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土竜のひとりごと

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エッセイです。日々考えること、共有したい笑い話、生徒へのメッセージなどを書き綴っています。
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2021年4月の記事一覧

第214話:社会の窓

第214話:社会の窓

[ 日本語雑話:間接表現 ]

I love you.

これは多くの人間の関心事だが、ネットの情報によれば、二葉亭四迷がこれに相当するロシア語(「Ваша」=英語「Yours」=日本語「あなたのもの」に相当)を「死んでもいいわ」と訳したとされる。

夏目漱石が、学生が訳した「I love you.」を『月がきれいですね』と言うべきだと言ったという話はあまりに有名であるが都市伝説という説もある。

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第155話:れんげみち:父の死

第155話:れんげみち:父の死

その日 僕の道を
陽があたたかく照らしていた

春が春らしく輝き始めた
田んぼのあぜ道

れんげが一面に咲いていた

おばあちゃんが乳母車を押し
おじいちゃんが鍬をかつぎ
おやじの引くリヤカーを
おふくろが押し
そうして時が
静かに流れていた

決して楽とは言えず
決して豊かでもなかったが
ただ静かに時は流れ
人のために生きることが当たり前だった
限りない
そして無自覚な善良が
そこにはあった

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第134話:宿世の授業

第134話:宿世の授業

■ 前世と現世と来世

みなさんは、たぶん誰でも「自分が死んだらどうなるか」って考えたことがありますよね。
「死んだらなくなっちゃう」と現代文明を生きているみなさんは、これもたぶん誰でも知っているわけですが、でも一方で、「悪いことをすると地獄に堕ちてしまう」なんて思ったりもし、「もし生まれ変わったとしても君を愛する」などという世迷い言を恋人たちはささやくいたりもします。

霊魂や精神は死滅せずに違

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第121話:ふうらり生きる

第121話:ふうらり生きる

これはくだらなすぎる話なので、ぜひ素通りしていただきたい。

毎年、冬休みに入ると年賀状との悪戦苦闘が始まる。印刷やパソコンで作れば楽なのだが、何だかそれではいけないような気がして版画を彫ったりしているからである。
版画は小学校以来続けていて、昔はそれなりに凝ったりもしたのだが、ここ数年は百何十枚もゴシゴシ刷る気力がなくなり、2、3枚刷って、できのいいやつをプリントゴッコにかけて量産している。全く

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第13話:彼は私を犇と抱き締めた

第13話:彼は私を犇と抱き締めた

だいぶ前のことになるが、車でラジオを聴いていたら、ある有名女優がある漢字を読めなかったという話をしていた。

テレビドラマのシナリオの台詞の読み合わせの際、その有名女優の台詞に
「彼は私を犇と抱き締めた」
というのがあったそうだ。

実はこれは「ヒシ」と読む。「犇めく(ひしめく)」であればもう少し分かりやすいかもしれない。彼は彼女を力強く「ひし」と抱き締めたのだろう。
この字をその女優は読めなかっ

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▲第139話:定時制高校野球部

▲第139話:定時制高校野球部

[ これは定時制に勤務していた頃に書いたものです ]

日本人は野球が好きで、野球には格段の思い入れがあるようである。高校でも、今でこそその勢いはサッカーに押されつつあるが、野球部と言えば、夏の甲子園が全国放送されたり、地区予選には全校生徒を駆り出して応援に出かけたりと、非常に特別で「聖的」な匂いのする部活である。
野球部員と言えば、坊主頭に一年中真っ黒な顔をした見るからにスポーツマンをイメージす

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第197話:ジジイと娘たちの会話

第197話:ジジイと娘たちの会話

これは自分勝手な思い出話である。

卒業生と飲むのを楽しみにしてきた。が、コロナでこの一年はまったくそれができず寂しかった。年を取ったせいか、授業でも何かを教えようというよりも、一緒に遊んで将来の飲み友達を探しているような気分である。
とりわけ部活動のつながりは強く、前任校では8年間女子部の顧問をしていたので、その子たちとは毎年、忘年会やら機会をつかまえて飲み続けている。

去年もその卒業生たちが

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第170話:国語ができるようになる方法

第170話:国語ができるようになる方法

ある国語教師のつぶやき


国語ができるように
なりたいと思う人は、
考えてください。

考えることは
問うことです。

問うということは
疑問を持つということです。

自分の周りで起きる
様々な出来事に対して、
これはどうなのかと
疑問を発してください。


疑問を持つことは
批判するということです。

ただ素直に
人の言うことに
従っているだけでは、
人は考えない人間に
なってしまいます。

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第181話:セクハラ?

第181話:セクハラ?

*これは、ぜひ真面目な気持ちで読まないでください。

歳を取ると悪いこともたくさん起こるが、いいこともたくさんあって、簡単に言うと歳とともに「今さら別にどうでもいい」と思えることが多くなり何をするにも気が楽になってきた。

授業も寒いジャグを連発する。
例えば古典の助詞を説明するのに「助詞は現代語と同じ用法がたくさんあるから、現代にないポイントを絞って押えることが大事。これは女の子と付き合う時と同

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第150話:ドラマ

第150話:ドラマ

いつか寄席でドラマの作り方についての話を聞いたことがあった。単なる余談であり、その話を聞いたのも噺家からではない。極めて曖昧だが、概ねこんな話だった。

これがドラマであり、ドラマとは「驚き」そのものなのだと彼は言う。確かにこの話の「バナナが耳に刺さっている」という設定は驚きに値する。電車に乗っても街を歩いても、バナナを耳にさしている人を目にすることは、まずない。更に最後にオバアサンのひと言で、ド

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第147話:沈黙の艦隊

第147話:沈黙の艦隊

僕は漫画が苦手である。
別に気取っているのではなく、漫画を読み出すと「文字」を読むのが面倒になって「絵」だけを追いかけてしまい、そのうちに話の内容が分からなくなってホッぽり出してしまう。

というわけで、僕が読み通した漫画は二つしかない。

ひとつは、井上雄彦の「スラムダンク」。
桜木花道の人間がおもしろい。たぐいまれな才能を持っているだけではない。欠点だらけで鈍くさく、バカみたいに努力する。何よ

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