人はバスを待っていた。馬に乗った人が通り過ぎても、自転車に乗った人が通り過ぎてもバスは来な

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1つぶのおこめ

1つぶのおこめ

その日、図書館に辿り着いたウサギは、窓際の閲覧席でページをめくっていたカメのもとへ急いだ。彼女は静かにカメに問いかけた。「心を澄ませるような本が読みたいんだけど」カメは一瞬考えをめぐらせた後、彼女の意図を尋ねることなく、黙って手元の絵本を差し出した。

絵本を受け取ったウサギは、彼の隣にふわりと腰をおろすと、ページをぱらりと開いた。そして魔法に掛かったように、夢中でページをめくり続けた。最後のペー

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ふしぎなたけのこ

ふしぎなたけのこ

その日、ウサギは駅へと続くいつもの道を軽やかに歩いていた。道の両側には若葉がきらめく木々が立ち並び、風が穏やかに吹いていた。彼女はその風に長い髪を揺らしながら、こんもりと繁る竹林に差し掛かった。

ウサギはふと足を止めて、竹林を見つめた。彼女の目の前のたけのこは、数日前に見た時よりもずっと大きくなっていた。「こんなに早く大きくなるものだったかしら?」と彼女は心の中で問いかけた。その小さな疑問は、静

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しずくのぼうけん

しずくのぼうけん

今朝は雨が降っている。ウサギは部屋の窓辺に座り、じっと雨の音に耳を傾けていた。彼女の目の前で窓ガラスを伝う水滴は、それぞれが小さな旅をしているかのようにゆっくりと動いていく。窓から見えるいつもの景色は、雨の日は少し特別に見える。彼女は、そんな雨の日が好きだった。

ウサギはふと思い出したように、本棚から一冊の本を取り出した。「雨の日に読むなら、この本だね」と彼女は呟いた。その本の表紙には、一輪の赤

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おおきな木

おおきな木

その日、ウサギは足元に視線を落としながらカフェに辿り着いた。ひとつ小さく息を吐くと、何かを吹っ切るようにドアを開けた。店の奥で本に視線を送っているカメの姿を見つけると、彼女は少しだけ笑みを浮かべた。

カメの前に座ったウサギは、しばらくの間、ページをめくるカメの指を見ていた。やがて「優しい気持ちになれる絵本が読みたいわ」と独り言のように呟いた。彼はゆっくりと視線を上げると、ウサギの瞳を見つめた。

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サピエンス全史

サピエンス全史

寒さが続き、桜がなかなか咲こうとしないその日、ウサギは図書館の閲覧席で画集のページをめくっていた。彼女のお相手をする本は10分おきにくるくると変わっていた。

一方、その隣でカメは身体を微動だにせず、一冊の本に視線を送り続けていた。 「カメくんったら、さっきから銅像のように固まっているけれど、何を読んでいるの?」とウサギは彼の手元を覗き込んだ。

カメはゆっくりと緊張を解き、読んでいた本の表紙をウ

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パパの電話を待ちながら

パパの電話を待ちながら

少しばかり強い南風が、カフェのテラス席でカメの読む本のページをカサカサと揺らしていた。彼がふと視線をあげると、アールグレイを二つトレイに乗せたウサギが、微笑みながら静かに近づいてきた。

彼の隣に座り、「どうぞ」と、紅茶を差し出したウサギは、小さなリュックから一冊の本を取り出した。「この本、とても面白かったわ。私に新しい世界線を見せてくれたの。前に歩くエビとか、猫を食べるネズミとか……」

カメは

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じいじのさくら山

じいじのさくら山

図書館の児童コーナーで、ウサギはゆっくりとその絵本を閉じた。瞳に押し寄せてきた涙のせいで、彼女の視界はぼんやりと滲んで見えた。「カメくん、ずるいわ。こんなに私を泣かすなんて」彼女は以前カメに拾ってもらったハンカチで、静かに涙を拭った。

「桜の季節にピッタリの絵本を読みたいの」そう言ったのはウサギだった。カメはしばらく考えた後「これがいいと思うよ」と彼女に一冊の絵本を紹介した。それが、松成真理子さ

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