つきのぼうや
その夜、ウサギはベランダに立ち、そっと夜空を見上げた。そこには細く優雅な三日月がぽつんと輝いていた。彼女はどこか寂しげに微笑んだ。街明かりが強すぎて、星の姿はほとんど見えない。月だけがひとり夜空に取り残されたように見えた。
「こんな夜には、あの本が読みたいわ」彼女はそう呟くと部屋の中に戻った。小さな本棚の前に立ち、揺れる瞳で背表紙をなぞると、その中から一冊の絵本を取り出した。
窓辺に腰をおろし、ゆっくりページをめくり始めた彼女の手元を、月の光が柔らかく照らしていた。
ある晩のこと、地上を見下ろしていたお月様は、池の中にもう一人の「お月様」がいることに気づいた。友だちになりたいと考えたお月様は、つきのぼうやに「連れてきておくれ」と頼んだ。
つきのぼうやは、ふわりと地上に降りていった。 降りていく途中で星を蹴飛ばしてしまうと、星は流れ星になった。雲で休もうとしたぼうやは、雲が柔らかすぎてそのまま抜け落ちてしまった。
地上に向けてさらに降りていったぼうやは、飛行機に出会い、渡り鳥の群れに紛れ込み、風船とにらめっこをした。そして、海の底まで辿り着いたぼうやは、とうとうもう一人の「お月様」を見つけた。
「お月様は動くことができないから、つきのぼうやに頼ったけれど、友達を作って仲良くするには、自分から動かないとね」
ウサギは絵本を閉じ、スマホを取り出した。額に人差し指をあて、少し考えてからカメにメッセージを送った。
「今夜は月明かりが綺麗だから会いたいわ」
ウサギはメッセージを送り終えると、再びベランダに戻り夜空を見上げた。月はまだそこにあって、静かに彼女を見守っているようだった。彼女はゆっくりと深呼吸をすると、これから始まる新しい物語に思いを馳せた。
※ つきのぼうや
イブ・スパング・オルセン さく・え/
やまのうち きよこ・やく/福音館書店
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